クライアントへのプレゼンの場で、パワーポイント(PowerPoint)の使用を避けるエージェンシーが増えているという。
少なくとも、100人の従業員を抱えるニューヨークのエージェンシー、ワーク・アンド・コー(Work & Co.)において、それは事実だ。同エージェンシーは最近、パワーポイント(および「Keynote」、「Prezi」といった、業界では総称して「デッキ」と呼ばれているツール)の使用を禁止した。創設者のジーン・リーベル氏は、「あれは最悪だ」と語っている。
ワーク・アンド・コーでデッキを使ったプレゼンを禁止する必要があったのは、プレゼンを取り仕切る者が、その場を支配するのを防ぐためだ。リーベル氏は「すべてをコントロールしたがる公判中の弁護士のようなものだ」と「デッキ」の使用を嫌っている。つまり、パワーポイントは交渉の場に最適ではないということだ。
クライアントへのプレゼンの場で、パワーポイント(PowerPoint)の使用を避けるエージェンシーが増えているという。
少なくとも、100人の従業員を抱えるニューヨークのエージェンシー、ワーク・アンド・コー(Work & Co.)において、それは事実だ。同エージェンシーは最近、パワーポイントなどのソフト、およびプレゼン資料(通称「デッキ」といわれている)の使用を禁止した。創設者のジーン・リーベル氏は、「あれは最悪だ」と語っている。
ワーク・アンド・コーでデッキを使ったプレゼンを禁止する必要があったのは、プレゼンを取り仕切る者が、その場を支配するのを防ぐためだ。リーベル氏は「すべてをコントロールしたがる公判中の弁護士のようなものだ」と「デッキ」の使用を嫌っている。つまり、パワーポイントは交渉の場に最適ではないということだ。
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クライアントにとって負の遺産
クライアントとエージェンシーは以前から、パワーポイントなどを常用する習慣について不満を述べてきた。これは、かつて商品を売ることだけを考えていたクライアントが、マスマーケット向けの広告やマスマーケティングについて、ほとんど何も知らなかった時代の負の習慣である。米ドラマ『マッドメン(原題:Mad Men)』さながらに、エージェンシーが広告キャンペーンや戦略のプレゼンテーションを、一方的に披露しているような状態になるからだ。
だが、時代は移り変わり、クライアントは以前よりも賢くなった。エージェンシーが提案しようとしていることに対して、もっと意識するようになっている。パワーポイント離れをしたいと思っているのは、リーベル氏だけではない。同様の変化は、マーティン・エージェンシー(Martin Agency)でも起きているという。
同エージェンシーの場合は、オフィスのリフォームがきっかけだった。従業員が顔を合わせる共同スペースをもっとオープンにしたところ、プレゼンの回数が減り、チームミーティングの回数が増えたのだ(社内ミーティング及びクライアントとのミーティングの両方ともだ)。マーティン・エージェンシーは、デッキの使用をあからさまに禁じたわけではない。だが、最高コミュニケーション責任者(CCO)、ディーン・ジャレット氏は、パワーポイントが使用されなくなってきているのは確かだと述べる。
自分の赤ん坊のような存在
加えて、プレゼンを作成する側は、それほど「デッキ使用禁止」を問題視していないという事実もある。とあるエージェンシーで働く、ミレニアル世代の従業員は、アカウントディレクターとして働いた最初の2年間に75~80のデッキを作成した経験を、匿名を条件に語った。
「パワーポイントの出来によって考え方が変わる。整然とした短い箇条書きやすっきりとしたスライドに馴染まないならば、それはいいアイデアではない、という感じだ。私たちがパワポ離れできるならやってみたい。大学でも十分にデッキを使ってきたから、もううんざりだ」。
だが、人によっても見方は違う。ピュブリシス・シアトル(Publicis Seattle)のストラテジスト、アミット・グアナーニ氏は、エージェンシーで働いている間に大量のデッキを作成してきた人間として、デッキの作成者は、それが実際どれほど役に立っているのかが分からないのだ、と述べる。「どのデッキも、作成者にとっては自分の赤ん坊のような存在だ。その赤ん坊が醜いことを知らないのは、部屋のなかで彼らだけだ」。
議論を深めることが大事
ヒュージ(Huge)のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、シェリン・カジム氏は、同社ではパワーポイントを使用したプレゼン自体は廃止していないものの、その回数が減っているのは確かだという。プロトタイピング・ソフトウェアが向上してきたので、ヒュージのチームは、「概念実証」(POC)としてまず試作品を提示することが多く、プレゼンソフトのデッキの必要性がなくなりつつあるか、少なくとも大幅に減っているという。
カリフォルニア州のモントレーとサンフランシスコを拠点とするヴェナブルズ・ベル&パートナーズ(Venables Bell & Partners)のポール・バークス=ヘイ社長は、同社ではミーティング文化全体への非難が広がり、デッキの減少につながっていると語る。
ニューヨークのグローバル・マーケティング・エージェンシー、KBSでは、マット・パウエル共同社長が、Keynoteはひき続き使用されているが、絶対に必要な場合だけ使用するよう組織的に取り組んでいる、と語る。「チームがプレゼンを、文章中心の読む資料としてではなく、オーディエンスとの対話や会話を助ける視覚的な資料として利用することを期待している」。今後は、「プレゼンといえばデッキ」というあり方を改め、説明が必要な場合はパンフレットや試作品、ポスターを利用して議論を促すという。
業界外では、すでに時代遅れ
確かにエージェンシーは、こうした時代の波に乗るのがいささか遅い。米国の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)に取り組む物理学者たちは、約3年前にプレゼンソフトの使用を禁止した。ジェフ・ベゾス氏がAmazon(アマゾン)で2年前にプレゼンソフトを禁止したのも有名な話だ。LinkedIn(リンクトイン)のジェフ・ウェイナー最高経営責任者(CEO)は、2013年に社内でのプレゼンを廃止し、代わりに、24時間前にミーティング用資料を送るよう従業員に求めている。
ワーク・アンド・コーのリーベル氏によれば、クライアントはこうした変化を肯定的に見ている。パワポのプレゼンを廃止することで、議論を深める際に、思考の流れをせき止めることなく、エージェンシーと連携していくことができるからだ。同社では、実際の試作品や議論を通じたPOC(概念実証)の比重が増えているという。
ヒュージのカジム氏は、クライアントの立場から、デッキの代わりにプロジェクトの試作品が目の前に置かれることに関して、誰も不満を漏らさないと語る。「チームで一丸となって取りかかってデザインについて考えさせると、誰もがそれについて話し、問題が早い段階で見つかる。誰かが始終その場を仕切って、最後まで主張を続けるプロセスよりは、だいぶマシだ」。
エージェンシーの幹部がプレゼンを禁止しない場合には、別の解決法がある。ひどい出来のときに、同僚がそれを伝えればいいのだ。ピュブリシスのグアナーニ氏は、「プレゼン資料の出来が悲惨な場合、お互いに率直にいい合うこと」を助言している。そうすれば、パワーポイント以外のコミュニケーション手段に社員が目を向けるようになるからだ。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Thinkstock / Getty Images