ほかの集団よりもZ世代において、うつ、不安、自殺念慮はますます珍しくなくなっていると研究が示している。大学にいるZ世代の学生たちは、ほかの世代と比べてこれらの問題の割合が2倍となっている、とする2019年の調査もある。その起因となる大きな要素は、テックとソーシャルメディアの圧倒的な数の多さだ。
アレックスはとあるスタートアップ企業のソーシャルメディア・マネージャーを務める22歳の社員だ。6カ月前、急行の3番線の満員電車で立っている時にパニック発作が起きた。
「死ぬと思ったとき、電話を眺めて、上司からのSlack(スラック)メッセージに応えながら、同時にインスタグラムをスクロールし、そして友人にテキストメッセージを送っているところだった」と、アレックスは言う。職場で「うつの男」とレッテルを貼られたくないため、アレックスは苗字を明かさないことを希望した。「山のような仕事に押し潰されているような感覚に襲われ、圧倒された。メッセージが四方八方から押し寄せて、とにかく、死にたくなった」と、彼は言う。
20歳の大学生であるベッキーにとって、これは馴染みのある感覚だ。「私は常に不安を抱えている。原因? 学校に通うこと。社交的な面も充実させるプレッシャーを感じること。政治。友達はスペインに留学しているのだけど、スペインで誰かが腎臓を盗まれたという記事をTwitterで読んだときも。コロナウイルス。知っている人は全員ガンになってる」と、彼女は言う。
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メンタルヘルスの問題が増加
若者たちはこれまでになく不安を感じている。若者、そして高齢者たちも、すべての人が不安だ。あらゆる人々がやらなくてはいけないことが多すぎる。アメリカは世界でもっとも働いている国だ。
しかし、1996年から2016年のあいだに生まれたZ世代に独特のうつ病、不安、そしてニヒリズムが存在する。彼らの多くはいま、大学を卒業して人生ではじめて仕事を経験しつつある。この傾向は若者たちのあいだで人気のTikTok(ティックトック)にも表れている。自分の気分を向上させるというテーマでの動画が新しいジャンルとなりつつあるのだ。「起きたらうつを感じた。それから私がしたことは」とつなげるコンテンツは人気になっている。同じ種類の抗うつ剤を使っているほかの人々と繋がる手法としても使われている。「シタロプラムっ子、どこにいる?」と、ユーザーのjuliakempner08は動画のひとつで呼びかけている。
ほかの集団よりもZ世代において、うつ、不安、自殺念慮はますます珍しくなくなっていると研究が示している。大学にいるZ世代の学生たちは、ほかの世代と比べてこれらの問題の割合が2倍となっている、とする2019年の調査もある。
背景にあるのはテックとSNS
もちろん、ほかの世代よりも若い世代の方がメンタルヘルスの問題について話題にすることにオープンになったという見方ももちろんある。つまり人々はこれまでもずっと、不安を抱えていたのだど、いまは人々がそれをより話題にするようになっただけだ、というものだ。しかしサイコロジー・トゥデイ(Psychology Today)によると、これは自殺率の増加の説明にはならない。
書籍『アメリカ人の思考を甘やかす:良い意図と悪いアイデアが一つの世代を失敗に陥らせる(The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting up a Generation for Failure)』をジョナサン・ハイト氏と共著したグレッグ・ルキアノフ氏は、次のように述べる。「ここ10年とその前の15年を比べたとき、若い人々の間での不安、うつは劇的な急増を見せている。それよりも古い時代のうつや不安に関する報告との意義のある比較は、医療トレンドや文化的なタブーの要素から難しい。10代の自殺率は10代の苦しみをある程度表象しているとして、10代後半の自殺率は1991年にピークを迎えており、いま、そのピークにかなり近づいていることがわかっている」と、彼は言う。
ルキアノフ氏(とハイト氏)にとって大きな要素は、テックとソーシャルメディアの圧倒的な数の多さだ。高校で起きるようないじめを現実を越えたレベルで引き起こしてしまうと、彼は言う。「中学校の一番最悪な時期が24時間、永遠に続くことを想像してみろと人々に言うと、彼らは震え上がる。もっともなことだ」。
ソーシャル断ちがもっとも効果的
パニック発作が起きたあと、ソーシャル・メディア・マネージャーのアレックスは母親のところへ行き、母親は彼をセラピストのところへ連れて行った。その結果、うつ病と診断された。薬を処方され、毎日30分の瞑想を行っている。またおそらく一番重要なことに、(個人の)ソーシャルメディアをすべて絶った。「自分という存在のすべてがそこに依拠していたことを考えると皮肉だが、それをする必要があった。我々のグループ全体がそうだ」。
これはルキアノフ氏の観察とも同じだ。「ソーシャルメディアは似たような思考をする人々が集まることを可能にする。それはうつや不安を抱えた人々が『お互いを見つける』ことも含まれる。現実世界の社交グループに関する研究によると、社交関係における人々のあいだでうつは広まることがあるとのことだ。もしも自分の周りの人々が不安やうつを抱えている場合、自分自身もそうなる可能性が高くなる」。
また、「仲間外れになっている恐怖」やストレス、そしてその結果としての悲しさを引き起こす。ベッキーは夜、ソーシャルメディアを更新しながら時間を費やしているという。「更新をして、ほかの人たちが何をしているかを見る。様子を見るひとつの方法だ。自分も同じくらい見た目が良いか? 彼女は何を着ているか? 自分はそれを購入できるお金を持っているか? 彼女にはなぜ友達がいるのか?」。
ペース大学に通う20歳の学生ジェシカは、投稿数を数える人がいると聞いたことがある、と語る。「私は2カ月くらい何も投稿してない。人々は私が何もしていないと思うだろうか?」。
「終わらない圧力がたくさん存在」
ひとつ前の世代と比べてみると、Z世代にとってほとんど意義を持っていない要素を、ミレニアル世代は通過してきた。それによって、彼らはまた、異なる世界の見方を持っている可能性がある。ほとんどのミレニアル世代は911が起きた時には子どもだった。ミレニアルは不況のなかで成人し、社会へと参加することになった。彼らは最初の黒人大統領を選んだ。テクノロジーにおける発展は彼らの青年期、そして大人の若い時代に素早く、かつ陽気なムードのなかで繰り広げられた。
Z世代にとって、これらは最初からあるものだ。彼らのうちほとんどが、戦争状態にないアメリカを知らない。またそれより前の世代とは違って、生まれたときからソーシャルメディアが存在している。
企業財務分野で働く22歳の社員であるサニーにとっても、問題は大学で始まったという。彼女の周りの人々がLinkedIn(リンクトイン)のプロフィールに磨きをかけはじめたあたりだ。ソーシャルメディアは常にステータスをアップデートする行為に思えると彼女は言う。ステータスがどれほど高いかを示している。
この傾向は職場でも続いている。「不安の内容が変わったと言える。大学での不安は学業に関してだった。大学では自分が追いかけていた仕事に関する漠然とした夢があった。いまでは夢のようなキャリアを欲している。次のステップに向けての終わらないプレッシャーがたくさん存在する。働きはじめて1カ月ほどだが、次は何かをすでに考えはじめている。ノンストップだ。ときどき息ができなくなる」と、彼女は言う。
Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)