スマートフォンユーザーは増え続け、利用時間も増加する一方だが、モバイル広告費は全体の広告費の8%しかない。だからこそ、今後の成長が約束されているように見えるが、そんな楽観的にもいられないようだ。注意深くその成長を見守る必要について、5つのグラフで示す。
いまやスマートフォンの台頭に疑問を挟む余地はない。だが、今後の成長にどれだけの伸びしろが残されていて、どのくらいのスピードでそれをカバーできるかという点においては、誰も正確な予測はできないだろう。だからこそ、デジタル市場にとって、これから注目すべき重要な視点のひとつといえる。
最初にアメリカ国内のスマートフォンユーザーの動向を紹介しよう。アプリ分析会社のFlurryによると、アメリカ人が1日にモバイル端末を使っている時間は、平均2時間57分。これは、アメリカ人がテレビを見て過ごす時間よりもわずかに長いそうだ。
また、マーケットリサーチ会社のeMarketerの調査によると、全世界的なスマートフォン所有者数は、2016年までに20億人を超えると予想。これは世界の携帯電話所有人口の半分に当たる数だという。そのようなスマートフォンの普及と使用時間の増加に伴い、モバイル広告費もまた増加傾向にある。以下に最新の予測を示す。
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1. モバイル広告の支出額は、2018年にデスクトップのそれを抜く
ディスプレイアドの全盛期はすでに終わった。広告ブロックが普及し、CTRやCPMが減少しはじめ、そのセールスはすでに厳しい。一方で、全世界的に初めてスマートフォンを手にするユーザーは増えている。あわせて、スマートフォンの利用時間も増え続け、モバイル端末の広告媒体としての将来性は、ますます高まった。そんな背景をもとに、大手会計コンサルタント会社PwCによる最近のレポートでは、2018年までにモバイル広告費(支出額)がデスクトップ広告費を上回ると予測している(上図、黄色のライン)。
2. モバイル広告の伸び率は高いが、いまだテレビが王者の2017年
モバイル広告は増大しているが、広告全体を見たとき、グローバルの広告出稿額の大半は今でもテレビに割かれている。ROI(投資対効果)を分析しているエージェンシー、ZenithOptimediaの最新レポートによると、グローバルの広告出稿額の39%を占めているテレビ広告は、今後わずかながら減少傾向。2017年までに、そのシェアは36.8%にまで下がると見ている。一方で、モバイル広告の全体に占める割合は、12.9%になると予測(上図、ピンクの部分)。2年後でも、そこには3倍の開きがある。
3. モバイル広告収益の成長率は、2015年から鈍化する
メディア戦略を行うMagna Reportの調査によると、モバイル広告収益の成長率は、テレビ広告収益の成長率に比べて、非常に活発であると報告されている。しかし、今後グローバルのモバイル広告収益の成長率は、年々下がると予測。
2014年には89%もあったのに比べて、2016年には約半分の39%となるようだ(上図:水色の折れ線)。反面、テレビ広告収益の成長率は、2014年の3.9%から2016年の5.3%へと息を吹き返す(上図:薄赤の折れ線)。その時、モバイル広告収益は680億ドル(上図:青の棒)、テレビ広告収益は2,080億ドル(上図:赤の棒)。まだ、3倍の開きが残されている。
4. モバイル広告市場を寡占する、GoogleとFacebook
先述のマーケットリサーチ会社のeMarketer の調査によると、モバイル広告収益はむらなく全体に分配されてはおらず、Google(上図:緑の棒)とFacebook(上図:濃紺の棒)だけに、約半分の収益が割り当てられている。2015年の予測だけを見ても、アメリカのモバイル広告収益全体が280億ドルであることに対して、Google(34.9%)とFacebook(17.1%)だけで52%のシェアを獲得。次点の競合であるTwitterは4.6%、Yahoo! は4.1%にとどまった。この傾向はほぼ変わらないと予測されている。
5. しかし、モバイル広告の可能性は、250億ドル以上?

各メディアの接触時間と広告出稿額の比較
だが、ここでモバイル利用時間と広告出稿額のギャップに関する興味深いデータを紹介しよう。ベンチャーキャピタル企業 Kleiner Perkins のアナリスト、マリー・ミーカーのインターネットトレンドレポートだ。アメリカ人は、メディアに触れる時間の24%をモバイル端末に割いているにもかかわらず、全体の広告出稿額に対してモバイル出稿はわずか8%。これは250億ドル(約3兆円)のギャップを生んでいると見られている。なお、新聞への出稿額は全体の18 %もあるが、新聞に触れる時間は4%しかない。
利用時間に対して、250億ドルも低く見積もられるモバイル広告費。しかし、たとえそのギャップを埋めたとしても、半分はGoogleとFacebookに分配されてしまう状況は、健全であるとはいいがたい。そのうえ、成長の鈍化も予測されているこの分野。楽観的な要素だけが転がっているわけではなさそうだ。
Ricardo Bilton(原文 / 訳:片岡直子)
photo by Thinkstock / Getty Images