「そこに住んでもいい」:フォンブース問題に取り組む、エージェンシーの試行錯誤

プライバシーの確保がほとんど不可能で、オフィス内での話し声を遮断するためにヘッドフォンをするのが日常になってしまっているオープンプラン式オフィスでは、フォンブース(電話ボックスのような共有小部屋)がその打開策となっている。その小さな空間は、経済的にも非常に有利なオープンプラン式オフィスの採用を諦めることなく、ささやかなプライベートな空間を提供できるのだ。

エージェンシーにとって、オープンプラン式オフィスの意義は、業界での生き残りをかけてコラボレーションを促すところにある。だが、そういったオフィスでは、たとえばヘッドフォンをかけたり、「いまは会話をするタイミングではない」というサインを出したりしないと、売り込みや締め切りに集中するのが難しくなっている。そこで導入されたのがフォンブースだ。

だが、オープンプラン式オフィスがプライベートな空間を共有スペースにすることで、社内は大きく変わった。さらに、プライベートな空間がなんのために必要なのかという社員の考え方を揺さぶり、フォンブースの存在意義に疑問を抱かせた。「全員、かなり自由に話している。個人的なことを話していることも多い」と、ゼニス(Zenith)のエグゼクティブバイスプレジデントでイノベーション部門を率いるトム・グッドウィン氏は語る。「ブースに入っていくのを見ると、何か少し奇妙なことが起こっている感覚を覚える。従業員の家族に不幸があったとか、リクルーターから電話がかかってきたのかも知れないとか考えてしまう」。

居座る人と予約システム

もちろん、フォンブースは、将来に向けた就職面接や眉をひそめるような私的な電話のためだけに使われているわけではない。フォンブースに身を潜めている人のなかには、ある種のプライバシーが得られることに魅力を感じてその部屋に居続けている者もいる。その部屋は、個人的な空間でさっと電話をかける場所というよりも、オフィス内のパーティションと化しているのだ。「我々のクリエイティブのチームは、何かを貼れるような壁のある小さな空間を切望しているようだ」と、イギリスのクリエイティブ企業で働くジェームズ氏(苗字は明かしてくれなかった)は語る。

フォンブースのなかに居座り続けることで、妙な動きが生まれることがある。あるエージェンシーでは、社員がフォンブースを予約し、その空間を確保できるシステムを導入している。早い者勝ちのやり方をとっている別のエージェンシーもある。だが、予約システムがあるエージェンシーでも、社員のあいだではそのルールを守らなければならないというエチケットが存在している。

そして、これがフラストレーションになってしまうこともある。

「その部屋を私が予約するということは、その部屋をまだ予約していないか、予約しようとしている人が存在することになる。これではもっともイライラすることになりかねない」と、フィラデルフィア州で広報活動や広告に携わるエージェンシーのA&Gであり、プロモーション部門のバイスプレジデントを務めるジェーソン・ルイス氏は語る。「部屋を使う場合は、節度をもって人々の時間に気を配ったうえで、自分が部屋を押さえていると確認することが、非常に大切になる」。

ダダ漏れのプライバシー

デジタルエージェンシーのソーシャルコード(SocialCode)では、フォンブースはエージェンシーの社員が働くうえで必要不可欠なものになった。「これは我々の文化の一部だ」と、ソーシャルコードのジェネラルマネージャーであるサラ・リヨン氏は語る。彼女によると、この会社ではボックスの需要が高いため、予約システムを採用しているという。「打ち合わせの時間が変わって、約束の時間が来ると、みなシフトを交代するかのようにフォンブースに出入りしている」。

だが、これは単に空間を予約しているだけではない。「彼らは、使われるべきではない使われ方に慣れきってしまっている。建物のなかにクライアントがいるときに、ボックスのなかで話している」とジェームズ氏。「しかも、はじめての人は、そこは個人的な会話をするところだと勘違いしてしまうが、全面ガラス張りだし、防音性もまったくない」。

「電話口で激昂しているクライアントの声を聞いたり、アカウント担当者が小突かれているのを見たりすることがある」と、ジェームズ氏は付け加えた。「最悪だったのは、あるクライアントが彼女のペットを安楽死させなければならないという声を聞いたことだ。その後、彼女は泣き崩れたのだが、あれはかなりショッキングだった」。

居心地の悪さを感じる恐れはあるが、それでも、オープンプラン式オフィス内のフォンブースが最適解だと信じているエージェンシーもいる。多くがコラボレーションやエージェンシー内でのスピード感の必要性について言及し、オープンプラン式オフィスには分があるとしている。ヘレン&ガートルード(Helen & Gertrude)のCEOであるベッカ・ポスト氏は、オープンプラン式オフィスでなかったら、社員はいまのようにはコミュニケーションが取れていなかっただろうと信じている。

「ある意味では、オープンなフロアであっても、誰もが入れるこうした部屋がある限りは、個人的な空間を持つ自由が与えられている」とルイス氏は語る。

「そこに住んでもいい」

なかには、社員のあいだでの文化の一部としてフォンブースを飾り立てているエージェンシーもいる。デジタルショップのボウルダー(Boulder)や、コロラドに拠点を置くブランドズーカ(Brandzooka)の創設者兼CEOのアキレス・ラ=グレイブ氏は、「社員がオープンオフィス内での電話に、だいぶムカつきはじめている」ことに気づき、1950年代のAT&T社のフォンブースを改造したものを購入した。

ラ=グレイブ氏は、防音タイルを増設し、会議電話向けにiPad Proを設置し、ボックス内にアーケードゲームや瞑想向けのソフトを導入した。「その後、徐々に多くの酒類や、アロマキャンドルやスピーカーを備えた小さなバーを設置した」と、同氏は語る。「これは全員のお気に入りの場所で、電話をかけるために使われることはほとんどない。我々はここを『タイムアウトスポット』と呼んでいる。社員はときどきそこに行って、水が流れる音を聞く自分だけの時間を過ごしたり、30分ぐらいバーボンを飲んだりして楽しんでいる」。

「誰もが、必要な数の充電器や飲食物の自動販売機があれば、そこに住んでもいいと思っているだろう」と、リヨン氏。「いつまでもそこに居座るはずだ」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:Conyac