ガートナー ジャパンは2月21~22日「ガートナー カスタマー 360 サミット 2017」を開いた。22日の「ここがおかしい、日本企業のアプローチ」 と題されたセッションでは日本企業のIT関連投資や商慣行について議論。インフラ投資重視傾向やCRM自社開発、最高マーケティング責任者(CMO)ポストの有無から名刺交換にまで話が及んだ。
ガートナー ジャパンは2月21〜22日に「ガートナー カスタマー 360サミット 2017」を開催した。「ここがおかしい、日本企業のアプローチ」と題されたセッションでは日本企業のIT関連投資や商慣行について議論した。ITインフラ投資重視傾向やCRM自社開発、最高マーケティング責任者(CMO)ポストの有無から名刺交換にまで話が及んだ。
日本のIT投資はインフラ系中心?
ガートナー リサーチ部門 顧客関係管理 (CRM) アプリケーション担当 リサーチ ディレクターの川辺謙介氏は日本におけるIT投資の現状を知るため、米国を100とし日英を比較。項目はインフラ系、業務系、顧客系に分けられている。日本はインフラ系に積極的に投資する傾向があるが、業務系、顧客系の投資が消極的だという。
川辺氏は「日本企業は顧客系の業務はテクノロジーに頼るよりは、人手を介したほうが良いと考えている」「安心・安全思考が強い」「CRMには自社開発も多いため、ソフトウェア投資の項目には含まれていない可能性がある」などの仮説を出した。
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ガートナー リサーチ部門 リサーチ バイス プレジデント兼 最上級アナリストのエド・トンプソン氏は「日本の場合CRMがカスタム開発のため、顧客系の投資に含まれていない部分もある。CRMやコマースに関しては、英国と日本は似ている部分がある。1995年当時、英国企業はCRMやコマースの機能を自社開発した。日本も私の印象では、パッケージのソフトウェアと自社開発が50/50ではないだろうか」と語った。
英国人のトンプソン氏は「日本を米、英と比べたときに異なるのは、英企業はアウトソースを好む。海外や地方のカスタマーセンター利用する。これがある程度、英国が業務系支出が大きく示されていることの背景と言えるだろう」と指摘した。
小国が先を行く欧州
トンプソン氏は「欧州の大国は自国内でお互いに様子見をしている傾向がある(その分積極的な投資はしない)。逆に小国は国際的でないといけないため、そういう余裕はない。つまり、欧州のIT投資が進んでいるのはイギリス、ドイツ、フランスではなく、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、スイス、オランダだ。小国はボーダーをまたいでアイデアを採用し、大国に対して先行している」と指摘。
「日本企業で興味深いのは、ある領域ではとても先進的だし、ある領域ではとても後進的な点だ。英国でロボットを見ることはできない。ここまでたくさんの自動販売機も見られない。現金中心の決済は奇妙なほどに興味深い。ベンチャーキャピタルはかなり遅れている。日本はビジネス業務で紙をまだたくさん利用していて、英国は紙をなくしてきた」。
ガートナー リサーチ部門 リサーチ バイス プレジデント兼 最上級アナリストのマイケル・マオズ氏は「米企業でCMOをもたないのはガートナーだけだ。ほとんどの米企業は決定的なマーケティングのモーメント(瞬間)をつかむためにCMOをもっている」と説明した。
ガートナー リサーチ部門 マネージング バイス プレジデントのジーン・アルバレス氏は「動きの速いコカ・コーラ、ペプシコのような消費財メーカーやテクノロジー企業にはCMOが必ずいる。金融機関もポストをつくった」と語った。
CMOとアナリティクス
川辺氏は「自社のCMOに適任な人材の出自を質問すると、社内出身者が主流だが、同じ割合で社外出身者が推されている」と調査内容を公開。川辺氏は「これを見る限りでは日本企業にはまだマーケティングの知識が蓄積されていないようだ」と指摘。「日本のマーケティング組織は成熟していないが、デジタル投資してマーケティングを回していくことにはとても勢いがある。これをどう考えるか」と提起した。
トンプソン氏は「これは日本にとって絶好の機会だ。最初に英国で起き、その後大陸欧州でも起きた変化だが、クリエイティブ重視のマーケティングから、アナリティクス重視のマーケティングへと移行するチャンス。デジタルマーケティング機能を築こうとする大陸欧州企業に話していることだが、最大の課題はアナリティクススキルだ。ウェブサイト、アプリ、リードなどが生み出す膨大なデータを正しく分析しないといけない。アナリティクスのバックグラウンドをもつ学生はいとも簡単に職を見つけることができる」と指摘した。
マオズ氏は「マーケティング部署を超えた動きのできる確固としたCMOが必要になる。最高のタイミングを捉えてマーケティングをしないといけない」と語った。
名刺交換はセレモニー?
会場では名刺交換のシーンの動画が示された。川辺氏は3者に対して感想を求めた。
アルバレス氏は「アメリカや欧州ではLinkedInが一般的になり、名刺をもたないのが普通だ。ミーティングの後に検索して相手を見つけるのが普通だ。LinkedInはバーチャルな名刺になっており、だからこそビジネスネットワークにアクセスしたいマイクロソフトが買収した」と分析。
他のセッションでは顧客がネットで事前に情報収集をしており、売り手が買い手に対して情報優位であることが既になくなりつつ有ると指摘されていた。営業で初めて対面した段階で、営業先から発注要件を渡される傾向なども話し合われた。
3者からこの相手が自分を知り尽くしている状況では、名刺が表現できる情報が少ないことが指摘された。
「顧客は最初にオンラインでプロダクトを探し出しており、調べ上げている。営業と対面したときは次のステップに進めるかをすでに考えている。名刺交換はこの類のコミュニケーションから余りにも遠い」と語った。
トンプソン氏によると、ドイツの一部の地域や中東以外では名刺交換をしなくなっているという。
Written by 吉田拓史/ Takushi Yoshida
Photo by GettyImage