FUTURE OF WORK

ホテルの「定額制」は、パンデミック以降も定着するか?

米国の詩人であり活動家でもあるマヤ・アンジェロウは生前に暮らしたすべての町でホテルの部屋を借りていたことで有名だ。月単位で部屋代を支払い、たいてい数カ月にわたって同じホテルを利用した。2021年、このアイデアが復活を遂げようとしている。詩人だけでなく、あらゆるクリエイターのあいだで。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の課題に対処するため、荒廃したホスピタリティー業界は既成概念にとらわれない水平思考を余儀なくされている。観光業は少なくとも2024年までパンデミック以前の水準に戻らないと予測されており、ホテルの稼働率は2021年を通じて通常を30%下回る水準にとどまると予想されている。

そのため、ホテルは宿泊をマーケティングするのではなく、柔軟性のある月額のサブスクリプションに焦点を移し、多くの場合、はるかに低価格で提供している。この10年間でNetflix、Spotify(スポティファイ)、ハローフレッシュ(HelloFresh)などの巨大サブスクリプション企業が台頭した。もしすでに映画、音楽、食事のサブスクリプションモデルを受け入れているのであれば、そこに宿泊施設を追加しない理由などあるだろうか?

ゾク・アムステルダムの事例

2015年に開業したマイクロアパートメントホテル、ゾク・アムステルダム(Zoku Amsterdam)はリモートワーカーやデジタルノマドのために設計されている。標準的なホテルの部屋の区画に省スペースの「ロフト」アパートを収め、ロビーの代わりにコワーキングスペースがあり、地元住民と滞在者のあいだを取り持つコミュニティマネージャーが常駐している。

2020年以前のゾクは風変わりなコンセプトと賞にも輝いたデザインのホテルだった。利用客は主に出張旅行者や企業の転勤者だった。しかし、パンデミックをきっかけに、ワーク・フロム・エニウェア(WFA:場所に縛られない働き方)ムーブメントの中心地となった。その結果、2021年にはデンマークのコペンハーゲンとオーストリアのウィーンに拠点を拡大し、サブスクリプションモデルに全面的に取り組むことになった。

ゾクのブランド、コンセプトディレクターを務めるビール・ドンダーズ氏は「毎年さまざまな都市にある我々のホテルでリモートワーカーに過ごしてもらうというビジョンだ」と説明する。「長期的には、我々のお客様であるクリエイターが年単位でサブスクリプション料を支払い、グローバルなゾク・コミュニティの一員になることを想定している」。

こうしたホテルサブスクリプションの価格帯はさまざまだ。ゾクの場合は30日2750ユーロ(約35万5500円)で、複数月の予約割引がある。手ごろなところでは、最先端のホステルブランドであるセリーナ(Selina)が中南米で月額わずか300ドル(約3万2400円)からの共同生活サブスクリプションを開始した。

どちらの価格帯でも、新しい刺激的な場所に滞在して働くことができるだけでなく、宿泊施設、職場、コミュニティが1カ所に集約された便利なパッケージであることが魅力だ。

旅行しながら仕事する人々

コンスタンティノス・ノーカイキス氏はSEOのコンサルティングを手掛けるスタジオ・フォー・デジタル・グロース(Studio for Digital Growth)の共同創業者だ。ノーカイキス氏は2015年から断続的にデジタルノマドとして暮らしており、2020年以前もホテルに長期滞在していた。

「私は国際的な空間としてホテルを楽しんでいる。コンシェルジュ、バー、レストランといったアメニティーも魅力だ」とノーカイキス氏は話す。「旅行しながら仕事をしていると、物事が管理されていることを確認したくなる。サブスクリプション生活にはそれを利用するチャンスがある」。

オフィスで週40時間過ごす義務がなくなったことで、旅行が再開されれば、より多くの人がノーカイキス氏の先例に倣うとホテル経営者は確信している。スロートラベルとリモートワークを組み合わせた長期旅行が、週末の小旅行や毎年わずか1~2週間の夏休みに取って代わるということだ。

旅するクリエイターのニューノーマル

しかし、本当により多くの人がこれを実行するのだろうか? それとも希望的観測にすぎないのだろうか? 英国のコンテンツエージェンシー、ジェット・ソーシャル(Jet Social)のディレクターを務めるジェス・シャナハン氏は、サブスクリプション生活は旅するクリエイターのニューノーマルになると考えている。

「便利なのが魅力だ」とシャナハン氏は話す。「エアビーアンドビー(Airbnb)の場合、宿泊先に到着したとき、写真で見たものと違っていたり、予想外の問題が起きたりすることも珍しくない。ストレスになるかもしれないし、仕事に支障を来す可能性があるため、旅に出るのがおっくうになる」。

シャナハン氏はかつて、1~2週間の旅行にたびたび出掛け、新しい場所を探索しながら、ラップトップで仕事をしていた。サブスクリプション生活の柔軟性があれば、今後は旅行と仕事を組み合わせる機会が増えるのではないかと感じている。

「フルタイムの旅行者になるつもりはない。地元である英国に住宅ローン、オフィス、従業員を抱えているためだ。それでも、今年中にホテルのサブスクリプションを利用し、何カ月かパートナーとリモートワークする予定で、もしかしたら毎年そうするかもしれない」。

チーム全体で旅するリトリート

個人のクリエイターに限った話ではない。ソーシャルメディアツールを開発するバッファ(Buffer)、WordPress(ワードプレス)の親会社オートマティック(Automattic)といった分散型のソフトウェア企業のあいだでは、チーム全体で旅するリトリートが数年前からトレンドとなっている。おそらく必然的に、こうしたテクノロジー企業の慣習はほかの分野にも波及していくだろう。ホテルサブスクリプションのもうひとつの利用方法になるかもしれない。

「パンデミックが発生してから、広告エージェンシーやデザインエージェンシーからのサブスクリプションの予約が伸びている」と、ゾクのドンダーズ氏は話す。「クリエイティブ業界では、リモートベースでできることは限られている。チームは効果的かつ安全にコラボレートする新しい方法を必要としており、この素晴らしい新世界では、1カ月以上の長期にわたってそれを行う必要がある」。

[原文:Remote work has kickstarted a hotel subscription-living movement

LAUREN RAZAVI(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)