2023年は「キュレーション」の年になるはずだった。少なくとも広告業界の一部では、そうなると見られていた。
業界関係者の多くは、広告業界が安価なリーチに熱狂する時代の終わりの始まりになるだろうと予測していた。しかし、その予測は外れた。そして、MFA(made-for-advertising)サイトをめぐる現下の騒動は起きた。
ただし、プログラマティック広告の運用を支援する企業としてジャウンスメディア(Jounce Media)を創設したクリス・ケイン氏は、「出稿企業のマーケターやその取り扱いエージェンシーと、キュレーションについて議論する機会が増えた」と話す。「この関心が一時的なものか否かは不明だが、ここ数週間で勢いを増していることは確かだ」。
グループエムとジャウンスメディアの提携
実際には、ここ数週間ではなく、ここ数カ月の話だ。MFA騒動が勃発したのは6月のこと。引き金となったのは、MFAサイトに流れる広告予算が途方もない金額にのぼるという事実が、業界横断的に発覚したことだった。長年にわたり、適正なパブリッシャーから広告費をかすめ取ることだけを目的に作られたプラットフォームというMFAの真実が、白日の下にさらされた。これがマーケターのあいだに大混乱を引き起こし、サービスプロバイダーの注目を喚起した。
しかしながら、危機はチャンスを生む。そのチャンスはグループエムにもめぐってきた。
この世界最大のメディアバイヤーは最近、ジャウンスメディアと提携して自社のMFA対策の強化を図った。この提携により、今後はジャウンスがグループエムの広告枠の評価を担当。安全で一定の基準を満たし、信用するに足る広告配信面と判断されたうえで厳選されたサイトが、インクルージョンリスト(買いつけ許可リスト)として一覧化される。
両社の取り組みについては、こちらの記事に詳細を記しているが、今後、さらなる進展が期待できそうだ。
見過ごされてきたMFA
実際、こうした動きは起こるべくして起きた。というのも、マーケターがそれを望んでいるからだ。というよりむしろ、「望んでいると言っておく」というべきかもしれない。安価な広告に対する彼らの渇望がMFAを誕生させたのだから、その根絶を願う素振りくらいは見せるべきだろう。
これが公然の秘密として広く議論されるようになったいま、彼らとしてもこの問題に消極的な態度をとるわけにはいかない。グループエムは新たなMFA対策に名乗りを上げた最初の1社ではあるが、彼らが最後の1社となることはないだろう。MFA対策を求める声は(たとえ一過性のものだとしても)相当に強い。
ここ数年、対策に動いてきたエージェンシー各社は、MFA対策の強化に異論はないようだ。大手メディアエージェンシーの大半が、MFAに限らず、あらゆる形の無駄をプログラマティック広告のマーケットプレイスから排除するため、必要なツールやチームを運用してきた。
しかし、こうした取り組みに弾みがつくのはある時点までだ。たとえば、広告費が上がり、動画視聴完了率が下がりはじめると、途端に失速する。そして広告予算は再び、安価な(そして効率のよい)リーチが手に入る場所へと戻ってしまう。どういう偶然か、そうした場所にはMFAが蔓延している。
しばらくのあいだ、この傾向はほとんど批判されないまま見過ごされた。特にマーケターの無関心ぶりは顕著だった。というのも、MFAを認めることは、自分たちのプログラマティックキャンペーンの相当部分が砂上の楼閣に等しいと認めることになるからだ。そして、クライアント企業のマーケターがMFA問題を看過すると決めたなら、エージェンシーの上部がそれに倣うのは当然のことだった。結局のところ、彼らには達成すべき数値目標があり、アドテク企業はその達成に喜んで手を貸している。
キュレーテッドマーケットプレイスの推進
今般のMFA騒動はそのすべてを覆した。
ハヴァスメディアグループ(Havas Media Group)でグループ全体の投資部門を預かるシニアバイスプレジデントのトム・グラント氏は、「多くのクライアントにMFAの問題を提起してきたが、ANA(全米広告主協会)の報告書が出されるまでは、大きな支持を取りつけることができなかった」と述べている。「ANAの調査のおかげで、一部とはいえ、我々がすでに行っていることの正しさが確認できた。なによりも重要なのは、MFA対策をさらに進めるために、クライアントの支持が得られたことだ」。
グラント氏の言う「さらに進める」とは、「キュレーテッドマーケットプレイス」の推進を指す。
