エージェンシーはもともと経営課題に直面していたが、パンデミックによって問題が加速した。そのため、コスト削減を目的とした統合が進んでいる。業界アナリストによれば、持ち株会社がコスト削減のためだとはっきり言うことはないが、行間を読めば、戦略の主な要因であることは明らかだという。
エージェンシーの統合に関していえば、WPPのCEOマーク・リード氏は先頭を走っている。
11月上旬、世界的なエージェンシー持ち株会社であるWPPが再びエージェンシーの仲介役を務め、傘下のグレイ(Grey)とAKQAをAKQAグループ(AKQA Group)という新しいエージェンシーに統合した。WPPはすでにVMLY&R(以前はVML、Y&Rという別会社)、ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson:以前はワンダーマンとJ・ウォルター・トンプソン)という統合されたエージェンシーを持つ。
コンサルティング企業R3ワールドワイド(R3 Worldwide)のプリンシパル、グレッグ・ポール氏は「特に北米では、WPPの老舗クリエイティブエージェンシーの再活性化が必要であることは公然の秘密だった。統合によるデータと技術の注入は大きな助けになるはずだ」と話す。「今後もこのような構造改革が起きると我々は確信している。マーケターは世界規模のデータに支えられたより大胆なクリエイティブアイデアを求めている。これは正しい方向への一歩だ」。
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コスト削減のための統合
WWPだけではない。5月にも、別の場所でエージェンシーの統合が起きている。ウェンディー・クラーク氏が電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network)のグローバルCEOに就任して間もなく、電通とマクギャリーボウエン(mcgarrybowen)が合併し、電通マクギャリーボウエン(dentsuMCGARRYBOWEN)という長い名前のエージェンシーが生まれた。今のところ、AKQAグループは複雑な名前になっていないが、持ち株会社が取り持つエージェンシーの統合がこれで終わるとは考えにくい。エージェンシーはもともと経営課題に直面していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって問題が加速しており、コスト削減のための統合は今後も続くと予想される。
業界アナリストによれば、持ち株会社がコスト削減のためだとはっきり言うことはないが、行間を読めば、戦略の主な要因であることは明らかだという。
トリニティーP3(TrinityP3)のエグゼクティブチェアマンで、『マディソン・アベニュー・マンスローター(Madison Avenue Manslaughter)』の著者でもあるマイケル・ファーマー氏は「持ち株会社に品ぞろえが不完全な老舗エージェンシーを維持する余裕はない」と話す。「(エージェンシーを統合すれば)クライアントに完全なサービスを提供しつつ、コスト削減を実現できる。これは決してクリエイティブエージェンシーの衰退ではなく、強力な薬で元気づける方法だ。クライアントは(クリエイティブエージェンシーの)過去の実績に金を出しているわけではない。エージェンシーがかつてどれほど偉大だったとしても、彼らがそれを理由に金を出すことはない」。
コスト削減戦略は伝統的なクリエイティブエージェンシーの死に見えるかもしれない。多くの場合、デジタルに強みを持つエージェンシーと統合されているためだ。しかし、アナリストや業界関係者は、エージェンシーの機敏性を高め、意思決定プロセスにより多くのデータを注入するために必要な変革だと口をそろえる。また、ふたつのエージェンシーを統合し、ひとつのフルサービスのエージェンシーを作った方が、各エージェンシーのCEOが欠けている能力を補強し、それぞれがフルサービスのエージェンシーを目指すよりも安上がりで時間もかからないとファーマー氏は指摘する。
独立系とは異なる種類の圧力
コンサルティング企業アーク・アドバイザーズ(Ark Advisors)のパートナーであるアン・ビロック氏は、現在進行中のクリエイティブエージェンシーの変革に関して言えば、持ち株会社のエージェンシーが独立系エージェンシーとは異なる種類の圧力にさらされていることにも注目すべきだと述べている。
「持ち株会社のエージェンシーはあらゆる需要を満たすことを求められる」と、ビロック氏は話す。「だからこそ合併が起きているのだ。彼らは(クリエイティブだけでなく)データと技術を提供しなければならない。純粋なクリエイティブエージェンシーにも力強い未来はあるが、独立系エージェンシーが生きている世界の方が長生きできるのではないかと、私は感じている。彼らは小さい規模を維持したまま、現在のプロジェクト単位の方向性に対応する余裕がある。彼らはこれからも創造性の炎を燃やし続けるだろう」。
4A’sのプレジデントを務めたあと、エージェンシー・シェルパ(Agency Sherpa)を創業したナンシー・ヒル氏も同意見だ。「今回はパンデミックと経済だが、このような環境が生まれるたび、若く新しいエージェンシーが生まれる」。事実、ミスチーフ(Mischief)のようなエージェンシーがすでに立ち上げられているとヒル氏は補足し、「今、若く新しいエージェンシーが現れても私は驚かない」と述べた。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)