いまでは、多くのエージェンシーが、ブランドセーフティを確保するためブラックリストを擁している。しかし、新ドメインの作成が容易になるなか、広告のスピードにエージェンシーが対応できていないという。そのため、フェイクニュースやGoogleの広告スキャンダルを受け、ホワイトリスト戦略を検討するブランドは増えてきている。
専門広告エージェンシーのサイバーエイジア(Cyverasia)でデジタル広告オペレーションスペシャリストを務めるステラ・ジアン氏は、2017年の年明け早々からブランド向けにサイトのホワイトリストを作りはじめた。ポルノやテロリストの動画の横に広告が掲載されないようにするためのもので、華やかさはないがデジタル広告では極めて重要な仕事だ。ジアン氏は通常、キャンペーン第1週のあいだ、クライアント1件につき1日400~500の信頼できるサイトを、Google Adwordsを通じて手作業で選択。このプロセスに大抵3時間強をかけている。
「ホワイトリスト構築は実に長い時間を要する。Webサイトを手作業でクリックして、適切なサイトだと確認する必要があるからだ」と、ジアン氏は語る。同氏は現在3社のホワイトリスト作成に当たっているが、もともとはインターンだった。「最高に楽しい仕事ではないのは確かだ。1日の終わりには目が見えなくなりそうな気がする。だが、当社のキャンペーンが有効なトラフィックを呼び込むようにするためには、これが不可欠だと思う」。
キャンペーンは通常1カ月間続くので、ジアン氏は各キャンペーンのホワイトリストを更新する。ホワイトリストを決めるのは、ブランドではなくジアン氏や同氏のマネージャーだ。サイトが信頼できる適切なものかどうかの判断は主観的になることがある。ブラックリスト作成と似ているのだ。ブラックリストの場合、サイトを「ヘイトスピーチ」と見なすべきかどうかは、リスト作成者の政治スタンスによって左右される。大半のエージェンシーは左よりの傾向がある。ジアン氏自身は、政治に関心がないと述べている。
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増えるホワイトリスト戦略
この記事のために取材したエージェンシーとベンダーは、大半がホワイトリスト作りの専門職を設けておらず、請負業者、駆け出しのアナリスト、キャンペーンマネージャー、あるいはジアン氏のような広告オペレーションスペシャリストが担当していた。たとえばJPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)は、インターン1名に手作業で約5000サイトのホワイトリストを作成させたと報じられている。
いまでは、ほとんどのエージェンシーが、ブランドセーフティを確保するため世界規模のブラックリストを擁している。しかし、ブラックリストには問題点がある。新しいドメインの作成がかつてないほど容易になっているなか、稼働期間が極めて短い広告のスピードにエージェンシーが対応できていないのだ。そのため、フェイクニュースやGoogleの広告スキャンダルを受けて、ホワイトリスト戦略を検討するブランドは増えてきていると、この記事のために取材した情報源は語った。
「ホワイトリストは簡単に済ますこともできるが、デマンドサイドプラットフォームで過去の広告パフォーマンスを追跡し、第三者の検証プラットフォームを雇って自社専用のリストを作るなど、手間をかけることもできる」と、匿名のエージェンシー幹部は指摘する。「我々のエージェンシーは、一元化されたチームにブラックリストを管理させる一方で、各アカウントチームがホワイトリストを独自に管理してアプローチを判断している」。
ホワイトリスト戦略の懸念
ホワイトリストはブラックリストより好ましいが、ブランドセーフティをめぐる懸念に対する完璧なソリューションでもない。というのも、アドエクスチェンジが第三者のアドネットワークやほかのエクスチェンジと連動するのではなく、パブリッシャーのサイトに広告タグを直接配信するように取り組む場合を除き、エクスチェンジの広告タグにURLをハードコーディングすることによるインベントリー(在庫)のなりすましやごまかしが容易だからだ。現在、エクスチェンジにはこの流れを変える動機はないと、このエージェンシー幹部は説明した。
たとえば、広告タグがアドエクスチェンジからパブリッシャーへ、さらにアドネットワークへと渡された結果、アドネットワークはそのパブリッシャーが「信頼できるwebサイト」だと説明できる。たとえそれが事実でない場合でもだ。
「ブランドセーフティには、ディールID(一種の会員カード)を使ったプライベートマーケットプレイスがもっとも有効だ。次善の策が、ホワイトリストの運用となる。それができない場合は、最低限、ブラックリストを導入すべきだ」と、このエージェンシー幹部は述べた。
面倒くさがるマーケター
ホワイトリストを使う方がブラックリストよりリスクが小さいが、大きなブランドキャンペーンはホワイトリストでは間に合わない。また、エージェンシーの規模でも状況は変わる。アドテク企業ゲットインテント(Getintent)のCEO、ジョージ・ レビン氏は、「大きなエージェンシーは、面倒がって単一の大きなホワイトリストを使うことを好む」と語る。
ブランドがホワイトリストやブラックリストを採用しているかにどうかに関係なく、マーケターはブランドセーフティには依然として関わっていないようだ。ジアン氏の場合、クライアントがホワイトリストを調べることはほとんどない。「クライアントはいつも、キャンペーンが目標を達成しているかどうかしか気にしない。ホワイトリストについて我々に問い合わせてくることなど、めったにないのだ」と、ジアン氏は語った。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
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