パンデミックが襲来し、OOHメディア広告収入はどん底に落ち込んだ。しかし、メディアアナリストによればOOHは順調に回復しつつあり、売上減少を補って余りあるペースだという。今回、OAAAのアナ・バーガー氏になぜ、どのように回復しつつあるのか、そして2022年以降に予想される展開について話をきいた。
アナ・バーガー氏は、デジタルの長所と短所を熟知している。さまざまな形でデジタルの推進にキャリアのすべてを捧げてきたからだ。IAB(インタラクティブ広告協議会)に10年、その前にはエリクソン(Ericsson)に在籍していた。2019年、バーガー氏はアメリカ屋外広告協会(Out of Home Advertising Association of America:以下、OAAA)のプレジデント兼CEOに就任した。その後まもなくしてパンデミックが襲来し、屋外(out-of-home:以下、OOH)メディア広告収入はどん底に落ち込んだ。
グループエム(GroupM)、ゼニス(Zenith)、マグナ(MAGNA)のメディアアナリストによれば、OOHは順調に回復しつつあり、売上減少を補って余りあるペースだという。バーガー氏は米DIGIDAYの取材に応じ、OOHがなぜ、どのように回復しつつあるのか(ヒント:プログラマティックの大きな貢献)に加えて、2022年以降に予想される展開について語った。
なお、読みやすさを考慮し、インタビューには編集を加えている。
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──OOHはパンデミックの苦境からいかにして脱出しつつあるのか?
元IABとして、もちろんデジタルの圧倒的な成長を見てきたが、将来的にはいくつかの問題が立ちはだかっている。私が思うに、(OOHの)成長パラメーターは、パンデミック以前からあったものだ。そこへパンデミックが発生し、当初は業界にとって壊滅的に思えた。誰ひとり屋外に出られないというのに、どうやって屋外広告を売ればいいのか? しかし結局、我々はパンデミックをうまく利用できた。否応なしに事業を再編成した結果、プログラマティックの開発を推進できたからだ。少なくとも米国内のメディアバイに関して、ほとんどの契約はプログラマティックだ。過去にはさほど熱心ではなかった広告主やバーティカルメディアも参入してきている。プライバシー、ブランドセーフティ、アドフラウド、Cookieの終焉など、いまの世界ではさまざまな事態が同時進行しているが、私は広告業界そのものが劇的に変化するとは思っていない。しかし、状況はOOHに有利になっていると思う。
──マーケティングと測定のオムニチャネル化が進むなか、OOHはまだ特殊といえるのか?
それは広告主次第だろう。OOHを高く評価して、広範なマルチチャネル戦略の一環として扱っている広告主もいる。一方、多くの広告主は、OOHをブランド構築、新製品ローンチ、あるいは衆目を集めるための手段とみなしている。私はソーシャルとOOHのつながりには大いに期待している。最近の音楽関係のローンチ、たとえばアデルのアルバム「30」やドレイクのニューアルバムで、このことが裏付けられた。彼らは極めて戦略的に、ビルボード広告やそのほかのOOHインベントリー(在庫)を購入して認知度を高め、それをソーシャルメディアに移行した。とくにセレブリティと組む場合、膨大なフォロワーにアクセスできる。このような(OOHとソーシャルメディアの)融合は、すべてのクリエイティブを結びつけ、メディアバイの効率を大いに高める。
──OOHが克服すべき最大の課題は? この先にはどんな困難が待ち受けている?
将来を見据え、媒体を切り替え、取引と提示の方法を変えていくなかで、デジタルが直面しているのと同じ問題の回避に努める必要がある。プログラマティックの取引が増加し、CPMが上昇すれば、こうしたことが容易に起こりうる。業界への関心の高まりが、いきなり諸刃の剣になりかねないのだ。今あるものを守り、成長のなかでも価値を維持し、「従来の」デジタルが陥ったのと同じ落とし穴にはまらないよう、気をつけなくてはならない。バリューチェーンを十分に明確に保ち、コスト上昇と(市場の)混乱を招くベンダーを増やしすぎてはならない。
──エージェンシー業界には何を期待する?
賢明な広告主は、OOHを戦略の一部に含める。したがって、エージェンシーは、OOHがメディアバイ全体のなかでどのように位置づけられるかを、より良く理解するよう努める必要がある。OOHにできること、できないことを把握するのだ。持株会社の傘下にあるOOHに特化したエージェンシーや、小規模なOOH企業は、媒体をよく理解していて、その強みを活かし、最適化する方法を知っている。業界標準を打ち立てようとしている我々にもっと関心を向けて、エージェンシー側がどのような売買をしたいのかを教えてほしい。OOH専門のグループのトップの中から、親会社の組織に深く関わる人々が出てきていることは、とても心強い。我々のメディアにとって、非常に良い兆候だと思う。
──あなたが2022年に起こると予測していることは?
私は商売の可能性を確信している。(ラスベガス)ストリップやタイムズスクエアに掲げられる、音楽アーティストやファッションブランドなどの巨大広告は、見た人が(ソーシャルメディアに)投稿し、数百万人にシェアされる。いまはソーシャルリスニングもあるので、人々がどこでメッセージを耳にしたかも知ることができる。プログラマティックを通じて、こうしたメッセージをローカル市場に還元し、広告効果を高められる。さらにはQRコードなどの方法で、コマースとの接点を設け、消費者とつながることもできる。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:小玉明依)