[ DIGIDAY+ 限定記事 ]エージェンシーのトレーディングデスクはもう終わったと言われているが、まだしっかり生きている。ただし、以前とは違うものになっている。かつてのそれは、安価なインベントリー(在庫)を買いあさるブラックボックスと見られていたが、いまではアドテクを駆使して質のよいメディアを購入することにも焦点を合わせている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]エージェンシーのトレーディングデスクはもう終わったと言われているが、まだしっかり生きている。ただし、その見た目は、以前とは違うものになっている。
かつて、エージェンシーのトレーディングデスクは、プログラマティックメディアの登場時に、安価なインベントリー(在庫)を買いあさるブラックボックスと見られていたが、いまではアドテクを駆使して質のよいメディアを購入することにも焦点を合わせている。
広告主が、プログラマティック広告がどのように購入されているかを知らずにいるリスクを理解しはじめた途端、エージェンシーの持ち株会社はトレーディングデスクと距離を取るようなった。ビジネスを失うより、多くのチャネルを飲み込んでいる大きなプログラマティックのパイから少しだけマージンを取るほうがいいと気づいたのだ。
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持ち株会社が広告主に対してトレーディングデスクを売り込む方法も変化した。トレーディングデスクは以前、プログラマティック計画に関してそれぞれのエージェンシーの前衛と位置づけられていたが、さまざまな持ち株グループ全体に専門知識が広まるにつれて、後方へと移動させられていった。
ハバス(Havas)は2017年、トレーディングデスクという名称を廃止し、プログラマティック・ハブ(Programmatic Hub)にリブランドまでした。ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は自社のトレーディングデスクであるヴィヴァキ(Vivaki)を2015年に解体し、その専門知識がエージェンシー全体に行き渡るようにした。オムニコム(Omnicom)のトレーディングデスク、アキュエン(Accuen)も同じ運命をたどった。クライアントがどんなデータや技術、サービスに料金を支払っているかが正確にわかるほかの選択肢を選ぶようになると売上が落ち込みはじめ、2017年にはわずか1四半期で900万ドル(約9.5億円)を失った。
デジタルメディア・コンサルティング企業デジタルデシジョン(Digital Decisions)の最高経営責任者(CEO)であるルーベン・シュラーズ氏は「プログラマティックは境界を越えて効果的に購入できるようにするものなので、プログラマティックの優越性と取引能力をもつ中央センターを作ることには大きなメリットがある」と語る。「エージェンシーはこれを見て、非公開のアービトラージ慣例を中央のトレーディングデスクの原則から切り離し、効果的に自身を再構築してより透明性のある中央集中型のオプションを市場に提供しようとしている」。
エージェンシーのトレーディングデスクを巡っては、それがどのようにして収益を上げるのかを広告主が最初に疑問に思いはじめた2011年からずっと、謎がつきまとっている。
広告主のなかには、エージェンシーのトレーディングデスクとメディアエージェンシー、両方に料金を二重払いさせられていると気づいてから、独自にトレーディングデスクを設けたところもある。エージェンシーのトレーディングデスクがプログラマティック広告の売り手でもあれば買い手でもあることを警戒し、予算の使い途について客観的なアドバイスをもらえるのかどうかを疑問視する広告主もいる。自身で代替案を作り出す賢さ、または購買力がない限り、広告主は、トレーディングデスクは透明性に欠けているという点において透明だということを受け入れなければならない。
旅行代理店TUIベネルクス(TUI Benulux)でプログラマティックメディアバイイング部門を率いるニコラス・エルスハウト氏は、プログラマティックバイイングに移行する際、透明性が懸念されたので、自社でトレーディングデスクを設けたと話す。「我々には、透明性のあるコスト構造が必要で、資金がどこへ行くかを理解したかった。さらに、手段へのすべての財政的コミットメントが提供されることが確実なビジネスの部分で、プログラマティックが機能するとわかりはじめるなかで、広告が表示される場所を自分でコントロールしたいとも思った」。
よりよい物語を作る