たとえば、「質の高い広告在庫」に対するエージェンシー独自の考え方に基づいて、複数のミニマーケットプレイスが形成されるとしよう。エージェンシーが利用できるデータと適正な指標で評価されるプライベートマーケットプレイスだ。典型的な大型のPMPよりもはるかに小さく、これなら広告主がうっかり購入してしまうMFAのような不良在庫も少ないはずだ。そんなマーケットプレイスを想定している。
グラント氏はこう説明する。「広告在庫の選別とパッケージ化、つまりマーケットのキュレーションを我々が期待するほどの果敢さで進めるには、サプライサイドに十分なインセンティブがなかった。ならば自ら主導権を握るしかない。そして、300社のパブリッシャーと彼らが運営する約1万ドメインからなる独自のキュレーテッドマーケットプレイスを構築するに至った」。
2023年は「キュレーション」の年になるはずだった。少なくとも広告業界の一部では、そうなると見られていた。
業界関係者の多くは、広告業界が安価なリーチに熱狂する時代の終わりの始まりになるだろうと予測していた。しかし、その予測は外れた。そして、MFA(made-for-advertising)サイトをめぐる現下の騒動は起きた。
ただし、プログラマティック広告の運用を支援する企業としてジャウンスメディア(Jounce Media)を創設したクリス・ケイン氏は、「出稿企業のマーケターやその取り扱いエージェンシーと、キュレーションについて議論する機会が増えた」と話す。「この関心が一時的なものか否かは不明だが、ここ数週間で勢いを増していることは確かだ」。
Advertisement
グループエムとジャウンスメディアの提携
実際には、ここ数週間ではなく、ここ数カ月の話だ。MFA騒動が勃発したのは6月のこと。引き金となったのは、MFAサイトに流れる広告予算が途方もない金額にのぼるという事実が、業界横断的に発覚したことだった。長年にわたり、適正なパブリッシャーから広告費をかすめ取ることだけを目的に作られたプラットフォームというMFAの真実が、白日の下にさらされた。これがマーケターのあいだに大混乱を引き起こし、サービスプロバイダーの注目を喚起した。
しかしながら、危機はチャンスを生む。そのチャンスはグループエムにもめぐってきた。
この世界最大のメディアバイヤーは最近、ジャウンスメディアと提携して自社のMFA対策の強化を図った。この提携により、今後はジャウンスがグループエムの広告枠の評価を担当。安全で一定の基準を満たし、信用するに足る広告配信面と判断されたうえで厳選されたサイトが、インクルージョンリスト(買いつけ許可リスト)として一覧化される。
両社の取り組みについては、こちらの記事に詳細を記しているが、今後、さらなる進展が期待できそうだ。
見過ごされてきたMFA
実際、こうした動きは起こるべくして起きた。というのも、マーケターがそれを望んでいるからだ。というよりむしろ、「望んでいると言っておく」というべきかもしれない。安価な広告に対する彼らの渇望がMFAを誕生させたのだから、その根絶を願う素振りくらいは見せるべきだろう。
これが公然の秘密として広く議論されるようになったいま、彼らとしてもこの問題に消極的な態度をとるわけにはいかない。グループエムは新たなMFA対策に名乗りを上げた最初の1社ではあるが、彼らが最後の1社となることはないだろう。MFA対策を求める声は(たとえ一過性のものだとしても)相当に強い。
ここ数年、対策に動いてきたエージェンシー各社は、MFA対策の強化に異論はないようだ。大手メディアエージェンシーの大半が、MFAに限らず、あらゆる形の無駄をプログラマティック広告のマーケットプレイスから排除するため、必要なツールやチームを運用してきた。
しかし、こうした取り組みに弾みがつくのはある時点までだ。たとえば、広告費が上がり、動画視聴完了率が下がりはじめると、途端に失速する。そして広告予算は再び、安価な(そして効率のよい)リーチが手に入る場所へと戻ってしまう。どういう偶然か、そうした場所にはMFAが蔓延している。
しばらくのあいだ、この傾向はほとんど批判されないまま見過ごされた。特にマーケターの無関心ぶりは顕著だった。というのも、MFAを認めることは、自分たちのプログラマティックキャンペーンの相当部分が砂上の楼閣に等しいと認めることになるからだ。そして、クライアント企業のマーケターがMFA問題を看過すると決めたなら、エージェンシーの上部がそれに倣うのは当然のことだった。結局のところ、彼らには達成すべき数値目標があり、アドテク企業はその達成に喜んで手を貸している。
キュレーテッドマーケットプレイスの推進
今般のMFA騒動はそのすべてを覆した。
