スタートアップに対してZ世代へのブランディングをコーチングするという、とあるふたりの大学生のプロジェクトが、Z世代が舵を取るデジタルエージェンシーにまで発展した。4年前の創業以来、カールソンドイル(CarsonDoyle)はクリエイティブと広告のあいだを行き来するエージェンシーに成長している。
スタートアップに対してZ世代へのブランディングをコーチングするという、とあるふたりの大学生のプロジェクトが、Z世代が舵を取るデジタルエージェンシーにまで発展した。
4年前の創業以来、カールソンドイル(CarsonDoyle)はクリエイティブと広告のあいだを行き来するエージェンシーに成長し、D2Cブランドのバックカントリー・アクセス(Backcountry Access)や水筒メーカーのモードル・アウトドアズ(Modl Outdoors)、マッチングアプリのTinder(ティンダー)のようなクライアントと仕事をするようになった。
デンバーとロンドンにオフィスを構えるカールソンドイルでは、Z世代の8人がフルタイムで働いている。メンバーは、全員が25歳以下のデジタルネイティブだ。カールソンドイルのブランドへのセールスポイントは、彼ら自身が若い世代であることから、ブランドとZ世代をはじめとした若年オーディエンスの「橋渡しができる」という点だと、同社のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・ブレイザー氏は語る。
Advertisement
新型コロナウイルスのパンデミックのさなか、消費者のオンラインショッピング習慣の変化についていくため、エージェンシーやブランドは方針転換を行い、デジタルマーケティングを強化。マーケターたちは、Z世代からの支持を得ているTikTokのようなプラットフォームを、自社の戦略に加えようとした。
一方カールソンドイルでは、こうした変化に対応するための社内インフラが、すでに整備されていた。そのため、同社は競合よりも優位に立つことに成功。Tinderのアカウントを獲得することができた。「我々は、Tinderとの仕事に全力を傾けた。そのなかで、自分たちが何に長けているかを学び、クライアントからの信頼と理解も得ることができた」と、マネージングディレクター、チャーリー・ナウス氏は述べる。
「我々の場合、Z世代へのアプローチに関しては、学習曲線(物事の習熟度は、学習の期間が長いほど高まるという理論、およびそれを示したグラフ)が当てはまらない」と、ブレイザー氏は話す。「ブランドは多くの時間とエネルギーを節約し、Z世代の理解を得ることに集中してきたが、我々はZ世代についてすでに理解できている」。
ブランドとZ世代の「橋渡し役」に
カールソンドイルは現在、デジタルマーケティングやクリエイティブ領域を中心に活動する一方、独自のリサーチやインサイトの提供も行っている。将来的には、社内にアカウントチームやプランナー、メディアバイヤーを擁した、次のワイデン・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy:ナイキとの仕事で知られるエージェンシー)のような存在を目指している。
カールソンドイルは、「ブランドの正統性を信じず、利用されていると感じている若い消費者」に寄り添いつつ「彼らと、伝統や歴史のあるブランドの橋渡し役」になりたいと考えているのだ。
ブレイザー氏は、「アンケート調査やGoogle検索では、Z世代について多くのことを知ることはできない」と強調する。そこでカールソンドイルのスタッフは、Z世代の一員として、Z世代の日常生活にアクセスし、ピアツーピア(P2P)のテキストチャットや、刻々と変化するTikTokのトレンドに自ら参加している。そうすることで、ブランドへZ世代のインサイトと、コンサルティングサービスを提供することが可能になる。
「我々は、既存の方法論に変化をもたらそうとしている。それは、若い消費者に何かを『売りつけようとする』のではなく、『どうすれば彼らの味方になれるか』を考えることだ」と、ブレイザー氏は話す。
Tinderとの取り組み
こうした姿勢が評価されてか、カールソンドイルは最近、米国でもっとも人気があるマッチングアプリであるTinderの目に留まった。同社は2020年9月、Tinderのペイドメディアのクリエイティブを担当し、ブランドキャンペーンをサポートしたほか、同社とともに2021年はじめに提供を開始したSnapchat向けのナショナル・スナップ・レンズ(National Snap Lens)の制作を行った。
またカールソンドイルは、Tinderがラッパーのミーガン・ジー・スタリオンを起用して行った、バイラルキャンペーン「プット・ユアセルフ・アウト・ゼア(Put Yourself Out There)」にも携わっている。同社が行ったのは、Hulu(フールー)、ロク(Roku)、Twitch(ツイッチ)などのデジタル、およびストリーミング・プラットフォームに配信されるペイドメディアのクリエイティブサポートだ。
「我々のような新参者が大手クライアントを担当し、新しいことを試したり、若い人のアプローチについて貢献できたのは、非常に喜ばしい」と、ブレイザー氏は語る。
Z世代は本質志向
多くの企業が、未来の消費者であるZ世代とのつながりの構築に躍起になっている。実際、チョバニ(Chobani)のようなブランドは、TikTokを使って若い視聴者にアプローチしはじめた。そうした消費者との関連性を維持するために、コマースに注力する企業もある。
「Z世代は、自分の価値観を共有できる人やコンテンツ、ブランドとつながりたいと考えており、その点で非常に本質志向だ」と、Z世代のオンラインコミュニティ、およびメディアを運営するスウィーティー・ハイ(Sweety High)の最高経営責任者(CEO)、フランク・シモネッティ氏は述べる。「同時に彼らは、楽しみたいとも思っている」。
スウィーティー・ハイは2011年に設立され、約20人のチームが、Z世代を含む次世代の消費者を研究し、関連コンテンツを配信してきた。シモネッティ氏によると、同社のTikTokアカウントには現在、1000万人以上のフォロワーがおり、月に数億回以上の動画視聴が確認されているという。
また、シモネッティ氏によると、伝統的なブランドの取り組みのなかには、Z世代の感情の変化に機敏に対応できていないケースが見られるという。同氏がこう述べる通り、1~2週間以上、同じ方法でZ世代にアプローチすることは適切ではない。趣向がすぐに変化し、ブランドにより新しいものを期待するのがZ世代なのだ。
「ルールは変わった」
「エンゲージメントのルールは変わった。ブランドは積極的でなければならない一方、透明性も求められる。これらが、ブランドの大きな軸足になる」と、スウィーティー・ハイのブランド戦略担当バイスプレジデントを務めるステイシー・グレコ氏は述べる。
ただ、カールソンドイルは、いつまでもZ世代のみにフォーカスし続けるつもりはないようだ。現在同社では、ビジネスをどのように進化されるかの検討が進められているという。
そのためには、大学生をはじめとした若年層との連携を強化し、常に新しいトレンドをキャッチアップしつつ、「次の世代への橋渡し役になるための努力を続ける必要がある」と、ナウス氏はいう。
「我々は、何かを作っているという点では、ほかのエージェンシーと大きく変わらない。しかし、現在に至るまでに我々が培った経験は、ユニークなものだという自信がある」と、ナウス氏は語った。
[原文:This Gen Z agency ‘eliminates the learning curve’ to connect brands with its generation]
KIMEKO MCCOY(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)