パフォーマンスマーケティングを生業とするエージェンシーのあいだで、自らD2Cブランドを立ち上げる例が相次いでいる。外部パートナーに頼らない自社D2Cブランドであれば、エージェンシーはその成長をしっかりとコントロールすることができる。
パフォーマンスマーケティングを生業とするエージェンシーのあいだで、自らD2Cブランドを立ち上げる例が相次いでいる。
外部パートナーに頼らない自社D2Cブランドであれば、エージェンシーはその成長をしっかりとコントロールすることができる。あるエージェンシーの幹部はこの手法について、新たな戦略の有効性を見極めるための材料や、潜在的なクライアントに提供する試金石にもなると分析。また、2020年のeコマース売上の急拡大が、自社D2Cブランド立ち上げを後押ししている点も指摘した。事実、ブームン(Boomn)、ホームステッド・ストゥーディオ(Homestead Studio)、フリーランス・クルー(Freelance Crew)といった多くのエージェンシーが、2021年第1四半期中、新たにD2Cブランドをローンチする計画だ。
「人は、当事者意識を持って業績をコントロールしたいものだ」。こう語るのは、デジタルマーケティングエージェンシー、ブームンの共同創業者で最高執行責任者(COO)を務めるライアン・オコンネル氏だ。「広告アカウントごとのパフォーマンスや、ショッピファイ(Shopify)のダッシュボード、クライアントへのメリットを日々追跡しているエージェンシーが、自分たちも同様のビジネスを展開したらどうだろうと考えるのは、当然だろう」と同氏は続ける。
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意識決定スピードの向上
ミズーリ州カンザスシティに拠点を置くブームンでは、チリソースやバーベキュー用のスパイスミックス、ドレッシング、ソースといった調味料のほか、女性向けのヘルスケア製品を取り扱うD2Cブランドを、2021年第1四半期中に立ち上げる予定だ。さらに戦略の一環として、業績拡大につながりそうな新興企業のブランドを見つけ、それらを買収する計画も立てているという。
外部のD2Cブランドと協業するのではなく、自社D2Cブランドをゼロから立ち上げる理由について尋ねたところ、オコンネル氏は次のように回答した。「ひとつには、在庫や広告展開に関する意思決定スピードを、著しく向上できるということがある。市場でポジションを確立し、そうした意思決定が社外で下されるのを待つのではなく、自らスピーディに下せるようにしたい」。
自らの真価を示したい
意思決定のスピードに加え、ブランド戦略と顧客体験をしっかりコントロールできるようになる点も、エージェンシーが自社D2Cブランド立ち上げを推進する理由のひとつだ。フリーランス・クルーのアンドリュー・スネドン氏も、この点を重視している。
同社は今年、サブスクリプションサービスや食品プロダクトなど、合計4つの自社D2Cブランドを四半期ごとに順次ローンチする計画だという。スネドン氏は、1年がかりで調査を行い、ディストリビューターとパートナーシップを結ぶなどの準備を進めたと説明する一方、ローンチ前のブランドについて詳細を明かすのは控えたいとしている。
スネドン氏は次のように述べる。「D2Cブランドを立ち上げる主な理由のひとつは、売上拡大だ。しかしもう1点、クライアントに当社の真価を示せるという理由もある。自社ブランドがいくつかあれば、社内のチームによる成功例、ケーススタディとしてクライアントに示すことができる」。
事業の多角化を目指して
さらに、事業の多角化を目指してD2Cブランドをローンチするエージェンシーもいる。Facebookはパフォーマンスマーケティングエージェンシーにとっての主力チャネルだが、以前米DIGIDAYが報じたように、Facebook広告の高コストと、一貫性のなさは大きなネックとなっている。
そのため、パフォーマンスマーケターやメディアバイヤーのあいだでは、Facebook以外にメディア予算を投じるチャネルを模索するケースが増えているのだ。こうした企業のなかには、収益源の多角化を狙って、D2Cのブランド立ち上げを目指す例が見られている。
ブランド立ち上げの危険性
コモン・スレッド・コレクティヴ(Common Thread Collective)では、傘下のeコマースホールディングカンパニー、4 by 400を通じ、複数のeコマースブランドを買収/運営している。同社のマネージングパートナーを務めるテイラー・ホリデー氏は、エージェンシーによる相次ぐD2Cブランド立ち上げについて、「クライアントのブランド成長をサポートしてきた実績だけを頼りに、自社ブランドを直ちに成功させられると思うのは危険だ」と警鐘を鳴らす。
同氏は、D2Cブランド立ち上げを目指すエージェンシーにとって大切なのは、ブランド立ち上げに潜む落とし穴に注意すること、買収戦略に期待しすぎないことだとも指摘。4 by 400の場合、ブランドを一から立ち上げるは多額の投資が必要になると判断し、買収戦略を選択したと説明した。
さらにホリデー氏は、「ブランド立ち上げに際しては、それが(すぐに)利益の柱にはならないことを常に肝に銘じなければならない。ブランド立ち上げは、既存の収益源からリソースを奪い、利益を生まないところに投じる行為だ」とも分析。4 by 400では、エージェンシー事業とeコマースビジネスを意図的に切り離していると語った。
「大きな期待をかけている」
ホームステッド・ストゥーディオのザック・スタック最高経営責任者(CEO)も、エージェンシー事業とD2Cブランドを切り離して展開する意向だ。スタック氏は年内にふたつのブランドをローンチする計画で、グロースマーケティングの手法を用いて、ブランドの成長を促したいと考えている。いくつかの課題が残されている事実を認識しているが、多数のクライアントとの協働を通じ、ブランドを成功に導く秘訣を理解していると、スタック氏は述べる。チームメンバーも含め、自社ブランドの今後に大きな期待をかけているという。
「さまざまなブランドから学べば、成功するブランドの共通点が見えてくる。そうした豊富な知識がありながら、自社ブランドの立ち上げを考えず、エージェンシー事業だけに専念し続けるのは無理というものだ」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)