EQUALITY AND OPPORTUNITY

エージェンシーの「白人文化」に、黒人社員が変革を求める:「プレッシャーは効いている」

もううんざりだと、ブランドン氏(名前は匿名性保護のため仮名)は思った。持株会社のエージェンシーで黒人ストラテジストとして働く彼は、業界を去ることを考えている。

ストラテジストの仕事は好きだと、彼はいう。だが、黒人社員が「白人文化に馴染んで同化する」よう仕向けられる、エージェンシーの「一枚岩」文化が彼を悩ませている。構造的人種差別や警察の横暴に対する抗議運動が、史上稀に見る熱気と規模で続くいま、問題はますます深刻さを増しているのだ。

複数のエージェンシーで経験した人種差別的カルチャーについて、「『これくらい受け入れられる、問題ない』と、いつも自分を納得させていた」と、ブランドン氏はいう。「だが、いま起こっている事態と、エージェンシーがこれまで問題にどう対処してきたかを考え合わせると、はっきり言って私は軽んじられてきたと思う。(会社から)たくさんのeメールを受け取ったが、どれひとつとして作用点を示してはいなかった。だから、5通目のメールを見たときは、『私の頭が足りないと思っているのか』という気分だった」。

エージェンシーはもっと変わるべきだ。そう考えているのはブランドン氏だけではない。6月上旬、彼を含め広告業界で働く600人の黒人社員たちが、業界の変化を求める公開書簡に署名したのだ。

書簡の署名運動を主導したのは、ペリスコープ(Periscope)のグループ戦略ディレクターであるネイサン・ヤング氏と、新興コンサルタント会社エアリアリスト(Aerialist)の創業者で代表を務めるベネット・D・ベネット氏だ。彼らは書簡のなかで、黒人社員とそれ以外の有色人種社員が働きやすいよう職場環境を改善するための12の具体的なアクションを列挙した。これはエージェンシーのリップサービスや旧態依然ぶりに辟易している社員たちが、真の多様性やインクルージョンのために変化を求めボトムアップの圧力をかける、力強い事例のひとつだ。

「我々の目的は、全国のエージェンシーで働く黒人プロフェッショナルの生きた経験を反映した手紙を書くことだった」と、ヤング氏はいう。「エージェンシー幹部は注目すべきだ。我々はオープンかつ正直なやり方でコミュニケーションをとっている。これまではこうした手段に訴える機会がなかった。書簡に署名した誰に聞いても、エージェンシーをより良くする方法として、このリストに近い指摘をするはずだ」。

この書簡で社員たちはエージェンシーに、黒人社員の割合を増やすために努力することや、多様性に関するデータを公表することを求めている。エージェンシーがどう対応するかは、いまのところ未知数だ。

IPG、WPP、オムニコム・グループ(Omnicom Group)、ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)、電通にコメントを求めたが、本記事執筆の時点で回答は得られていない。一方、パリに拠点をおくハバス(Havas)は、フランスの法律で社員の民族的出自に関するデータの収集は禁じられているものの、「彼らが作成したリストを指針として利用し、包括的な取り組みに基づいて、ビジネスにおける意思決定を行う」としている。

現状への対応を模索するなかで、多くのエージェンシーはeメールを通じて社員にメッセージを伝えてきた。一人ひとりの声に耳を傾ける、多様性とインクルージョン方針を尊重する、メンタルヘルスの日を設定するというように。だが、エージェンシー社員や業界オブザーバーは、職場文化を改善するため、黒人社員のサポートにもっと本腰を入れるべきだと考えている。

「現時点では空虚な言葉が飛び交っている。すべての発言には直接的な行動の裏付けがなくてはならない」と、アイワンデジタル(iOne Digital)のソーシャル戦略・特別プロジェクト担当シニアディレクター、ラネー・スプルース氏はいう。「幹部社員に占める黒人や有色人種の比率は? 組織内で反人種差別の取り組みをどう支援しているか? ブランドやエージェンシーはいま、腰を据えて話を聞く絶好の機会を手にしている。実践できれば、これを機に改善に向かうだろう」。

