PwC(PricewaterhouseCoopers)のデジタル部門、PwCデジタル・サービス(PwC Digital Services)が、合併と買収を通じてエージェンシー分野に進出してきた。しかし、自社のトレーディングデスクを構築して、自らプログラマティックキャンペーンを実施することには関心がないようだ。
PwC(PricewaterhouseCoopers)のデジタル部門として、売上が10億ドル(約1100億円)を超え、全世界の32のオフィスで1万4000人を超える従業員が働く、PwCデジタル・サービス(PwC Digital Services)が、合併と買収を通じてエージェンシー分野に進出してきている。透明性のためプログラマティックの内製化を計画するブランドが増えるなか、クライアントの独自トレーディングデスクの設置を手伝うのが現在の業務だ(PwCデジタル・サービスはクライアントリストの公開を拒否した)。
しかし、このPwCデジタル・サービスは、自社のエージェンシートレーディングデスクを構築して、クライアント向けにプログラマティックキャンペーンを実施することには関心がない。
「メディアバイイングは、我々のクライアントがもっとも解決したい複雑なマーケティング問題ではない」と語るのは、PwCデジタル・サービスで最高業務責任者を務めるジョン・スワデナー氏だ。「我々は自社が関与するメディアについてクライアントに協力はしているが、メディアバイイングへの参入は望んでおらず、今後も参入するつもりはない」と同氏はいう。
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メディアバイイングをしない理由
たとえば、あるソフトウェア企業がプログラマティックの内製化を望んでいるとしよう。新たな処理の管理のために何人くらい雇う必要があるか、チームをどのように構成すべきか、適切なテクノロジープラットフォームは何か、その技術をどのように実装するかといったことを、そのソフトウェア企業が把握するのをスワデナー氏のチームはサポートする。PwCデジタル・サービスは、クライアントであるソフトウェア企業に代わってメディアを買い付けることだけはサポートしない。これはイケア(IKEA)で家具を買うのに似ている。材料はすべて箱に入っているが、組み立ては自分でやらなければならないのだ。
スワデナー氏は、プログラマティックは2000年における検索のような状態にあると考えている。当時は小さな独立系の検索エージェンシーが多数あったが、大半のブランドで検索は徐々に社内のマーケティング機能になっていった。
「我々がもしメディアバイイングを担当したら、クライアントはその後、別のエージェンシーに乗り換えることで常にコストを下げようとするだろう」とスワデナー氏。「だったら最初から、クライアント独自のトレーディングデスクの構築を手伝うだけにするほうがいい」。
クリエイティブ系が買収の中心
PwCデジタル・サービスが、近い将来にメディアエージェンシーやアドテク企業を買収する計画はない。同社は、ほかの4大会計事務所やコンサルティング企業と同様、デジタルデザインとUX(ユーザー体験)にかなり注力している。これは各社の合併と買収からも明らかだ。
たとえば、PwCは2016年2月にエージェンシーのフルイド(Fluid)を買収し、ほぼ同時期に、デロイト(Deloitte)はクリエイティブエージェンシーのヒート(Heat)を買収した。アクセンチュアは、2月にドイツのデジタルエージェンシーのジナーシュラーダー(SinnerSchrader)、2016年11月には英国のエージェンシーであるカーマラマ(Karmarama)と、このところいくつかのエージェンシーを手に入れた。
これらはすべて、デジタルデザインとWeb開発が専門のクリエイティブエージェンシーだ。
2013年にバニヤン・ブランチ(Banyan Branch)をデロイトに売った、投資銀行デシルバ・フィリップス(DeSilva + Phillips)のパートナーであるジョン・カイザー氏は、大きなコンサルティング企業にとって、デザイン、UX(ユーザー体験)、そして顧客エンゲージメントに長じたエージェンシーの方が価値があると考えている。ビジネスのデジタル化を進める企業とコンサルティング企業が仕事をする場合に重要なポイントは、顧客のブランド体験をその企業がどれだけ向上させられるかであり、また、デジタル世界の顧客をどれだけ引き付け、維持できるか、だからだ。
「少なくとも現在は、メディアのプランニングとバイイングは顧客体験の強化よりも、自動化と効率化に重点を置いている。そのため、コンサルティング企業は社内にメディアの内製化を避ける傾向がある」と、カイザー氏。
あえて激戦区で戦わない
また、メディアエージェンシーは規模を争っていて、新しいプレイヤーが市場に参入するのが難しいと、調査企業ピボータル(Pivotal)のシニアアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は補足した。
また、メディアエージェンシー幹部は厳密にはあくせく働いてはいない。メディア・ストーム(Media Storm)の最高デジタル責任者、チャーリー・フィオダリス氏は、クライアントのデジタルメディアシステムや戦略に関するレポートを、自らの手を汚して実際に実行しているコンサルタント企業はひとつも見たことがないと語った。
「クライアントが我々からの提言を受けたとしても、クライアントはその解釈と実行への協力をうちに求めてくる」と、フィオダリス氏。「どちらかといえば、コンサルティング企業が重宝されるのは、変化の指導を手伝うのに利用できる枠組みと評価を提供する、素晴らしい人材を抱えているからだ」。
替えが効かない存在になる
しかし、クリエイティブ側は事情が異なる。PwCデジタル・サービスの場合、ブランド戦略、市場インサイト、そしてマーケティングパフォーマンスについてCMOの意見を聞き、ブランドへの提案を実行に移している。
たとえば、クライアントが十分な投資利益率(ROI)を上げられておらず、ブランドのロイヤリティプログラムが売り上げの増加につながっていないのが原因だとスワデナー氏らが特定した場合、PwCデジタル・サービスがクライアントのロイヤリティプログラムを再設計する。
「もちろん、ブランドがうちの構造分析をほかのエージェンシーに持ち込んで実行することは可能だ」と、スワデナー氏。「その場合、クライアントは最初からやり直すことになり、新しいエージェンシーパートナーに状況を十分に把握してもらうことが必要になるだろう」。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)