スタートアップとエージェンシーの協業は、両者に利益をもたらすように思えるだろう。スタートアップ側は、エージェンシーが有するマーケティング経験とクライアントへのアクセスが得られ、エージェンシー側では、スタートアップを起用して最新のマーケティングトレンドに対応できるからだ。
しかし、実際には、スタートアップに対するエージェンシー側の約束は、なかなか実現されていない。時間もリソースもないスタートアップにとって、即時対応を求められたかと思えば、ぱったり音沙汰なし状態が続く「エージェンジーの世界」も、苛立ちが募る原因となっている。
マーケティングスタートアップが大きな注目を浴びるなか、当然の傾向として彼らとのタイアップの売り込みに熱心なエージェンシーが増えている。
スタートアップとエージェンシーの協業は、両者に利益をもたらすように思えるだろう。スタートアップ側は、エージェンシーが有するマーケティング経験とクライアントへのアクセスが得られ、エージェンシー側では、スタートアップを起用して最新のマーケティングトレンドに対応できるからだ。
しかし、実際には、スタートアップに対するエージェンシー側の約束は、なかなか実現されない。時間もリソースもないスタートアップにとって、即時対応を求められたかと思えば、ぱったり音沙汰なし状態が続く「エージェンジーの世界」も、苛立ちが募る原因となっている。
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機会コストと時間給
とある起業家によると、「スタートアップのエージェンシーに対する不満の大きな原因は、何度も実施させられるご挨拶ミーティングだ」という。「エージェンシーは、スタートアップを引き連れて、彼らの得意分野をプレゼンさせるのが大好きだ。スタートアップ側では、具体的な見返りが見えてこないまま、エージェンシーの社内チームやクライアントへの紹介ミーティングのために、何度も時間を取らされている」。
こうしたご挨拶ミーティングは、電話会議でも小グループへのプレゼンでも、エージェンシーにとっては情報収集や勉強会のようなものにすぎないことが多いという。情報収集段階が非常に長く、また、大手ブランドでは予算をかなり前から確定しており、実際のビジネス案件が具体化するまでには実に長い時間がかかる。
「ミーティングの繰り返しは、エージェンシーを交えた純然たる営業プロセスだ」と起業家氏。「スタートアップ側は、自分たちが提供できる価値や得意分野について、辛抱強く営業を続けるべき。そのうち、大きな見返りがあるはず」。
その可能性は確かにある。しかし、エージェンシーのビジネスモデルは、スタートアップのそれとはかなり異なる。ブランドとの「先が見えない」ミーティングは、スタートアップにとっては機会コストだが、エージェンシーにとっては、1時間いくらの報酬で請求書が切れる時間なのだ。
ROIをめぐる不平等
インフルエンサーマーケティングのスタートアップ、「ナック(Gnack)」の共同創立者兼CROであるチコ・ティラド氏は、クライアントからの突然のリクエストにも応えなければならないという、エージェンシーに特有のプレッシャーについて言及している。このプレッシャーへの対応策として、「多くのサービスプロバイダを待機させてはおくが、実際に仕事をしたことはない」状態になることがあるという。
単にクライアントがプロジェクトを打ち切る場合もある。結局のところ、いままで誰もやったことがない仕事をやってみせろ、ただしROIは保証つきで、と冗談のような無理難題を言ってくるのがクライアントだ。
マーケティングスタートアップ「アクイジオ(Acquisio)」のCROであるデーブ・マキニンチ氏は、「我々のパートナーエージェンシーの多くは、通常のフルキャンペーンに匹敵する労力をプレゼンにつぎ込んだ挙句に失注したり、あるいはプレゼンした一番いいアイデアを広告主クライアントに持って行かれ、インハウスで実施されてしまった、という目にあっている」と、述べている。
「こういう問題も、エージェンシーがクライアントに対して新テクノロジーを誰にでも使えるものとして見せたくない理由のひとつだ。エージェンシーに対するROIは無いからだ」。
橋渡し役となる人物が必要
エージェンシーがスタートアップをなかなかブランド広告主に引き合わせようとしないのは、別の理由もある。万全を期した完璧な企画をブランドに提示したいエージェンシーとしては、プレゼン経験が少ないスタートアップを表舞台に立たせ、顔を潰されたくはない。また、企画段階の後半になってから、「嬉しいサプライズ」としてクライアントに提案できるよう、スタートアップを隠し玉にしておきたいという目論見もある。
これはエージェンシーの手柄になるだけで、スタートアップにとっての利点は少ない。企画プロセスの一定ポイントを過ぎると予算は確定されており、最低限の予算しか動かすことができないからだ、と、エージェンシーのアイクロシング(iCrossing)にてコラボディレクターを務めるベン・コジンスキ氏は述べている。
「スタートアップの時間的な制約をエージェンシーは理解するべき。スタートアップは、案件が実を結ぶまで4カ月も待つ余裕はない」とコジンスキ氏。「エージェンシー内に、スタートアップというコミュニティの事情を理解し、リエゾン(橋渡し役)となる人材が必要だ」。
Yuyu Chen (原文 / 訳:片岡直子)
Photo by Thinkstock / Getty Image