コロナ禍で低迷していた広告支出は回復しつつある。その一方で、コロナウイルス感染の第2波や欧米における失業率の上昇など、今年下半期が厳しいものになることを示すデータもある。現状を見ると、広告支出の増加速度が奇跡的に伸びない限り、これから数カ月のうちにエージェンシーがさらなる人員整理を迫られる可能性は非常に高い。
コロナ禍で低迷していた広告支出は回復しつつある。だが現状を見ると、その増加速度が奇跡的に伸びない限り、これから数カ月のうちにエージェンシーがさらなる人員整理を迫られる可能性は非常に高い。
広告支出の削減以外にも、景気はさらなる後退の瀬戸際にあり、各国の緊急雇用給付金の終了が近づいている。さらに一部市場では感染者自体が急増しており、エージェンシーホールディンググループの経営陣は依然として深刻な危機に直面しているのだ。プログラマティック広告費が増加するなど回復の兆候もみられる一方で、コロナウイルス感染の第2波や欧米における失業率の上昇など、今年下半期が厳しいものになることを示すデータもある。
そして依然として大半のエージェンシーでは人件費が最大のコストであり、収益が枯渇するなかでコストを抑えるため、経営陣は人員削減について真剣に検討しなければならなくなりそうだ。フォレスター(Forrester)シニアアナリスト、ジェイ・パティサル氏は、これにより今年米国では5万2000人の雇用が失われるだろうと予測する。そしてその半数は再雇用されない見通しだという。
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「多くのエージェンシーはコロナ禍の中でも解雇ではなく一時帰休を選択するなど、なんとか人材を引き止めようとしてきた。だが一時帰休の選択の余地が無くなってなお、社員を引き止める姿勢を維持できるかは疑問だ」とパティサル氏は語る。
ハバスやデンツーXでは重役クラスを
ハバス(Havas)は7月にニューヨーク、ボストン、シカゴ支社の重役150名から200名を解雇した。
ある役員は匿名を条件に、メディアエージェンシーのデンツーX(dentsu X)が米国の重役30名近くを一時帰休にしたと述べている。
デンツーXの米国プレジデント、ユリー・ボイキフ氏は一時帰休については認めたものの、その具体数については明かさなかった。同氏はこの決定について、同社のクライアントがコロナ禍によって受けた打撃の影響を受けていると語る。たとえば同社のクライアントのLVMHは広告、雇用、店舗リースなどの支出を削減したにもかかわらず、上半期の営業利益が68%減となった。こういった場合どのサプライヤーも影響は受ける。エージェンシーのように経済状況に大きく左右される業界は特に影響が大きい。
ボイキフ氏はデンツーXが「さまざまな事業に対応するためリソースの再配分を行って」おり、組織全体で雇用を維持するため、必要に応じて社員の一時帰休を行ってきたことがあると述べている。
同氏は「当社はこれまでもLVMHにおけるニーズの進化を最大限サポートするため非常に緊密な協力を行ってきた。それはこれからも変わらない」と語る。「たしかに先ほど述べたような影響は受けている。だが一時帰休の人数については不正確だ。当社は常に、チーム内の再配置を重視してきた」。
オムニコムやピュブリシス、IPGも
このような非常時における社員のリテンションや削減計画は、今や業界全体で当然のように実施されている。
たとえばオムニコムはすでに6100名を解雇した。同社のCEOジョン・レン氏は7月に行われたアナリストとのインタビューのなかで、各支社において広告支出に応じた「柔軟な増減」計画を用意していると明かしている。そしてピュブリシスグループ(Publicis Groupe)もまた、今年下半期にさらなる人員削減を行うと明言している。同グループは上半期のコスト削減計画の一環としてリストラにより6900万ユーロ(約87億円)を捻出したが、下半期には2倍近い1億ユーロ(約125億円)にまで増える見込みだ。一方、全世界の社員の1.3%に相当する694名の解雇を行ったが、IPGのCEOマイケル・ロス氏は今年の下半期に向けてさらなる人員整理を進める予定だと語っている。
