2022年1月12日、Media.Monksと4 Mile Analyticsの合併が発表された。S4 Capitalのマーティン・ソレル氏は、巨大トプラットフォームがいかに統合促進に役立っているか、自社がどのように持株会社モデルを破壊しようとしているか、起業家が抱いている「不安」が何なのか議論した。
2021年の終わり方と同様に、2022年も、デジタルメディア業界における相次ぐM&A発表で幕を開けた。1月12日、メディアモンクス(Media.Monks)と4マイル・アナリティクス(4 Mile Analytics)の合併が発表された。
メディアモンクスの親会社であるS4キャピタル(S4 Capital)のエグゼクティブチェアマンであるマーティン・ソレル氏は声明で、4マイルが多数のインターネットの主要プラットフォーム、特にGoogleの分析サービスであるルッカー(Looker)とグーグル・クラウド(Google Cloud)で培った経験が、顧客のデジタルコンピテンシーを高めるために非常に重要であると述べた。
「我々は、アーンアウト(M&Aにおける『分割払い』で行う取引契約)をしているのではない。自分のビジネスを構築したい人を探している。どのような話し合いでも、最初に出てくることは『事業を売りたいのなら、X、Y、そしてZに相談してほしい』というものだ」と、ソレル氏は語る。
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4マイルの創業者で最高経営責任者のニック・フォグラー氏は以前、ルッカーのエンジニアリング・ディレクターを務めた経験があり、「インサイトを実用化する」ことを支援していると語る。この支援は、マーケティングコミュニケーション業務を含むメディア業務を改善するために、ファーストパーティデータへのアクセスと集計を支援することによって実行される。
フォグラー氏は米DIGIDAYに対し、4マイルが最近、フォーチュン500(Fortune 500)に含まれるクライアントを支援し、Facebookなど多くのプラットフォームで広告出稿データを取得し、キャンペーン実行を自動化できるようにしたことを説明した。
「クライアントのROI(投資利益率)を評価するためのアプリケーションを構築した」とフォグラー氏は付け加える。「広告メディアの取り込みを自動化し、さまざまなデータソース上でいつ、何を掲載するかを自動で割り出すことができる」。
一方、メディアモンクスのデータ担当グローバル・エグゼクティブバイスプレジデント、タイラー・ピエッツ氏は米DIGIDAYに、4マイルとの統合によって名目上、マーケティングチームがAmazon、Google、セールスフォース(Salesforce)などの主要プラットフォームを自在に使いこなすための支援からなる同社のサービスがどのように強化されるかを説明した。
ピエッツ氏は「クライアントが抱える最大の課題のひとつは、インサイトがサイロのなかでブロックされ、ビジネスの血流に乗らないことだ」と語り、4マイルにいる45人のデータ専門家がこれを軽減するのに役立つと付け加えた。
「インフラと化しているこれらの主要プラットフォーム内でどのように運用すればよいか(中略)データを操作し、モデル化し、ビジネスを行う際に、誰かが実行可能な方法で表現する方法を知っている人材は多くない」。
金銭面の条件は公には明かされていない。S4キャピタルは2018年の設立以来、このようなディールを20件以上行ってきた。とはいえ、従業員数が50人近く、2021年の売上が650万ドル(約7.4億円)だった4マイルは、メディアモンクの傘下に入ることが決まっている。
最近のM&Aについてのソレル氏の見解
投資銀行LUMAパートナーズ(LUMA Partners)は2021年通年の市場報告書のなかで、2021年はデジタルマーケティング分野全体にとって「際立った回復の年」であり、ディールメイキング活動は2020年から82%増加し、成立件数は399件に上ったと書いている。
さらに、同投資銀行は、戦略的バイヤーと金融バイヤーの両方が購買の熱狂に加わるため、「2022年にはM&A活動が活発化する」と予測している。
広告業界でもっとも有名な人物であり、一連のM&Aを通じてWPPを業界最大の持ち株会社グループに育て上げたソレル氏が米DIGIDAYのインタビューに答え、市場を動かしているものについての見解を述べた。
ソレル氏は、主要なインターネットプラットフォームがいかに統合促進に役立っているか、自分の会社がどのように持株会社モデルを破壊しようとしているか、起業家が抱いている「不安」が何なのかについて議論した。
インタビューは、わかりやすくするために編集・要約してある。
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――開発部門の人材不足が、現在のM&Aの状況を後押ししていると思うか?
