CPA 高騰に苦悩する、ある D2C メディアバイヤーの告白:「CPAは上がりつづけている」

近年、D2Cブランド(Direct to Consumer)は新規顧客獲得のコスト上昇に直面している。それ傾向は、とりわけFacebookとインスタグラム(Instagram)で顕著だ。D2Cブランドを担当するメディアバイヤーにとっては、ブランドの期待といまのコストの現実を釣り合わせるのが難しくなっている。

匿名を条件に本音で語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、主にD2Cブランドと仕事をしているメディアバイヤーを迎え、CPA(顧客獲得単価)の上昇がD2Cブランド向けのメディアバイイングにもたらした変化や、新規顧客にフォーカスする姿勢を転換するのがなぜ難しく、今後さらに難しくなるのかを聞いた。

なお、文章量と読みやすさを考慮し、発言内容には多少編集を加えた。

──D2Cブランドのためのペイドメディア購入に、最近どんな変化が起きている?

ここ数年重視されてきたのは新規顧客の獲得コストだった。いましきりに話題にのぼり、注目されはじめているのは、ビジネスをスケール化するために本当に必要な利益だ。「FacebookとインスタグラムのROAS(広告費用対効果)が2倍を超えてさえいればスケールアップできる」というブランドもある。だが、広告を掲載し、ブランドの業態を理解するにつれ、それでは不十分だとわかった。スケールすればコストも全面的に上昇するからだ。eコマースの場合、すべては在庫ベースであり、売るべき在庫を確保するだけのキャッシュフローが必要だ。それに加えて、新規顧客を獲得するためのマージンも必要になる。これらすべてを考慮すると、ROASが2倍を超えているだけでは、スケール化に不十分だ。そこだけを見ていては多くの問題を抱えることになる。

──具体的には?

年間売上100万ドル(約1億円)程度からスケールアップし、500万~1000万ドル(約5億〜10億円)の範囲まで成長してから、300万~500万ドル(約3億〜5億)の売上のときの方が利益率が高かったと気づくブランドは多い。規模が拡大するほどCPAは上がり、バイヤーは少なくなる。最終的な収益に影響する変数はいくらでもある。我々はクライアントと仕事をするとき、全体的な財務状況の監査に多くの時間を費やしてから、ペイドソーシャルの財務状況を検討する。彼らはどれだけ利益が必要か十分に理解しているつもりなのだが、実際にはそれを大きく上回る利益が必要だ。そのため、メディアバイヤーが彼らに成功をもたらすのは難しくなっている。

──ブランドが過度な期待をしているから?

参入当初なら2倍以上のROASを期待するのは妥当だが、実際に利益を生むには3倍かそれ以上が必要だ。ROASにもっとも影響を与えている要因は、Facebookとインスタグラムの広告費が上がりつづけていることだ。CPAが上昇しているので、これまで新規顧客だけに注目して満足していたブランドも、2回目以降の購入(リテンション)や顧客生涯価値(LTV)といった、その他さまざまな指標を伸ばすため、ビジネスの見直しを迫られている。コストの上昇に伴い、中心戦略を練り直す必要があるのだ。

──そのような状況で、クライアントの期待にどう応えている?

リピート購入をより重視している。ブランドがまだ新規顧客獲得にこだわってマージンがあるようならば、まとめ買い割引や平均購入額を上げる商品を提案する。いまのD2Cブランドのサイトでは、広告からランディングページに移ると、まとめ買いや平均購入額の高い商品が表示される。CPAが上がりつづけているためだ。今後もますます高価になり、競争は激しくなる一方だろう。いま見直しを考えないと、状況はますます難しくなる。

──D2Cブランドは新規顧客に重きを置きすぎている?

100%その通りだ。ブランド構築をおろそかにしているD2Cブランドがあまりに多い。彼らはスケール化に熱を上げるばかりで、ブランドロイヤルティやブランドエクイティの構築に力を入れていない。だが、スケール化したときにブランドの成長の原動力になるのは、こうした要因なのだ。

──ブランドが新規顧客に固執すると、メディアバイヤーにどんな影響があるのか?

