Googleのクッキー代替案、FLoC(Federated Learning of Cohorts、コホートの連合学習)の欧州における試用遅延を巡る当初の騒ぎが収まるなか、マーケター勢は疲労の色こそ見せているが、パニックは起こしていない。
Googleのクッキー代替案、FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)の欧州における試用遅延を巡る当初の騒ぎが収まるなか、マーケター勢は疲労の色こそ見せているが、パニックは起こしていない。
大半の業界幹部にとって、この手の障害は経験済だ。疲労の原因が毎回変わり、新たな調整を毎回強いられることも承知している。とはいえ、いつまでも先が見えない状態にオンライン業界全体が落胆していることに変わりはない。遅々として進まないGoogleのプライバシー保護への方向転換は、錯綜するさまざまな感情を生んでいる。
何が起きたのか、どこにしわ寄せが及ぶのか、そして、この先数カ月でどのような形に落ち着くと思われるのか。以下にその要点をまとめた。
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ーーまずはもっとも重要な点から:この遅延が意味することを手短に
FLoCを試すつもりでいる欧州マーケター勢は、さらに数週間待たされることになる。アドエクスチェンジャー(AdExchanger)が最初に報じたとおり、欧州のプライバシー保護法に準拠すると認められるまで、Googleがプライバシーに配慮したこの新たなターゲティング法を試すことはない。そのためしばらくのあいだ、EU一般データ保護規則(GDPR)およびeプライバシー指令(ePrivacy Directive)が施行されていない国々、つまりプライバシー保護法に関してもっとも複雑な市場には、GoogleはFLoCを導入しない。そしてこれは、Googleにとっては結果的に吉と出る可能性もある――たとえ、ヨーロッパとその他地域で導入時期が変わることになるとしても、だ。
ーーこの状態は長らく続く?
Googleの現場が何かできるのであれば、それはない。たとえば、Chromeのプロダクトマネージャー、マーシャル・ヴェイル氏はツイートでこう発言している。「FLoCの試用を米国やほかの厳選した国で始める。その他地域についても、その後導入していきたい」。
とはいえ、GoogleのプロダクトマネージャーはGoogleのプライバシー保護担当弁護士ではない。そして、この問題は後者にしか解決できない。
ややこしいのはここからだ。
個人情報なしでFLoCがどう機能するのかについては、いまだ不透明としか言えない。理論上、FLoCの構成要素に個人情報は入らない。IDも、実名も、会員番号も含まれないし、のちに共有されることもない。だが、弁護士が不安視しているのはそのプロセスではない――プロダクトそのものだ。事実、FLoCが広告主に認めるターゲティング法は、エンドユーザー側でプライバシーの侵害と捉えられかねない。したがって、導入がいつまで伸びるのかは、詰まるところ、FLoCの仕組みを弁護士らがいつ理解できるかにかかかっている――Cookie連携の理解に要した時間を考えれば、相応の長さになる可能性がある。
FLoCは平たく言うと、ユーザーの識別子が、それをターゲティング広告に利用する広告業者間で交換されないようにすることでプライバシーを保護する。つまり、個人に関わる情報はすべて、ブラウザのユーザー側に留まることになる。別の言い方をすれば、これは人々の個人データそのものではなく、共有できる部分だけを特定のFLoCに振り分けるよう訓練されたAI、ということだ。そして、このモデルは他ブラウザの他モデルと融合されてコホートを創造し、それがユーザー個人のブラウザと共有される。
ーーだが、FLoCのプロセスにはデータ共有に対するユーザーの同意が含まれていない。Googleの懸念は?
確かに、そこは懸念材料だ。FLoCのプロセスにユーザーの同意を得る行為は(少なくとも、今のところは)含まれていない。そのため、この点は目のうえのこぶ的な存在であり、DPA(データ保護当局)が安全と見なすかどうかについては、何とも言えない。
ーーマーケターはこの遅延について心配している?
FLoCに対する準備のペースは思っていたほど上がっていないかもしれないが、マーケターが対応しなければならないことに変わりはない。欧州連合(EU)でのFLoC使用に関する報道による、「EUのクライアントのFLoC試用予定における大幅な変更は、いまのところ生じていない」と、世界的な菓子/健康食品メーカー、モンデリーズも顧客に持つ、データ処理に特化したエージェンシー、マイティハイヴ(MightyHive)のグローバルデータ部門EVPタイラー・ピエツ氏は語っている。ただし、多国籍ブランドの大半には米国を新技術/戦略を試す場として利用する傾向があり、それゆえFLoCを欧州で試す具体的な計画自体がまだないのでは、とも氏は言い添える。「我々のクライアントである世界的および多国籍企業の大半が重視しているのは、自社の事業に広く適応できる洞察を得られる、洗練された市場で試すという選択肢を持てることであり、だからこそ彼らの多くは、この手のパイロット版を試運転する場として、米国を望ましい市場と見ている」。
ーーこの遅延は連鎖反応を引き起こす?
7人の広告業界幹部に取材したが、この遅れは当初の計画の大きな妨げにはならない、というのが基本的な見方のようだ。つまり、何かあるとしても、業界の準備時間が延びるだけで、いずれ実行に移されると考えている――Googleが自身の広告ビジネスを危機に晒したいわけがない。となれば、FLoCが使えるマーケットと使えないマーケットの併存という状態に無理やりするよりも、サードパーティCookieをブロックする計画を延期するほうが先だろう、と。「詰まるところ、GoogleのビジネスはChromeではなく、広告で成り立っている。だからこそ、Chromeチームがいくら1月という当初の予定にこだわろうとも、FLoCが欧州で使えない以上、Google上層部がゴーサインを出すとは思えない」とアドテクベンダー、アドフォーム(Adform)のチーフテクノロジーオフィサー、ヨハン・シュロッサー氏は言う。「欧州における彼らの広告ビジネスにとって、大きなリスクファクターになるからだ」。
とどのつまり、広告主勢がGoogleを好むのは、後者にはグローバルなソルーションがあるからに尽きる。逆に言うと、欧州がそこに含まれないとすれば、広告主はGoogleに広告を打つうまみをひとつ失うことになる。
ーーFLoCの欧州における遅延は、競合ソリューションにとってのチャンスになりうる?
もたついているGoogleをいつまでも待っていられるほどパブリッシャー勢に余裕はない、という意味では、イエスだ。欧州でも使えるほかの非Cookie代替案を利用してほかのブラウザ、たとえばSafariから増分収益を得られる状態になれば、Googleを待つとは思えない。「ビジネスの安定した未来をFLoCに託しているところは、ほかの選択肢をまだ吟味していないのであれば、早くそうしたほうがいい。当初の戦略は今、見直しを迫られている」とシュロッサー氏は言う。
[原文:So FLoC trials are delayed in Europe thanks to GDPR. Now what?]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)