気骨と酩酊、そして文化が渾然一体となったロンドンのソーホー地区は、かつてエージェンシーライフの中心地だった。しかし、家賃が跳ね上がり、ポルノショップのあった場所が手作りの菓子店へと変わるにつれて、多くの業界人がW1(西1区)の利点を考え直すようになった。
気骨と酩酊、そして文化が渾然一体となったロンドンのソーホー地区は、かつてエージェンシーライフの中心地だった。しかし、家賃が跳ね上がり、ポルノショップのあった場所が手作りの菓子店へと変わるにつれて、多くの業界人がW1(西1区)の利点を考え直すようになった。
ソーホーに取り残されたのは、家賃を安値のまま据え置く先見の明をもっていた企業や、創業者たちのソーホー愛を裏切ることを拒んだ企業(BBH)、おそらくはIPOを間近に控えているせいでそんなことなど気にしていられない企業(Snapchat[スナップチャット])などだろう。しかし、その数がどんどん減っていることはたしかだ。
セントラルロンドンからの大移動はかなり以前から待ち望まれていたが、最近になってオムニコム・グループ(Omnicom Group)やオグルヴィ・アンド・メイザー・グループ(Ogilvy & Mather Group)、ハバス・メディア・グループ(Havas Media Group)などの企業の移動により、弾みがついてきた。これらの企業は、傘下にあるさまざまなエージェンシーをサザークまたはキングスクロスにまとめる計画を進めている。
Advertisement
いまやロンドン広告業界の地図は20年、いや10年前と比べてすっかり様変わりした。もはや、その中心地を指し示すこともできなくなっている。
2012 → 2016 の推移
ソーホーをあとにしたクリエイティブたちが根城に選んだ最初の場所はイーストロンドン。テック系スタートアップやストリートアートツアー、ウェアハウスパーティーのメッカだ。マザー(Mother)に続き(1枚目の地図参照)、ほかのエージェンシーも彼の地のクールな要素、ひいてはエージェンシーの生命線ともいえるクールなクリエイティブを追い求めた。そして2016年、そこにヒュージ(Huge)とR/GAも仲間入りを果たした(2枚目の地図参照)。

2012年のロンドン。この地図でR/GAやTBWAなどが密集するあたりがソーホー。マザーはすでにイーストロンドンへ

2016年のロンドン。ソーホーのあたりが空洞化し、より分散化されている。ヒュージとR/GAもイーストロンドンへ、オグルヴィはサウスバンク方面に移動
南に目を向けると、テムズ川の河畔に本社を構えるアイリス・ワールドワイド(iris Worldwide)や英民放大手ITVなど、SE1(南東1区)を熱烈に支持する企業の列に加わるエージェンシーも増えつつある。テムズ川の河畔はいま、軒を連ねるギャラリーや劇場などのカルチャースポットで活気に満ちている。
このサウスバンク一派に最近加わったのが、オグルヴィ・アンド・メイザー・グループだ(2枚目の地図参照)。同社は今年、近代美術館のテート・モダン(Tate Modern)やビジネス街のカナリー・ワーフから目と鼻の先にある「シーコンテナハウス(Sea Containers House)」に引っ越した。
オグルヴィ・アンド・メイザー・グループUKでCEOを務めるアネット・キング氏は、次のように述べている。「私はソーホーを愛しているが、ソーホーが広告業界の中心地でなくなって久しいように思う。クリエイティブな面で繁栄するロンドンのほかの地区にエージェンシーが移動する状態は、もう何年も前から続いている。おもに東部と北部だが、いまはそこに南部を加えてもいいだろう」。
近い将来のロンドン勢力図
SE1(南東1区)の魅力のひとつは、再開発の途上にあるエリアを所有できる可能性だ。「古さと新しさが交わる場所に身を置けば、エージェンシーはいたるところで刺激を得られる」とキング氏は語る。Apple UK本社がバタシー発電所跡地に移転したことで、SE1(南東1区)に対する報道はさらに過熱した(3枚目の地図参照)。

近い将来のロンドン。大企業がセントラルを避け、より周辺地域に点在。Appleはテムズ川南岸、Googleおよびハバスはキングス・クロス方面へ
その一方で、テック系大手は北にも目を向けている。Google UKは2017年中に、36万5000平方フィート(約3万4000平方メートル)にもおよぶ広大な新オフィスをキングスクロスにオープン予定(3枚目の地図参照)。ハバス・メディア・グループは、同社がマンチェスターなどで展開する「ビレッジ」スタイルで、ロンドンに居を構える傘下の全エージェンシーを1カ所にまとめ、Google UKの新本社ビルのすぐ隣に引っ越す計画を進めている。
エージェンシーに大切なこと
ハバス・メディア・グループUKでCEOを務めるポール・フランプトン氏は、英紙「ガーディアン(The Guardian)」を発行するガーディアン・メディア・グループ(Guardian Media Group)やGoogle、注目を集めるアートカレッジのセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)に近い立地条件は、同社のプラスになると語る。
「付き合う相手と属するコミュニティーも、場所選びと同じくらい重要だ。大企業数社が筋書きを作れば、ほかもそれに追随すると私は常々思っている。近い将来、ここにスタートアップコミュニティーが誕生すると思う」。
フランプトン氏は、ハバスのエージェンシーをキングスクロスへ移転させるという決定は財務的事情によるものではないと述べている(3枚目の地図参照)。再開発が進むキングスクロス(セントラル・セント・マーチンズのキャンパスもそこにある)では、突如として出現した新しい劇場や成長中の飲食店街なども話題になっている。
ハバスにとってのもうひとつの利点は、ユーロスター(Eurostar)がパリにつながっていることだ。同社のグローバル本社はパリを拠点としている。「閉ざされたドアの奥に美しいオフィスを構える時代は過ぎ去った。大切なのは、人々のなかに溶け込むこと、文化の近くにいることだ」と同氏は語った。
Grace Caffyn (原文 / 訳:ガリレオ)