変化を求める社員たち

エージェンシーの変化を求める圧力が、トップエグゼクティブではなく社員から生じていることに不思議はない。「企業文化の変化を促すことでもっとも多くの利益を手にするのは社員だからだ」と、ニューヨークのピュブリシスでストラテジストを務めるイシアナ・オルテガ氏は述べる。「実務をこなしているのは我々であり、だからこそトップに座る人々よりも、エージェンシーで働くことがどんな痛みを伴うかをよく知っている」。

「変化は起きているが、いままでの歩みは遅すぎた。もっとできることがあるはずだ」と、4A’sで才能・平等・インクルージョン担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるサイモン・フェンウィック氏はいう。「偉大なムーブメントは得てして草の根から生じ、ボトムアップで変化をもたらすものだが、これに関しては話は別だ。私はひとりの白人男性として、自ら変化を起こさなくてはならないと思う。変化を起こすのに、黒人の人々をあてにしてはいけない。正すべきは彼らの問題ではなく、我々の問題なのだから」。

それでも、黒人社員たちにとって、業界内の多くのエージェンシーに務めるほかの黒人社員たちと協力して変化を促すことは非常に重要だ。「私は勤めているエージェンシーで唯一の黒人クリエイティブ職だ」と、ある独立系エージェンシーに所属する匿名希望の社員はいう。「本当に声をあげられるのは私だけだが、面倒なやつだと思われかねないので、控えめにしか主張できない。黒人社員がいなければ、エージェンシーが『うちには黒人社員がいないから解決できない』と、簡単に言ってしまえる状況になる」。

エージェンシー社員は、もはや社内文化を改善するのに、幹部社員や多様性・インクルージョン担当責任者に頼ってはいないと主張する。彼らが連帯し、変革を求めるのは、そうしなければ真の変化は達成できないと考えているからだ。「エージェンシーに問題が理解できないなら、社員がそうするほかない」と、ベネット氏はいう。出版業界で近年、労働組合の結成が進んだたように、エージェンシー社員も「連帯」して変化を推し進める必要がある。「社員たちはどんな戦略が効果的か、関連業界に注目して検討をはじめるべきだ」。

以前にも改善の試み

エージェンシーに人種差別撲滅や多様性・インクルージョン推進を求める声は昔からあった。けれどもエージェンシーが実施した主な対策といえば、多様性・インクルージョン担当責任者を採用して彼らに丸投げするだけで、成果をあげるのに必要なリソースさえ提供してこなかったと、複数のエージェンシー幹部が指摘した。

「こうした取り組みが成果をあげられないのは、企業が本腰を入れて支援していない場合がほとんどだからだ」と、リンジー・デイ・ファラー氏は批判する。同氏はブランドと黒人女性をつなぐフルサービス・クリエイティブ企業のクラウンマグ(CrwnMag)のプレジデント兼編集長だ。「我々から見ると多様性・インクルージョン担当部署は、黒人のビジネスに乗り気でないが無料で文化的インサイトを得たい企業が、黒人のビジネスを放り込む場でしかない」。

「こうした議論はずっと昔から続いてきた」と、広告業界で働く有色人種男性向けのネットワーク「ハンドレッド・ローゼス・フロム・コンクリート(100 Roses from Concrete)」の創業者ケニ・サッカー氏はいう。「多くの人々が会話の流れを変えようとしてきた。だが業界は何年もずっと聞く耳をもたなかった。これから1カ月後、半年後、1年後が楽しみだ」。

黒人社員のなかには、これまでも変化を求める声に取り合わなかったエージェンシーが、本当に真摯に取り組むだろうかと心配する人もいるが、一方で希望を見出す人もいる。「プレッシャーは効いている」と、フリーランスマーケットプレイスのウィー・アー・ロージー(We Are Rosie)でコンテンツ・コミュニティエンゲージメント担当責任者を務めるA・ウォルトン・スミス氏はいう。

「(抗議運動の開始から)2週間が経過したが、まだ議論は続いている」と、スミス氏は話す。「抗議の勢いはまだ強く、人々にはブランドやエージェンシーから回答を引き出す力が備わっている。今度こそ本物だ。すでに人々に圧されて、ブランドや企業が説明責任を果たしはじめた。ここまでのレベルの運動は見たことがない」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)