1月10日に開かれた「Data Driven Marketing Conference」(主催ユーザーローカル)。シリコンバレー企業のSeachman(サーチマン)共同創業者で、「決算が読めるようになるノート」で知られる柴田尚樹氏がシリコンバレーのデジタルマーケティングとデータ解析の状況に関して解説。GoogleとFacebookによるデュオポリー(2社独占)に触れ、マーケターがデータ解析などの戦略的部分に集中できる仕組みを提案した。
1月10日に開かれた「Data Driven Marketing Conference」(主催ユーザーローカル)。シリコンバレー企業のSeachman(サーチマン)共同創業者で、有名ブログ「決算が読めるようになるノート」で知られる柴田尚樹氏がシリコンバレーのデジタルマーケティングとデータ解析を解説。GoogleとFacebookによるデュオポリー(2社独占)に触れ、マーケターがデータ解析などの戦略的部分に集中できる仕組みを提案した。
まず、柴田氏はスマートフォンの利用時間はアプリ86%、モバイルWeb14%とアプリが優勢になっていると指摘した(eMarketer)。「だからと言って必ずしもアプリを作ればいいわけではない。ビジター数はモバイルWebがアプリの3倍に上っている。ユーザーは調べ物をするために頻繁にモバイルWebを訪れる」。
利用時間と利用頻度が高いものがアプリに適している、と説明している。「Facebookでは、メッセンジング、グループチャットの利用頻度が本体の他機能より圧倒的に高いので、別アプリに切り分けた。新しいアプリのリリースは、ダウンロードを促すために多額のマーケティング費用がかかるが、それでもやった」。
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「アリババのタオバオでは(1ユーザー当たり)年間50回程度の購買が起きると言われる。ユーザーは購買前に商品を調べるため、タオバオへの再訪を繰り返しており、利用頻度が高い。これくらいないと、ダウンロードさせるコストが高い」。
面からピープルベースへ
デジタルマーケティングで起きていることとして、面単位のトラッキングから人単位のトラッキングへの変化を挙げた。従来型のCookieのみから、識別子(ID)を利用するようになった。DIGIDAYでも何度も取り上げているピープルベースマーケティング(人単位のマーケティング)。柴田氏はモバイルの広告の精度は、デスクトップ広告並まで向上したと説明した。
柴田氏の友人が経営するホテルアプリでは、モバイルで常時5000くらいのキャンペーンを同時に回している。それぞれに何十というクリエイティブをつくって投下しているという。
ウィナーテイクオール
GoogleとFacebookが圧倒的な力を見せている。アプリの訪問者数では、上位10アプリのうち8アプリがGoogleとFacebookのもの。YouTubeはGoogle、インスタグラムはFacebookのものだ。ここではコムスコアのモバイルアップリポート2016を参照する。
柴田氏は米国のデジタル媒体社団体「デジタルコンテントネクスト」のジェイソン・キント氏の指摘に触れた。GoogleとFacebookは市場の伸びた分のシェア(成長シェア)の99%を占める。「そのほか」の成長シェアは1%にとどまっている(下)。
updated duopoly #s. new IAB data came out yesterday. easy to run vs earnings for goog and fb, it’s evident everyone else is zero sum game. pic.twitter.com/wolgdpfcxp
— Jason Kint (@jason_kint) December 30, 2016
さまざまな議論があるが、両者が寡占を強いていることには変わりがないだろう。上述の「人単位マーケティング」を上手く行えるのは、GoogleやFacebookだ。
柴田氏は2社の強さの理由をこう説明する。
*膨大なユーザー数
*精緻なユーザーの属性情報
*強固なビジネスモデルとアグレッシブなR&D投資
「広告事業が儲かり、人工知能などに投資し、その投資の成果により、広告の競争力が増すという循環が起きている」。
マーケター業務の多様化、仕事量の増大
柴田氏は「マーケターは忙しい。仕事量が圧倒的に増えている」と指摘している。その理由をこう説明する。
*自社メディアの多様化
*トラッキング精緻化
*広告プラットフォームの多機能化(精緻なターゲティングが可能)
「テレビ広告というネットから見ると、大雑把なキャンペーンをやっていたが、いまは同時に細かいことをたくさんやらないといけない」。
「1番の希少なリソースはエンジニアだ。シリコンバレーでも、GoogleやFacebookがエンジニアを取り込んでしまうので、他の企業は常にエンジニア不足に苦しむことになる」。
エンジニアにとって次のような要望は嫌だ、と自身もエンジニアである柴田氏は説明する。「新しい広告ツール入れてくれ」「広告キャンペーン用に対象ユーザーを吐き出してください」――。エンジニアは自分がプロダクトをつくっていると考えている。
サード・パーティでSaaSで提供されているものは「餅は餅屋」で任せ、自分らではやらないというのがシリコンバレーでは鉄則になっているそうだ。「Set & Forget(一端設定したら後は放っておける)」。たとえば、アナリティクスAPIの「Segment.io」を挿入しておくだけで、あとからクラウド上で複数のアナリティクスツールへデータを同期でき、データウェアハウスへデータを流し込めるという。一度入れたらエンジニアに作業を求めないで済むのだ。
戦略的なコア部分に時間を
「ビッグデータに対応するのはそんなに難しいことではない。最初に拡張性があるデータウェアハウスを選定すればいい。データが増えるよりもコンピュータが先に速くなる」と柴田氏は語った。
*エンジニアの手を煩わせない
*マーケターがSQLを書けるようになる
「(先述の)ホテルアプリだったら、キャンペーン運用は外部の代理店をつかっている。どうやってセグメンテーションするかという仮説出しは自分らでやる。それぞれのクリエイティブはこうやろう、というのは外注。キャンペーンを運用するというのもコアじゃないので外注する」。
これにより、現状時間をとるエンジニアとの調整を圧縮して、外注に出していた戦略的な部分は取り戻す。戦略立案・分析の部分を拡大する。これにより、マーケターが使う時間を有意義な部分に振り向けられるようになる、と柴田氏は説明した。
ただ、コア業務であるデータ分析を内製するためのデータサイエンティストは圧倒的に不足していると柴田氏は指摘した。
※DIGIDAY[日本版]は「Data Driven Marketing Conference」のメディアスポサンサーです。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock