米国では多くの人が在宅勤務をはじめて3カ月が経とうとしている。オフィス勤務の再開に待ったをかけている企業も多いなか、「リモートワークの生産性はどうなのか」という本質的な疑問についての検討が進んでいる。
米国では多くの人が在宅勤務をはじめて3カ月が経とうとしている。オフィス勤務の再開に待ったをかけている企業も多いなか、「リモートワークの生産性はどうなのか」という本質的な疑問についての検討が進んでいる。
社員にこの質問をぶつけると、得られる答えはさまざまだ。リモートワークを経験していない人のほうが生産性をあげるのに苦労している傾向が見て取れる。メッセージングツールを提供するSlackによれば、リモートワークをはじめて1カ月ほどの回答者の3分の1が、生産性が落ちたと回答している。経験豊富なリモートワーカーのうち、同様の回答をしたのは13%にとどまっている。
さらに在宅勤務への賛否は自宅の影響も大きいようだ。育児をしながら別荘で仕事をしている人の目には、リモートワークはまさにあるべき仕事の形に映るだろう。小学生の子供がいて、小さなアパートに住み、仕事が忙しく給与も高くなく、Zoom会議に追われている人の場合は別の見方になるかもしれない。
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そのため、企業が在宅勤務の生産性を高めるための包括的なアプローチをとるのは困難といえる。社員のニーズが変化を続けるなかで、各社は会議を短縮する、金曜にリラックスできる時間を導入するといった形で応えようと試みている。
「非常にタイトなスケジュール」
生産性分析プラットフォーム、タイム・イズ・リミテッド(Time is Ltd.)のCEOジャン・リザブ氏は「数社は在宅勤務で生産性があがったとしている」と語っている。「どうやってそれを確認したのかと尋ねたところ、意思疎通の頻度が上がったという回答だった。だが、それは生産性ではない」。
ロックダウンによって、会議の頻度は増え、時間も伸びている。タイム・イズ・リミテッドによれば、3月には9人以上が参加する会議が14.4%増えている。また会議の頻度も増えており、2月には38.1%、3月には47.2%の会議が繰り返し行われている。
米国におけるグループエム(GroupM)の最高マーケティング責任者を務めるジル・ケリー氏は「バーチャル会議は生産性の向上につながるわけではないし、積極的な関与につながることもない」と語る。「生産性は、想定されるアカウントビリティや実際に行った業務で決まる。参加した会議の数ではない」。
会議スケジュールも厳しいものになっている。タイム・イズ・リミテッドによれば、2月までは告知から24時間以内に行われる会議は全体の3分の1程度だったのに対し、3月には半分近くにまで増えているという。
24時間以内に実施される会議の割合。 Source: Time is Ltd.
「スケジュールが非常にせわしなくなっている」と、リザブ氏は語る。「1カ月や3カ月であれば続けられるだろうが、長期的にはこういったスケジュールは身体に良くない」。
いまこそ問われるリーダーシップ
燃え尽きないように必要なときにリフレッシュする時間を確保するのも簡単ではない。役員らは、こういった面で自分たちの主導が必要だと感じているようだ。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)で最高収益責任者を務めるジョイ・ロビンソン氏は「部下に1時間半の無駄な会議をやめさせた」と語る。「その時間は休むことができる。そして私の部下たちも自分の部下に同様のことを行っている。自分たちで範を示すことの重要性をかつてないほど感じている。彼らは私の決定と言葉を彼らのチームに持ち込んでいるのだ」。
メディアやエージェンシーでは、消費者の新たなニーズに応えるコンテンツやバーチャルイベント、広告商品といった新たな収益源を迅速に生み出すことが求められている。
「生産性は、プロジェクトをどう完遂するかではなく成果で決まることを肝に命じる必要がある」と、ケリー氏は語る。「いまの情勢下では、プロジェクトの完遂方法はこれまでとは異なるし、オフの時間で決まることもある。デッドラインや成果物については、チーム内での調整がかつてないほど重要になっている」。
負担のないビデオ会議は20分まで
デニス・パブリッシング(Dennis Publishing)では、ロックダウンが始まって以降、週4回のペースで約100人規模のコマーシャルチームの会議を続けている。だが、会議の時間は短くなっており、週のはじめに行われる収益目標の確認会議は5分ほどで終わることもあるという。この目標は大半の週で達成できており、その場合、金曜日は午後4時に仕事は終わりになる。これにより、それまでの長時間労働や厳しいスケジュールが緩和された。
同社の最高収益責任者、ジョナサン・キッチン氏は「顔を合わせて即座に連携できるというのは代えがたいメリットだ」と語る。「規則を決めて生産性を上げようとしている。チームの会議に出れば、より積極的に参加することになる」。
デニス氏は30分以上の会議は禁止している。一般的に、精神的な負担なくビデオ会議に参加できるのは20分までとされている。
厳格な企業のなかには、リモートワーク中に社員の生産性を監視するソフトウェアを導入したところもある。アクソス・バンク(Axos Bank)では、フレキシブルな仕事環境を「悪用」している人間にはCEOからの警告メールが届く仕組みだ。社員の監視システムとも呼べるこうしたソフトの売上は伸びている。たとえば社員監視システムのアクティブトラック(ActivTrak)の注文は3月に50件から800件にまで増えており、5月に入ってからさらに3倍になったという。ハブスタッフ(HubStaff)では、ここ3週間でユニーク訪問者数が3倍に増えた。英国のあるPRエージェンシーのCEOは、ビデオ会議を1日中オンにしてオフィス環境を再現したものの、社員の反対にあってすぐにやめたという。あるテック系プラットフォームも同様の取り組みを行ったところ良い結果が出て、オフィスでの冗談も言い合えるような環境になったとのことだ。
生産性で重要なのは、結局は信頼
生産性で重要になるのは、結局のところ信頼だ。2018年に英国の労働組合連合が行ったアンケートによれば、65%の社員が、監視システムの導入は会社と社員の関係性に悪影響を及ぼすと回答している。いま、社員のニーズとの間でバランスを取ることはかつてないほど難しくなっているなかで、企業がこの危機をどう乗り切るかに注目が集まっている。
消費者行動分析企業のキャンバス8(Canvas8)で分析ディレクターを務めるヘレン・ジャンバナサン氏は「全体的に見て、説明責任を果たそうとする企業が増えている」と語る。「パンデミックのなかで、ブランドの責任が問われている。広告やマーケティング、メッセージだけでなく、社員への対応や社会的責任といった面で責任ある行動が求められているのだ」。
LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:SI Japan)