M&Aは人材の獲得そのものではなく、優秀な人材が存在する機能の獲得であると考えている。この(4マイルとの)ディールは、純粋に人材の獲得とは言えない。ルッカーやスノーフレーク(Snowflake)などに関する能力を獲得、または合併して取り込むことに関わっている。
我々は、3つの中核的な業務分野を特定し、これを進めている。コンテンツは当社のビジネスの60%、データ解析とデジタルメディアは30%、そして技術サービスは10%だ。
これらはすべて、我々のビジネスであるデジタルマーケティングの変革に関するものであり、偶然にも、これらの分野の機能を開発するのに最適な人材が4マイルにはいる。
――主要なプラットフォームプロバイダーが実施しているプライバシー保護の動きは、どの程度M&Aの推進要因になっていると思うか?
GoogleがサードパーティCookieについて行っていることや、Appleのモバイル識別子(IDFA)に関する決定がもたらす影響に、我々は非常に注目している。これを受け、クライアントは、ファーストパーティデータのマイニングや統合、プラットフォームからの(データ)シグナルの活用に向かうことになった。だから、我々がデータや分析で行うことは、すべてその分野に関わっている。
この質問への答えは、コンテンツ、データ分析、デジタルメディア、技術サービスなど、成長性の高い分野を持つ企業があれば、我々はそこも狙っていくということだ。
我々が2021年に行ったこと、そしてこれから行うであろうことを見れば、成長分野を見極め、その分野で最高の人材を確保することが重要だとわかる。
――新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、大手持ち株会社グループはM&Aに関しては比較的静かだったが、これからは積極的になってくるのか?
彼らが抱える問題は我々とは逆だ。彼らは高成長分野にはいない。高成長分野に注力すべきなのに、躊躇しているように見える。その方向への動きはあるが、非常に小さなものだ。
持ち株会社は、私が「悪い銀行」と呼んでいるアナログ事業と、「良い銀行」に例えられるデジタル事業で構成されているが、彼らには大きな投資をする気がないように見える。
マークル(Merkle)を所有する電通、アクシオム(Acxiom)を所有するIPG、イプシロン(Epsilon)を所有するピュブリシス(Publicis)など、データ資産に多額の投資を行っているところもあるが、私から見ると、それは時代遅れのデータ資産のようだ。それはサードパーティのデータ資産であり、ファーストパーティのデータ資産ではない。定義上、それはクライアントの資産なので、それを購入することはできないと思う。
それに彼らは、(4マイルの)ニックや(メディアモンクスの)タイラーがフォーカスしているようなことに順応していない。(持ち株会社グループは)20世紀のもので、我々はいま21世紀を生きている。
――最後に、S4キャピタルは取引について「買収(acquisition)」ではなく「合併(merger)」を用いることが多いが、この言葉を選ぶ理由は?
我々は、アーンアウトをしているのではない。自分のビジネスを構築したい人を探している。どのような話し合いでも、最初に出てくることは「事業を売りたいのなら、X、Y、そしてZに相談してほしい」というものだ。
新しいモデルを作り古いものを壊したいと思っている人がいる。我々はそれを実行しようとしている。(S4との取引における)約因は半分株式、半分現金だ。今回も、これまで我々が行ってきたのと同様のやり方だ。
起業家は、基本的には不安定なもので、どうしてそんなに成功できたのかと思うことがよくあるが、資本の半分を実現し(中略)残りの半分をそのモデルを構築する目的で会社に投入することは、至極認められることであり、尊重すべきことだと考える。我々が合併した会社は、皆そうしてきた。
[原文:S4 Capital chalks up (yet another) deal as Media.Monks unveils 4 Mile ‘merger’]
RONAN SHIELDS(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)