エージェンシーは今年の上半期には解雇ではなく一時帰休を選択するケースが多かった。だが政府の緊急雇用給付金が終了するに伴い、オムニコムやピュブリシス、IPGのCEOたちは今後なるべく多くの社員の雇用を守るため、ほかの手段を模索していくと語っている。各社はコスト削減を検討する一方、経済の復調に合わせた準備も必要と考えており、先月行われた業績報告のなかで上記企業のCEOたちはそのバランスを取ることの重要性と、今後の人件費削減が春ほど大規模にならない可能性を指摘している。
「本当の意味で試されることになる」
雇用コンサル企業のアンコモン・ピープル(Uncommon People)でマネージングパートナーを務めるエリック・スネルマン氏は「政府による補助金が提供されなくなることで、各社は本当の意味で試されることになる」と述べている。「ホールディング企業の多くは雇用助成金に依存している。それがなくなった企業の社員の将来は不透明だ」 。
たとえば英国では、これまで月に2500ポンド(約35万円)を上限に賃金の80%を支払っていた一時帰休支援が10月で終わる。これにより下半期に各社で一気に解雇が進む可能性が高い。イングランド銀行(the Bank of England)の試算では下半期の失業率は7.5%にまで倍増し、2021年の回復も緩やかなものにしかならないとされている。
スネルマン氏は「政府の補助金なしでの対処という非常に困難な状況が待ち構えているにもかかわらず、採用面ではポジティブな兆しが見えつつある」と語る。「エージェンシーのトップからは雇用について相談を持ちかけられている」 。
ビジネスモデルの欠陥を正す機会
コロナ禍でエージェンシーが行った人員整理の第1波は、急激な景気後退のなかでの生き残りをかけたものだった。だが第2波は危機のなか、そして危機が去ったあとに、いかにして成功をつかむかという発想の元で行われることになりそうだ。
最大手5社を除くあるエージェンシーホールディンググループのCEOは匿名を条件に「当社の人件費削減は、ほとんどが第2四半期に行われた」と語った。つまり第2四半期にレイオフを集中して行い、残りの期間は事業の再構築に専念することを目指したのだ。
コロナ禍はエージェンシーCEOに大きな困難をもたらしたが、同時に欠陥のあるビジネスモデルを正す機会にもなっている。そもそもコロナ禍以前からエージェンシーホールディンググループの最大手6社のほとんどが伸び悩んでいた。最大の理由はクライアントへの迅速かつ柔軟なサービス提供に苦戦していたことだ。それでも経営陣は収益の追求とビジネスモデル改革を天秤にかけているところがあった。だがCEOたちからは、今回の大きな危機を「無駄にしてはならない」という姿勢が強く見て取れるようになっている。
ある雇用コンサルタントは匿名を条件に、「去年の今頃、現在行われているような大規模なコストカットをすれば、株式市場の反応は非常に大きなものになっただろう」と語る。「今やそれとは逆に、経営陣がこの困難な時期を乗り切れるようビジネスモデルや企業構造を目的に合わせて最適化しないと批判されるようになっている」。
「パートタイム雇用に目を向けるべき」
これについてWPPのCFO、ジョン・ロジャース氏は、第1四半期の時点ですでに指摘している。同氏は今年の下半期には人員削減がそれほど問題視されなくなるだろうと予測していた。
当時、ロジャース氏は「有効な対処のひとつとして、パートタイムの雇用に目を向ける必要があるのではないか」と述べている。「勤務を週に3、4日とすることでコストを削減する。迅速かつ柔軟なコスト削減の手段としては有効だ。さらにこの方法であれば景気の回復に合わせて社員も復帰させやすい。クライアントにもこうした柔軟な対応を推奨していく」 。
※ 電通クリエーティブXの広報より指摘があり、正しくは「デンツーX(dentsu X)」と表記すべきところを、「電通クリエイティブX」および「電通」と誤記していた箇所を修正しております。ご指摘ありがとうございます。誤解を招く表現をしてしまい、申し訳ございませんでした。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)