仕事がしづらくなるのは確かだ。通常のメディアバイイング以外に我々ができることは、ブランドにもっと多様なクリエイティブを試すよう促すことだけだ。キャンペーンがうまくいくかどうかを左右するのはクリエイティブであり、もっと言えば写真と動画だ。ブランド構築に投資している企業はクリエイティブが豊富で、オーガニックソーシャルを生み出し、コンテンツ制作に積極的で、ほかのブランドとのコラボレーションに長けている。彼らのこうした取り組みが、クリエイティブやメディアバイイングの側面のスケール化につながっている。

──Facebook、インスタグラム、GoogleのCPAが上昇するなか、D2Cブランドはほかのプラットフォームにより安価なCPAを求めているのか? だとしたらどこに?

一番はSnapchat(スナップチャット)だ。D2C市場に直接的なレスポンスをもたらす大きな存在で、2020年の第1四半期に向けて交渉中のブランドは多い。CPC(クリック単価)は1~2ドルだ。オーディエンスの層も異なる。同社が調査を行ったところ、ほかのプラットフォームとは利用者層がまったく異なっていた。D2Cブランドもそこに注目している。一部のブランドはピンタレスト(Pinterest)にも手を出して、様子を見ているところだ。YouTubeもますます存在感を増しているが、現段階ではトラフィック増加だけを目的とした利用が主体だ。Facebook単独では、トラフィック増加に限ってみても、以前ほど効果が上がらなくなっているのだ。

──コスト上昇に伴って、D2Cブランド界隈の意欲や成功の見込みも変化している?

間違いない。今後1~2年のうちに多くのブランドがコスト増に対応できず消えていくだろう。多くのブランドが創業以来ペイドソーシャルだけを頼りにしてきたが、彼らはコストの上昇に慌てふためいている。同業者と話しても、新規顧客獲得だけにフォーカスしてきたブランドは今後苦労するだろうと、意見が一致する。これまでは、新規顧客を重視するのが簡単で効果的なやり方として浸透していた。しかし、昨年創業したブランドは、たとえば4~6年前、CPAが非常に安かったときにスタートしたブランドに比べ、はるかに苦労している。

──D2Cブランドはコスト上昇に神経質になっている?

彼らはよりコストを気にして、広告支出を意識するようになっている。以前はいったんメディアバイヤーを雇ったら、たとえばROASが4~5倍というように結果が出ているかぎり、「もっと使え」という姿勢だった。いまでは結果が一定のラインを下回ると、明らかに動揺を示す。

──つまり、ペイドソーシャルは以前ほど簡単でも安価でもないという認識が広がっている?

どこを見渡してもコストは上昇している。CPMが上がり、CPCも上がった。何もかもだ。競争も激化した。100ドル(約1万円)の商品を売るブランドのCPAは、3~4年前は15~20ドル(約1500〜2000円)だったが、いまでは40~50ドル(約4000〜5000円)だ。これにより利益が大きく削られ、50ドル払って新規顧客を獲得しても儲けにならないレベルに達したことで、ブランドは以前の購入者に繰り返し広告を提示するようになった。D2Cブランドがなにより理解すべきことは、顧客再獲得のための(マーケティング部門における)思考プロセスを確立することだ。再購入では初回ほど利益が上がらない可能性もある。

──D2Cブランドにとって、新規顧客獲得へのフォーカスを転換することは難しい?

ブランドがエージェンシーを取っかえ引っかえしているのを見れば、問題はきっとエージェンシーではなく、ブランドにあるのだろうと察しがつく。彼らはFacebookのCPAがまだ激安だった時代を夢見ていて、それを魔法のように取り戻してくれる誰かを探し求めているのだ。だが、スケールしたところで、以前とはもう世界が違う。こういうクライアントとは、エージェンシーは仕事をしたがらないし、ノーを突きつける。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)