全米広告主協会(ANA)はこのたび、プログラマティック広告取引の透明性に関する調査チームのリーダーとして、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)を指名した。調査は、「唖然とするほど複雑」といわれるアドテク業界のサプライチェーンにおける広告主企業のメディア予算配分を検証するものだ。
全米広告主協会(The Association of National Advertisers:以下ANA)はこのたび、プログラマティック広告取引の透明性に関する調査チームのリーダーとして、プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers:以下PwC)を指名した。調査は、「唖然とするほど複雑」といわれるアドテク業界のサプライチェーンにおける広告主企業のメディア予算配分を検証するものだ。
ANAは2021年、調査会社選定コンペをおこなうためRFP(提案依頼書)を提示したが、応札した20社以上の候補から選ばれた1社がコンサルティング大手のPwCだった。調査結果は2022年10月に発表される予定だという。
PwC主導のチームに参加するパートナーは、ガバナンス関連調査専門のクロール(Kroll)と、情報共有分析機関のTAG(Trustworthy Accountability Group:以下TAG)。TAGは、4A’s(全米広告代理店協会)、ANA、IAB(インタラクティブ広告協議会)の3業界団体により設立された組織である。
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ANAのボブ・リオディースCEOはアドテク分野のサプライチェーンについて「透明性や説明責任の欠如、唖然とするほどの複雑さなど、重大な問題を抱えている」と評しており、「これらの問題が重要な意思決定を阻害し、無駄が多く非生産的なメディアバイの判断につながる」と指摘する。
調査は2段階に分けておこなわれ、12月中に始まる第1段階では、広告主のメディア予算の支出先について、オープンウェブ上でのプログラマティック広告事業各社のシェアを確認する。第2段階では、業界のウォールガーデン内のアドテク取引を対象とする予定だ。
PwCのプリンシパル・パートナーとしてマーケティング/メディア・トランスフォーメーション部門を率いるデレク・ベイカー氏が米DIGIDAYの取材に応えて語ったところによると、今回の調査は、企業の「メディアモデル」が広告取引の透明性にどんな影響を与えるかについて「多面的な分析」を目指すという。「つまり、広告買いつけを代理店にまかせる企業と、社内チームを利用する企業のモデルの違いにより、サプライチェーン内の対応がどう変わりうるかを精査するわけだ」。
ベイカー氏は、調査結果を2022年10月に開かれるANA主催の「マスターズ・オブ・マーケティング・カンファレンス」(Masters of Marketing Conference)の場で発表する意向で、加えてマーケター向けに、オンライン広告支出の無駄を最小限に抑える方法を記したガイドラインを作成する予定だ。
ブランド各社が投入する広告費のうち、オンライン広告が占める割合は伸び続けている。市場調査会社のイーマーケター(eMarketer)によれば、オンライン広告費は2021年の4550億ドル(約50兆円)から、2024年には6460億ドル(約71兆円)近くにまで拡大する見込みだという。そんな状況下、メディア投資のROIについて精度の高い予測を立てることはマーケターの重要な仕事だ。とくに、所属する企業の調達部門が目を光らせているいま、無駄な投資を排除する取り組みは欠かせない。
過去の調査は影響力が限られていた
業界関係者は、2016年度版ANA透明性調査が引き起こした反響を覚えているだろう。K2インテリジェンス(K2 Intelligence)が実施したこの調査のレポートは、メディアのサプライチェーン内の不透明な慣行を明らかにし、代理店の強い反発を招いた。最近、PwCとISBA(英国広告主協会)が合同で実施した調査によると、プログラマティック広告のエコシステムを通じて広告主が投じるメディア費用1ポンド(約150円)につき、広告を配信するパブリッシャーに渡るのは平均49ペンス(約74円)とされる。
PwCのベイカー氏によれば、2021年度の調査は、広告主のメディア予算がアドテク業界のエコシステムの各層に吸い取られていく状況をより包括的に把握するものだという。「ANAの最初の透明性調査は、主にデマンドサイドに焦点を当てていた。一方、ISBAの調査は、デマンドサイドとサプライサイド両方を対象にしていた。今回我々は、デマンドサイド、サプライサイド、そして広告の質を検証する。広告主のブランド企業からオーディエンスまで、サプライチェーンの全体像を徹底的に把握し、広告主にとっての価値はどこにあるか、理想と現実のギャップはどこにあるかを探るつもりだ」とベイカー氏は述べた。
またベイカー氏は、過去の透明性調査の結果を受けて不満を解消したいと望む多くの広告主が、なかなか行動を起こせない状況について語った。マーケターたちは、日々のメディア業務に支障をきたすことなく現状を打破するにはどうすべきかわからず、困惑しているという。
「広告主が明らかな形で対策を講じた例は多くないと思う。というのも、現時点では取引の透明性を確保するためのツールや手法が存在しないからだ。広告主にとっての課題はそこにある」とベイカー氏。「課題の解決には、今回の調査が役立つだろう。レポートには、広告主が行動を起こす際に使えるツールや手法の概要を盛り込む予定で、それが過去の調査との違いだ」。
「不透明なマイナスギャップ」
ISBAによる2020年度の調査で明らかになった重要なデータは、「不透明な15%のマイナスギャップ」だった。監査の結果、マーケターのメディア投資のうち、業界エコシステムのどの層に帰属するか不明な金額の存在が判明したのだ。これは、監査チームがサプライチェーンを横断したキャンペーンデータのログレベルでの照合を試みた際の、12%というマッチ率の低さにも起因している。
米DIGIDAYの取材に応じたTAGのマイク・ザナイスCEOは、トラストネット(Trustnet)という分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology:以下DLT)を使ってエコシステム内のどの層がメディア予算を懐に入れているかを追跡把握し、説明責任の所在を明らかにする意向を示した。トラストネットはフィドゥシア(Fiducia)が提供するDLTの一種で、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)、マクドナルド(McDonald’s)、ネスレ(Nestlé)といった大手広告主と共同で2020年に予備的なパイロット研究がおこなわれた(ISBAとPwCの合同調査とは別)。研究の目的は、マーケターのサプライパス最適化(supply-path optimization)の取り組みにおいてトラストネットの自動化機能が果たす役割の実証だった。
「当社では、広告主の広告費のデータをDLTシステムに入力し、マーケターからパブリッシャーまでの流れを追跡把握する」とザナイス氏は説明する。「そうすることで代理店、DSP、SSP各社のテイクレート(手数料の割合)などが可視化される。広告インプレッションについて、ユーザーが閲覧可能な状態にあるか、ブランドセーフティが担保されているか、人間と機械のどちらのトラフィックにより生成されたか確認できる」。
[原文:PwC will lead the ANA’s programmatic transparency study]
RONAN SHIELDS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)