ハヴァスメディアグループ(Havas Media Group)でグループ全体の投資部門を預かるシニアバイスプレジデントのトム・グラント氏は、「多くのクライアントにMFAの問題を提起してきたが、ANA(全米広告主協会)の報告書が出されるまでは、大きな支持を取りつけることができなかった」と述べている。「ANAの調査のおかげで、一部とはいえ、我々がすでに行っていることの正しさが確認できた。なによりも重要なのは、MFA対策をさらに進めるために、クライアントの支持が得られたことだ」。
グラント氏の言う「さらに進める」とは、「キュレーテッドマーケットプレイス」の推進を指す。
たとえば、「質の高い広告在庫」に対するエージェンシー独自の考え方に基づいて、複数のミニマーケットプレイスが形成されるとしよう。エージェンシーが利用できるデータと適正な指標で評価されるプライベートマーケットプレイスだ。典型的な大型のPMPよりもはるかに小さく、これなら広告主がうっかり購入してしまうMFAのような不良在庫も少ないはずだ。そんなマーケットプレイスを想定している。
グラント氏はこう説明する。「広告在庫の選別とパッケージ化、つまりマーケットのキュレーションを我々が期待するほどの果敢さで進めるには、サプライサイドに十分なインセンティブがなかった。ならば自ら主導権を握るしかない。そして、300社のパブリッシャーと彼らが運営する約1万ドメインからなる独自のキュレーテッドマーケットプレイスを構築するに至った」。
費用対効果の向上
すると驚くなかれ、これがうまくいった。世間一般の通念に反して、こうしたマーケットプレイスでの買い付けで、広告主の広告予算が不本意に膨らむことはなかった。それどころか、(厳選された広告在庫から成る)このようなキュレーテッドマーケットプレイスによって、運用型広告の費用対効果は確実に向上した。
「全体として、クライアントのコストはそれほど増えていない」とグラント氏は話す。「特定のパブリッシャーと契約してキュレーションを行ったPMPを開設すると、我々の投資内容の透明性が高まり、価格の交渉もやりやすくなる。結果的に、サプライチェーンのコストを大幅に削減し、キャンペーン全体のコストを下げることができる」。
グラント氏はCTVの事例にも言及したが、この説明はハヴァスのほかのキュレーテッドマーケットプレイスにも等しく当てはまるという。「コストの上昇が見られたとしても、せいぜい5%から10%程度にすぎない。これは我々の買い付け全般に言えることだ」。
大規模なキュレーションを実現できるエージェンシーとは?
一方で、この規模のキュレーションとなると、どんなエージェンシーにも可能というわけにはいかない。そこには満たすべき前提条件があり、それは2つの重要な要素に紐付いている。
第1は、エージェンシーの影響力だ。大量の良質なインプレッションを比較的安価に購入するためには、値引きを交渉するための影響力が必要となる。次いで第2の要素はデータの収集力だろう。特に、広範なデータの利用を可能にしていたCookieやモバイルIDが厳しく規制され、データにアクセスする道が狭まるなか、データを収集する能力はことさらに重要と言える。
オムニコムメディアグループ(Omnicom Media Group)でデジタルアクティベーション部門のマネジングディレクターを務めるライアン・ユーザニオ氏は、「特定の1社ではなく、複数のパブリッシャーを巻き込むキュレーションにも価値がある。我々はこれをオークションパッケージと呼んでいる」と話す。「このオークションパッケージを数年前から実施している。具体的には、1社のサプライヤーが扱うトラフィック全体を見て、そこから良質な売り手に絞り込む」。
数年前の当時、この領域に関する限り、オムニコムは業界の異端児的存在のひとつだった。当時、この種のキュレーションは主にSSPの仕事で、SSPはキュレーションを通じて入札リクエストの送り先DSPを決めていた。その目的は、プログラマティックエコシステムのあらゆる側面に広範な影響を与える問題、すなわち「ノイズ」に対処するためだった。
ここでいうノイズとは、簡単に言えばSSPがDSPに送る入札リクエストのうち、応札がない、あるいは無駄になるリクエストをいう。これはオークションの流れを妨げ、送る側のSSPと受け取る側のDSPの双方にとってマージンの縮小につながる。
可能な限り責任ある買い付けを行うべきという要求
