広告業界には昔から、ただの目立ちたがりや、大きなことばかり言う人たちが横行するという「インチキ問題」がある。彼らは「業界を良くする」アイデアを次から次へと吹聴するが、実際は仕事で忙しいわけでも、経営幹部なわけでもなかったりすることが多い。
TwitterやLinkedIn(リンクトイン)を使っている人ならば、広告界のスターを名乗る人たちが、専門家として自分を売り込んでいるバイラル投稿を目にしたことがあるだろう。そうした投稿の内容は、広告関連のあるとあらゆる分野に渡っている。コピーライターとしてスキルアップしたい? 役立つヒントを厳選したこちらのリストをどうぞ。ワークフローの管理を改善したい? それならこんな解決策があります。クリエイティブ制作に行き詰まっている? 進め方に問題があるからでしょう。だけど、こんなふうにすれば大丈夫…。
どういう人たちなのか、すぐに思い浮かぶだろう。こんな状況でなければ、SXSWやカンヌライオンズのステージで見たかもしれない人物たちだ。だが今年の場合は、彼らがどこかに登場していたとすれば、それはZoomのウェビナーだろう。とにかく、広告業界には昔から、ただの目立ちたがりや、大きなことばかり言う人たちが横行するという「インチキ問題」がある。米DIGIDAYの副編集長シャーリーン・パサックが2017年に公開した記事で指摘しているように、彼らは「業界を良くする」アイデアを次から次へと吹聴するが、実際は仕事で忙しいわけでも、経営幹部なわけでもなかったりすることが多い。
「以前にも増してデタラメには注意」
だが、新型コロナウイルスのパンデミックで影響を受けたエージェンシー各社が大きな改革を進めている今、そうしたデタラメが横行する状況も変わってきそうだ。エージェンシーはコロナ危機の早い段階で、当時まだ残っていた華美な振る舞いを廃止し、そのための支出をカットしている。だがそれだけでは、新型コロナウイルスで受けた打撃をカバーし切れなかった。
Advertisement
レイオフを実施するエージェンシーも、このところ再び目に付くようになっている。7月下旬には、大手クリエイティブエージェンシーのワイデン+ケネディ(Wieden+Kennedy)が、全従業員の11%を一旦解雇することが明らかになった。不況が進行すると、給与保護プログラムのローン返済免除期限が来てしまい(参考)、広告予算は縮小され、ブランドマーケターはすぐに結果が出る施策にばかり目をむけるようになり、エージェンシーは、ダイレクトなリターンが効率的に得られる施策以外のプロジェクトにかける時間や余裕を失ってしまう。
「以前にも増してデタラメには注意する必要が出てきている」と、あるエージェンシー幹部は語る。「マージンが少なくなっているので、これまでのようにリスクは取れないし、デタラメなアイデアというのは漠然としていることが多いので、今の現実やエージェンシーの責任といったものにはそぐわない」。
貢献していないとすぐにわかる
エージェンシーの従業員たちに、広告業界にのさばるデタラメな人たちについて聞いてみると、彼らもうんざりしていることがわかる。インフルエンサーマーケティングエージェンシーRQのシニアアカウントディレクター、ケイティ・ウェルハウゼン氏によれば、業界内ではそうした手合を「Twitter預言者」や「業界では当たり前の原則を、あたかも自分の広告の見方が哲学的であるかのように説教してくる人たち」と呼んでいるという。そして、世界的に危機が広がるこの状況下では、そうしたタイプの同僚や上司はとても容認できない、とウェルハウゼン氏は語る。
「我々は皆、もう少し現実的になる必要があるだろう。経験や適正はもちろん、今は才能ですら簡単に偽ることができる。6カ月後どころか、今日や明日にも何がどうなるかわからない今、(オンラインでもオフラインでも)実際にしっかりとした関係を築けている相手こそ、私たちが信頼し、尊重すべき相手なのだ」。
やたらと華々しいアイデアがステージ上で称賛される目まぐるしい業界イベントや、カリスマ性だけで出席者を魅了できる会議室での対面ミーティングが開催されない今、誰かが適当なことを言って切り抜けようとしても、それがデタラメだと気付かれやすくなっている、とあるクリエイターはいう。パンデミック以前は、会議で聞いた他の人のアイデアを頂戴したり、手は動かさずに華々しいアイデアを偉そうに披露したりするだけで、プロジェクトに貢献したような顔をすることもできた。だが今は、貢献していないとすぐにわかってしまう。そしてエージェンシーの従業員たちは、自宅で疲れきって燃え尽きていることもあり、余計にそうした空虚な振る舞いを許せなくなってきているのだ。
現段階において本当に必要なもの
「高尚なビジョンの表明はもはや支持されない。かつての『ノーマル』な時代に壮大なアイデアが受け入れられていたのは、企業が1年後、2年後、3年後といった将来の進展について考える余裕があったからだ」と、コード・アンド・セオリー(Code and Theory)のビジネス開発部門でシニアマネージャーを務めるジェイク・ゴールドスタイン氏は指摘する。
「しかしパンデミックの渦中にある今、どの企業も現段階に意識を集中させ、現段階を乗り切るための具体的でリアルな解決策やアイデアに目を向けている」と、ゴールドスタイン氏はいう。「目の前にある問題を解決するための、計算された案こそが、この先の存続のために本当に必要なものなのだ」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:半井明里/ガリレオ、編集:長田真)