コンサル企業がマーケティング領域で事業を拡大している。日本でも4月にアクセンチュアがデジタルエージェンシー、アイ・エム・ジェイ(IMJ)の株式の過半を取得するできごとがあった。会計ビッグ4の一角を占めるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)もこの流れのなかにある。
マーケテイング部門のPwCデジタルサービスは全世界で1万人の従業員をもつと言われ、米フロリダ州ではエクスペリエンスデザイン・サービス開発を行うエクスペリエンスセンターを運営している。
5月13〜14日にSlush Asiaに登壇した、PwCグローバルテクノロジー・インフォコム・エンターテインメント&メディアリーダーのエカート・ハフ・エカート氏に、PwCデジタルサービスとアジアのデジタル化に関して話を聞いた。
コンサル企業がマーケティング領域で事業を拡大している。日本でも4月にアクセンチュアがデジタルエージェンシー、アイ・エム・ジェイ(IMJ)の株式の過半を取得するできごとがあった。世界4大会計事務所(ビッグ4)の一角を占めるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)もこの流れのなかにある。
去る5月13〜14日に、千葉県の幕張メッセで開催された「スラッシュ・アジア(Slush Asia)」。そこに登壇した、PwCグローバルテクノロジー・インフォコム・エンターテインメント&メディアリーダーのヴィッキー・ハフ・エカート氏は、DIGIDAY[日本版]の取材に応じ、「PwCのデジタル事業は広告会社と異なるサービスを提供しており、ともにマーケットの問題を解決している」と語った。
広告会社と協働するPwC
同社マーケティング部門のPwCデジタルサービスは、中小規模のデジタルエージェンシーにM&Aを展開してきた。現在は全世界で1万人の従業員、うちクリエイター3000人の陣容を抱える規模まで事業を拡大したという。2015年10月には米フロリダ州にエクスペリエンスデザイン開発を行う「エクスペリエンスセンター」を設立した。
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エカート氏は、PwCデジタルサービスが業界に提供する価値について、「私たちはクライアントがテクノロジーを採用することに機会を見出している。しかし、ただテクノロジーを採用するのではなく、デジタルストラテジー(デジタル戦略)とともにそれを行うことが重要だ」と語った。「我々の立場は『我々はデジタルを知っていると同時に、ストラテジーも知っている』ということだ」。
かつてなく境界線が曖昧になったマーケティング業界のなかで、コンサル企業と広告会社はどのようなエコシステムを形成しているのか。エカート氏は「広告会社はクライアントに対し、ユニークな価値を提供することができる。それはデジタル分野においても同じだ。我々のサービスは企業内のオペレーションやビジネスプロセスに重きを置いている。広告会社と一緒にマーケットの問題を解決している、というのが正確なところだ」と話した。
コンサル業界にもテクノロジーの津波
コンサル企業はデジタル化の波でマーケティング領域に参入する一方、コンサル企業の本来の領域に関して、急速なデジタル化の波を受けている。クラウドインフラサービスを展開するGoogleとAmazonは、会計コンサルの領域と密接に交わるようになってきた。
FTによると、ビッグ4のひとつであるKPMG欧州のテクノロジーセクター責任者チューダー・オー氏は、「GoogleとAmazonはデータストレージ、データアナリティクス、クラウドテクノロジーの3つのコア資産をもっている。我々が将来、採用しようとしているビジネスモデルを保証するものだ」と指摘している。
オンライン上のビッグデータを分析し、価値を提供するビジネスプロセスに対し、GoogleとAmazonは膨大な数のCPUの稼働を提供することが可能だ。クラウドインフラ事業自体に関しては、AmazonがGoogleをリードするが、Googleはこの領域を変える可能性がある機械学習、AI(人工知能)に関してはAmazonをリードしている。
テクノロジー企業との提携例も
テクノロジー企業と会計コンサル企業の提携例も出ている。PwCとGoogleは2014年、合弁会社を設立。合弁会社は、PwCの分析力とGoogleクラウドプラットフォームを組み合わせ、顧客に提供する。
上述のFTによると、オンライン会計の分野は、テクノロジーが顧客の行動をオンライン化し、参入障壁が低くなるにつれて、テクノロジー企業の格好の標的になっている。ビッグ4はSAP、セールスフォース、オラクルのような大企業から、モバイル決済を提供するSquare (スクエア)、請求書・領収書プロセスを自動データ化するReceipt Bank(レシートバンク)の新規参入者までを競争相手として抱えるようになった。
大企業を顧客とするビッグ4も、いまは多様なテクノロジー企業、スタートアップと協業することが常態となっている。KPMGは2014年、簿記会計、給与計算業務、消費税、法人税の管理を行うクラウドベースのソフトウェア開発に4000万ポンド(63億2000万円)を投じた。
次に狙うのは東南アジア諸国か?
PwCのエカート氏は通常、米サンフランシスコに暮らしているが、アジアに熱いまなざしを送る。「アジアからは多くのモバイルファースト世代と多くのモバイルファーストの国が現れている。特に東南アジアはそうだ。アジアはイノベーションの進展が速いと思う」。
「アジアのプラットフォームテクノロジーは、ほかの地域とは異なるポジションを採っており、私はアジアが米国や欧米よりも早く、プラットフォーム上のイノベーションを起こすと考えている。短期的には、このイノベーションは欧米諸国から注目されないかもしれないが、長期的には、モバイルファースト世代の分厚さが効いてくるはずだ。デスクトップをスキップする傾向がみられ、ビジネスプロセスがモバイルファーストを前提として構築されていることが大きい」。
プラットフォームのイノベーションの最新例としてWechat(微信)を挙げた。「Wechatは急進的なものだ。中国の人々はWechatをとてもユニークな使い方をしている。プラットフォームにおけるイノベーションは目を見張るものがある。そのイノベーションは中国国内でもたらされたが、これからはそれがグローバルに広がっていくことになる。これがもたらすことを考えると、とても興味深いというほかない」。
Written by 吉田拓史
Photo by Slush Asia(flickr)