ユーザニオ氏はキュレーション導入の理由について、こう説明する。「キュレーションの価値を数値化してクライアントに示す仕組みはまだ完成していない。とはいえ、クライアントの広告購入を代行する者として、可能な限り責任ある買い付けを行うべきという業務上の要求(ROIの改善)と道徳的要求があり、喫緊(きっきん)に何らかの対策を取る必要があった」。
要するに、プログラマティックマーケットプレイスからMFAなどの無駄を排除するのは容易でないということだ。インクルージョンリストにできることは限られている。なにしろ、マーケターのちょっとした不注意で、MFAはいとも簡単にこのリストに紛れ込むことができるのだ。これは、動画の視聴完了率、CPM、ビューアビリティなどの誤った指標を用いるときに起こりがちだ。この種の指標を使えば、結果として一見許容範囲に見えるものの、実際には基準を満たしているとは到底言えない場所で、広告の買い付けが行われることになる。
こうした理由から、オムニコムメディアグループでは自社のインクルージョンリストをads.cert、SupplyChain(サプライチェーン)オブジェクト、sellers.jsonなどのシグナルと並行して自ら管理し、MFA在庫の購入や不要なアドテクコストにつながりやすい再販業者の在庫とは切り離して、買い付け先の選別、すなわちキュレーションを行うようにしている。
正しい方法でキュレーションを行なうことが利益につながる
企業のプログラマティックマーケティングを支援するMiQ(エムアイキュー)にも同じことが言える。ここ1年半のあいだ、MiQも同様のデータを用いてMFAサイトなどのいかがわしい在庫を販売するプログラマティックマーケットプレイスをブロックしてきた。
プロダクト部門のグローバル責任者を務めるララ・ケーニッヒ氏は、「信頼せよ、されど検証せよ(trust but verify)を実行している。現在8社のDSPと連携しているが、彼らが取引する再販業者が申告通りの業者であるのか確認するようにしている。もしMFA在庫の販売が疑われる中間業者があれば、その業者からの買いつけはやめてもらう」と説明する。
もちろん、キュレーションのやり方を間違えれば、エージェンシーにとっては逆効果になりかねない。適切でないデータを使って適切でないキュレーションを行えば、適切でない結果に行きつく。それどころか、クライアントに不利益をもたらすことにもなるだろう。
しかし、正しい方法でキュレーションを行うなら、MFAのようなサイトを回避し、クライアントに最大の価値を提供するメディアに広告費を集中させられる。もちろん、マーケターが警戒すべき対象はMFAだけではない。アドスプーフィング、ドメインスプーフィング、人間以外が生成するトラフィック(NHT)、無効トラフィック(IVT)、クリック詐欺などはいまも根強く残る。とはいえ、プログラマティック広告を活用する広告主にとって、喫緊の課題はやはりMFAだ。
懸念に目をつぶれば、その代償は着実に増大する
多くの関係者にとって、これは古くて新しい問題だ。
「メガエージェンシーの投資責任者たちは、キュレーションというアプローチの正しさを信じているが、実際の買い付けに影響を与えているとは言い難い」と、MiQのケーニッヒ氏は指摘する。「必要なのは、キュレーションをめぐる戦略的な思考を行動に移すことだ。それを受けてアドテクベンダーがしかるべく配慮しはじめれば、それはパブリッシャーの懐に入る広告費にも反映される」。
はたして、いつこれが実現されるのか。それは誰にも分からない。マーケターはこうした懸念に目をつぶることもできるが、その代償は着実に増大している。
マーケティングエージェンシーのキグリー(Quigley)に代わってダイレクトレスポンス広告のキュレーテッドマーケットプレイスを構築するオーディジェント(Audigent)で、最高経営責任者(CEO)を務めるドリュー・スタイン氏は、「最高のエージェンシー、最高のソリューションであれば、プログラマティック取引の環境をうまく管理する方法を見つけることができるはずだ」と話す。
また、「今日のメディアバイイングはターゲティングのパラメータをDSPに設定して、プレイボタンを押せばいいというだけの話ではない。むしろ、クライアントに代わって購入した広告がオンライン上のどの配信面に表示されるのか、それをもっと慎重に考えることこそ、今日のメディアバイイングの要諦と言えるだろう」と言い添えた。
[原文:The MFA uproar puts curation of programmatic advertising in the spotlight]
Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)