広告主のあいだで行われているトレーディングデスクの再評価はふたつに集約される。ひとつは、公開されたプログラマティック購入の選択肢がプレミアム価格で提供される場合と、かなり低価格のトレーディングデスクモデルとを比較した場合、広告主は多くのケースでまだ後者を選ぶことだ。広告主は、コストは高めであるものの、たとえばザクシス(Xaxis)からのデータやアドテクベンダーとあわせて、独自のデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)を使うことができる。ザクシスのグローバルCEOであるニコラス・ビドン氏は、「ほとんどの広告主にとってこれは、より高いDSP料金を支払うことを意味するだろう。グローバルなビジネススケールを反映したザクシスの料金設定や、我々が享受しているようなGoogle、ザンドラ(Xandr)、Amazon、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)などの主要DSPとの関係性の恩恵を彼らが受けることはない」と話す。
ふたつ目の理由としては、広告主が賢くなってきたことが挙げられる。複数の市場にプログラマティック広告を出すのに必要なベンダーやデータをメディアエージェンシーがもはや管理できないなら、エージェンシーのトレーディングデスクに代わるものを検討する理由は十分にあると、ある世界的なラグジュアリーブランドのメディア部門責任者はいう。「だが、そうするのは、DSP契約の所有権が私にあって、トレーディングデスクのブラックボックス的性質を回避するために限られるだろう」とこの人物は付け加える。
従来のトレーディングデスクからの移行が進んでいるにも関わらず、持ち株会社のなかにはそうしたビジネスの運用上の名残がまだ存在し、多量のキャッシュをかき集め続けている。
分析企業モート(Moat)が米DIGIDAYに提供したデータによると、エージェンシーのトレーディングデスクに対してお金を払ってメデイアを購入している広告主は、米国内だけでもまだ何千といる。このデータからわかることは、米国内でエージェンシーのトレーディングデスクを使っている広告主の数の平均が、2016年は3716社だったのに対し、2019年には1400社になったことだ。
「たとえほんのわずかのマージンしか得られないとしても、持ち株グループがトレーディングデスクを存続させるのは理にかなっている」と語るのはアキュエンの元幹部で、現在はデジタルエージェンシーのジェリーフィッシュ(Jellyfish)でディスプレイ広告部門のグローバル責任者を務めるジェームズ・ブーナー氏だ。「エージェンシーは、そのビジネスにまつわるより良い物語を作らなければならない」
今後の成長
WPPのトレーディングデスクであるザクシスは、グループ・エム(GroupM)のなかで、もっとも急速に成長している部門のひとつであり、2018年には2桁の成長を遂げ、2019年もそのペースは変わらないと、ビドン氏はいう。WPPのCEOであるマーク・リード氏も、8月第2週に行ったグループの最新決算発表で、ザクシスは16%の成長が予想されると言い、トレーディングデスクの成長の可能性を確信しているようだった。だが、その成長のほとんどは、WPPのもっとも成熟した市場の外から来るものだろうと、リード氏は注意をうながした。ザクシスのようなトレーディングデスクは、それほど成熟しておらず、購入モデルを効果的に精査するための専門知識に欠けることが多い成長が早いプログラマティック市場から利益を得ている。
オムニコムのアキュエンは、2019年にはザクシスほど急成長する見通しはないが、2018年下半期に初めて損失を出したあと、2019年第1四半期の米国内での売上は200万ドル(約2.1億円)増加した。アキュエンは2016年には3カ月で4500万ドル(約47.8億円)の売上を記録しており、それには遠く及ばないものの、これを見れば、広告主が今後もいかに多くの費用をトレーディングデスクに使い続けるかがわかる。
ハバスも電通も、広告主の一部にあるトレーディングデスクの再評価と思われるものを利用しようとしており、自社のトレーディングデスクにプログラマティックトレーダーの空きを作っている。オンラインの求人情報によると、オーツー(O2)の場合、ハバスは特に通信事業者向けのトレーディングデスクで働くトレーダーを求人しているようだ。エージェンシーが、いまこれをやろうとしていることは、トレーディングデスクモデルがどれほど変わりつつあるかの証だ。
「ハバス・プログラマティック・ハブとして、我々は現在、過去との比較で、従来のクライアントチームとより良く統合できている。スタンドアロンになるのではなく、一般のエージェンシーと一体化している」と、ハバス・プログラマティック・ハブを率いるチャーリー・グリン氏は話す。「クライアントチームとの距離が近くなることで、ただメディアの購入について話すだけではなく、アドテクの選択や、展開の必要がありそうなクリエイティブソリューションの種類についてもマーケターと会話ができるようになった」。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)