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燃え尽きて業界を去る、ソーシャルメディアマネージャーたち :「トラウマを常にもたらすマシンのよう」

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マーク・フィリップス氏は、極端なオンライン生活に疲れ切っていた。元ソーシャルメディアマネージャーである同氏は、受賞歴もある世界的ブランドで働いていた。しかし、2017年には、すでにうんざりしていた。

政治的緊張感がみなぎり、Twitterのボットが増殖し、学校で銃乱射事件が発生する頻度が高まっていたと、フィリップス氏は話す。

かつては夢見た仕事だったが、すぐに気力を奪われるようになった。そこで、会社を辞め、フォーチュン500入りしているB2B専門のテック企業でディレクターレベルの正社員として仕事を続けた。なお、フィリップス氏は、そのテック企業の社名を明らかにするのは避けた。

「ある晩、地下鉄で家に帰るときに一瞬、こう思った。『これからも、ソーシャルメディアの予定表をExcelで作成し、オンラインでの会話で1日中、ブランドを売り込むだけの人生を送ることになるのか?』」と、フィリップス氏はメールで告白した。

「精神的に参ってしまう」

フィリップス氏だけではない。さらに多くのソーシャルメディアマネージャーが、長時間労働や低賃金、憎しみに満ちたコメントを果てしなくスクロールする日々が理由で、その職を離れようとしている。それに、複数のソーシャルメディアマネージャーによると、現在の二極化した政治情勢は、火に油を注いでいるだけだという。

政界の最近の混乱を踏まえて、ソーシャルメディアプラットフォームは次々と、トランプ米大統領のアカウントを停止したり制限したりしてきた。この変化は、プラットフォームが持つ力に関するソーシャルメディアでの会話に火をつけた。その舵取りをするのがソーシャルメディアマネージャーであり、彼らの多くは、業界とそのなかで果たす自身の役割について疑問を投げかけている。

通常、大惨事に見舞われると、広告主とソーシャルメディアマネージャーはコンテンツを停止する。そして、数日経ってから仕事に戻る。だが、ストラテジストのエイミー・ブラウン氏にとって、先日の出来事は警鐘だった。この10年間の経歴は、「トランプ大統領を支持するオルト・ライト(オルタナ右翼)と陰謀論グループQAnon(キューアノン)の台頭を最前列の席で目にし」、「自動車の衝突事故をスローモーションで見ている」ようだったという。

「ひとりの人間の脳で対処できるトラウマは限られており、Twitterは、トラウマを常にもたらすマシンのようだ。来る日も来る日もこうしたコンテンツを閲覧していると、精神的に参ってしまう」と、ブラウン氏はメールに書いている。

チームはぎりぎりの状態

ブラウン氏は、2012年からソーシャルメディアで大手ファストフードブランドや選挙の立候補者などのために働いてきたが、最終的にテック企業のフィグマ(Figma)にたどり着いた。フロリダ州の男がトランプ大統領に批判的な人たちにパイプ爆弾を送りつけた2018年のアメリカ郵便爆弾事件のときに、政治家のソーシャルチャネルの司令塔を務めた、といったエピソードもある。ブラウン氏は当時、Facebookに連絡し、コメントや個人的なメッセージで、殺害するという脅迫を日常的にチームが受けていることを知らせたが、必要な支援は得られなかったという(本記事掲載後、Facebookはブラウン氏の主張についてのコメントを避けた)。

最近の出来事を考慮して、大統領就任式の日に先立ち、TwitterとFacebookはそれぞれ、制作者向けプラットフォームで安全確保のために講じている措置を概説する声明を発表した。

Facebookは、広告主や制作者にとって安全なチャネルにすることを目標としたひとつの取り組みとして、SnapchatやTwitterのような企業とともに、グローバル・アライアンス・フォー・レスポンシブル・メディア(Global Alliance for Responsible Media:GARM)に参画していることを挙げた。

各プラットフォームは、コンテンツに警告ラベルを追加したり、暴力的な言葉をブロックしたりして、偽情報や過激主義の台頭を抑制する措置を取ってきたが、それらのサイトでアカウントを運用するチームを支援するには不十分だ、とブラウン氏は語る。複数のソーシャルメディアマネージャーによると、デジタル広告費が意思決定プロセスを左右し、ソーシャルメディアチームはぎりぎりの状態で、報われない仕事に対してサポートは最小限であることが多いという。

