エージェンシーの幹部たちは、在宅勤務の環境整備を念頭に、各種手当や制度の見直しが必要だと考えている。コロナ禍が収束を迎えても、従業員のなかには、出社と在宅のハイブリッドを選択するものが出てくるだろう。そうなれば、部下に在宅勤務を許可する管理職者にとって、在宅で快適に働ける環境作りは以前よりも重要な課題となる。
この夏、シカゴを本拠とする広告エージェンシーのOKRPは、従業員たちに「各自のオフィスチェア、スタンディングデスク、大型のPCモニターを貸与するので家に持ち帰ってよい」と通達した。在宅勤務がこの先しばらく続くなら、オフィスの備品や什器を使われぬまま放置するよりも、従業員に貸し出して、仕事環境の改善に役立てるべきだと考えたのだ。
「多くの従業員が備品貸与の申し出に応じた」と、最高業務責任者(COO)のラフル・ロイ氏は語る。「皆に喜んでもらえたと思う。大量のデスクやチェアを貸し出した」。
OKRPは福利厚生制度の拡充もおこなった。たとえば、自宅のWiFi環境の改善を必要とする従業員には、そのための費用を支給する。在宅勤務を支援する追加的な手当や制度を検討しているのはOKRPだけではない。マーカストーマス(Marcus Thomas)、イノーシャン(Innocean)、イレブン(Eleven)など、多くのエージェンシーが従業員の仕事環境を改善するために、オフィス家具の貸与や特別手当の支給をおこなっている。
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「自分たちはちゃんと聞いている」
エージェンシーの幹部たちは、在宅勤務の環境整備を念頭に、各種手当や制度の見直しが必要だと考えている。新型コロナウイルス感染症の流行が収束を迎えたとしても(それがいつになるかは別として)、従業員のなかには、出社と在宅のハイブリッドを選択するものが出てくるだろう。そうなれば、部下に在宅勤務を許可する管理職者にとって、在宅で快適に働ける環境作りは以前よりも重要な課題となる。
「パンデミックが収束しても、従業員たちは、週に数日の、ひょっとすると恒久的な在宅勤務を望むだろう」。クリーブランドを本拠とする独立系クリエイティブエージェンシーのマーカストーマスでCOOを務めるスコット・チェイピン氏はそう語る。同氏によると、マーカストーマスでは、オフィス家具の貸与に加えて、「仕事に必要な備品を買いそろえる」費用を助成するために、上限200ドル(約2万円)の給付制度を新設した。
多くのエージェンシーが新たな給付金を設けて、ホームオフィスやWiFi環境の整備を助成するのは、従業員に対して、「自分たちはちゃんと聞いている」という姿勢を示すためだ。そう説明するのは、イノーシャンのシニアバイスプレジデント兼HR担当役員であるカーク・ガスリー氏だ。イノーシャンでは、オフィスの備品や家具の持ち帰りを早い時期から認めていたが、先週から上限200ドルの給付金の支給も開始した。「誰もがインターネット接続で苦労していた」とガスリー氏は明かす。「会社が費用を負担すれば、接続環境の改善を図る者も出てくるだろう。誰もが少しずつ努力することで、大きな改善につながるはずだ」。
これからのオフィスのあるべき姿し
チェイピン氏によると、マーカストーマスの経営陣は、将来的に従業員が出社と在宅のハイブリッドワークを選択することを想定して、「これからのオフィスのあるべき姿」を模索しているという。「ソーシャルディスタンスの確保と従業員の一体感を両立させるため、複数のカメラやテレビを用いてさまざまな実験をおこなっている。そこにいる人にとっても、そこにいない人にとっても、うまく機能するような会議室の再構築をめざしている」。
ほかにも多くのエージェンシーがオフィスの見直しに取り組んでいる。たとえば、ニューヨークを本拠とする独立系エージェンシーのグッドアップル(Good Apple)は、オフィスの必要性そのものについて再考している。創業者のアル・ムザウリエタ氏は、「来年は、新しい働き方や事業に与える影響について、本格的な研究をはじめるつもりだ」と述べている。
同氏はさらにこう付言する。「物理的なオフィスを全面的に廃止して、浮いた賃料を従業員に還元するのも一案だ。いま確実に言えるのは、従業員にはより大きな自由を、顧客にはより大きな満足を提供したいということだ」。
オフィススペースも同時に維持
とはいえ、従業員の誰もがぜいたくなホームオフィスを用意できるわけではない。「同居人がいる場合はとくに難しい」。ロンドンを本拠とするデザインエージェンシー、スーン(Soon)の業務責任者を務めるキャロライン・マスカリン氏はそう指摘する。このため、スーンでは、リモートワークの実施中もオフィススペースは維持している。おかげで従業員は、自宅が騒がしいとか、インターネットの処理速度が遅いといった場合には、出社して仕事をすることもできる。
「ともすれば、誰もが自宅に仕事用のスペースやホームオフィスを持っていると想定しがちだが、ロンドンのような都市部では、必ずしもそうではない」とマスカリン氏は警告する。「出社する必要のある従業員のために、柔軟な選択肢を提供し、オフィスを維持することは一考に値する」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)