「発注通りモノをつくり納品する」というバックエンド論理の「納品カルチャー」が通用しなくなっている。1つのチームがダイナミックな人々の要求に対して最善策を探すことこそが拡張しているデザインの意味合いのひとつだ。
我々はフロントエンドにいる利用者が求めている体験こそがプロダクトのあり方を決める時代に生きており、テクノロジーの進歩はこの傾向をより強めていくだろう。このなかで「発注通りモノをつくり納品する」というバックエンド論理の「納品カルチャー」が通用しなくなっている。ひとつのチームがダイナミックな人々の要求に対して最善策を探すことこそが拡張しているデザインの意味合いのひとつだ。
この記事は5月24日にbtraxが開催した「DESIGN for Innovation 2017-デザインが経営を加速させる」の講演をもとに執筆した。btrax、IDEO(アイデオ)、Pivotal(ピボタル)、flog design(フロッグデザイン)と米西海岸を代表するデザイン会社によるセッションから一部を抜粋する。
フロッグデザイン 戦略担当バイスプレジデント ティモシー・モーリー氏はデザインが経験した変化に触れた。「顧客の期待は変化してきた。特に2007年にiPhoneが登場は大きかった。B2Bの現場でも大きなシフトが見られ、デザインの人々に対する影響力が増した。デザインの目的はエクスペリエンスへ急速に移行した」と語った。
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btrax CEO ブランドン・ヒル氏は「私はデザインスクールを卒業したが、もともと受け手にいい体験を提供したいと考えていた。いまやデザインへの要件が変わったことを痛感している」と話し、デザインファームに必要な人材とは何か、と質問した。
これに対し、モーリー氏は「装飾としてのデザインに精通した人は依然として必要だ。デザインシンキングがすべてを取って代わるわけではない。しかし、同時にビジネスやエクスペリエンス、テクノロジーなどに精通した人材をデザインファームは必要としている」と語った。
フロッグデザイン 戦略担当バイスプレジデント ティモシー・モーリー氏
GEなどの出資で誕生したソフトウェア開発企業Pivotal Labs Tokyoプロダクトデザイン担当マネジャーのヒーウォン・チョイ氏は「日本企業と仕事する時に困るのは、日本企業がシステムインテグレーター(SIer)に依存しており、自分自身で優秀なエンジニアリング人材をもたない。この点が課題として立ちはだかっている」と語った。
Pivotal Labs Tokyoプロダクトデザイン担当マネジャーのヒーウォン・チョイ氏
ブランドン氏からの日本の大企業に求められるイノベーション創出方法とは何か、という質問には、チョイ氏は「日本企業がイノベーティブになるための条件は人だ。企業は自分自身で人材を育てるべきだ」と答えた。
モーリー氏は大企業にはスタートアップカルチャーを取り込むことが重要だと指摘した。「『大企業メンタリティ』は日本特有ではなく、世界中の大企業に共通する課題だ。リスクをとることやボトムアップ型の意思決定をとることを組織にもちこまないといけない。ツールやプロセスを変えることで、従業員のマインドセットが変わることもある」。
IDEO Tokyo ビジネス デザイン ディベロップメント担当取締役 野々村健一氏
IDEO Tokyo ビジネス デザイン ディベロップメント担当取締役 野々村健一氏は「日本の教育システムの問題が関係している。質問ではなく答えを探す傾向がある。日本の大企業が重要な質問をもてるようになれば素晴らしい。また、何もしない理由を探すことが余りにも上手であり、何らかのアクションを起こすように心がけることが必要だ」と語った。野々村氏は米国のビジネススクールを卒業した経歴をもち、近年のデザインファームで起きていることを表現している人材だ。
btrax CEO ブランドン・ヒル氏
ブランドン氏もリスクをとることを強調した。それから、チョイ氏が指摘したシステムインテグレーターの企業社会カルチャーがイノベーションの課題だと指摘した。「納品カルチャーが課題だ。SIerなどによくあるが『納品しましたか、じゃあ払いましょう』という文化だ」。
納品内容が好まれなければ、発注側は納品内容の改善あるいは、発注先を替えることができる仕組み。この仕組に最適化した組織からはイノベーションが望み難い状況かもしれない。
※DIGIDAY[日本版]は「DESIGN for Innovation 2017-デザインが経営を加速させる」のメディアパートナーです。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photograph in text by 吉田拓史
Eyecatch / Thumbnail by GettyImage