ブラウン氏がTwitterで不満を投稿すると、ブラウン氏のように、業界が今後変わるという確信が持てず、今は業界を抜け出そうと必死になっている多くのソーシャルメディアマネージャーの共感を呼んだ

理解していない上層部

米DIGIDAYが、現または元ソーシャルメディアマネージャー18人にインタビューしたところ、ブラウン氏のツイートに影響された人が多かった。過酷な労働時間や薄給、業界や職場であるプラットフォームからのサポートがほとんど、もしくは、まったくないことにより、仕事が重荷になったという。パニック発作やストレスによる脱毛など、職場環境が原因の健康問題を挙げる人もいた。現時点で、業界から抜け出そうと必死になっているのは、心の健康を維持するためだという。

ソーシャルメディアのプロたちは、グラフィックデザイナーやビジュアルエディター、コピーライター、ストラテジスト、コミュニティマネージャー、データアナリストの役割をこなすよう求められると語る。彼らは、組織の代弁者であり、昼も夜も働き、何かがうまくいかない時には、最前線に立たされることが多い。

スポーツ関連のあるソーシャルメディアマネージャーは匿名を条件に、上層部は仕事を理解していない場合が多いと話した。実際、無関心な対応だったので、上司や人事部門に苦情を言うのをやめたという。このソーシャルメディアマネージャーだけではない。さまざまな顧客を抱えるソーシャルメディアコンサルタントのエラ・ドーソン氏は、2013年からソーシャルメディアで働くなかで、大半の企業がソーシャルメディアマネージャーの役割を見過ごし、「雇用や職能開発、クリエイティブへの予算に社内投資せずに」活動するよう求めることに気付いた。

「企業戦略に不可欠な部分と考えられるべきだ。それなのに、ソーシャルメディア担当社員は、企業の戦略や目標に関する会話で話題にのぼることがどれほどあるのか。話題にのぼることはほとんどない。だから、やる気が削がれる」と、ドーソン氏はメールで述べている。

燃え尽き症候群に備えて

自分で作ったグループチャットやオンラインのチャットルームに安全な空間を見出したソーシャルメディアマネージャーもいる。ソーシャルメディアマネージャーのツールキットと、休憩を取るように、という幹部からの促し以外に、常時必要とされる仕事によるストレスを管理する業界全体のリソースやプロトコルは多くないと彼らはいう。

グレイ(Grey)でソーシャルメディア担当エグゼクティブディレクターを務めるケニー・ゴールド氏によると、苦痛をなくすためには、燃え尽き症候群や危機にすでに対処しているワーキンググループ全体に前例を拡大し、ソーシャルメディアを含めるようにする責任は、個々の企業にあるという。

ソーシャルメディア担当エグゼクティブディレクターとして、ゴールド氏は、最大15人の社員を管理するなかで、ソーシャルにおいては「何もかもが一度に舞い込み、その仕事をうまくこなすのが難しい」ことを理解している。自身のチームで燃え尽き症候群に備えて先手を打つために、ゴールド氏は、仕事をチーム全体に均等に分散したり、中心となる人物を早めに巻き込んだり、厳密な仕様書を作成したりといった手順を実施してきた。

「広告はチームスポーツである」

会員制のネットワーキングコミュニティ「SocialMedia.org」のような組織を挙げたソーシャルメディアマネージャーもいる。ゴールド氏が共同委員長を務めている会員制のアメリカ広告業協会 (American Association of Advertising Agencies:4A’s)ソーシャルメディア委員会もある。完全な解決策ではないが、ソーシャルメディア業界のより深い話題に関して重要な会話ができる中立な場だと、ゴールド氏は話す。

「何もかもが崩れ落ちかけていて、自分しかいないように感じられる世界では、広告はチームスポーツであり、自分がチームの一員であるように感じられることは、かすかな光明をもたらし、自分はひとりではないと感じられる」と、ゴールド氏は語った。

[原文:‘Always on trauma machine’: Social media managers grapple with burnout, leaving the industry

KIMEKO MCCOY(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)