電通と電通デジタルは9月18日、電通ホールで「People Driven Marketing実践セミナー2018」を開催した。本稿では、この従来のマスマーケティングとOne to Oneマーケティングが融合された新しいマーケティングサービスに関するイベントの一部を抜粋して紹介する。
電通と電通デジタルは9月18日、電通ホールで「People Driven Marketing実践セミナー2018」を開催した。「People Driven Marketing」(ピープルドリブンマーケティング、以下PDM)とは、電通グループが保有するあらゆるマーケティング手法を「人基点」で結集・高度化した統合フレームワーク。従来のマスマーケティングとOne to Oneマーケティングが融合された、新しいマーケティングサービスとして昨年より展開している。今年はさらに進化した部分と、より実践的な内容が紹介された。
セミナーの冒頭で電通の社長、山本敏博氏は「PDMはフルファネルで統合的に事業を推進するフレームワーク。データだけでなく、クリエーティビティー、エグゼキューションにまでつながっている」と説明。
そして、セミナー全体ではPDMを構成するさまざまな要素に関連した計11のセッションが行われた。その内容はひと言で説明すると次世代マーケティングだが、ブランドセーフティ、インフルエンサー、コンテンツマーケティング、クリエーティブなど、実に多岐にわたっている。本稿では、それらの一部を紹介する。
次世代マーケティング
次世代マーケティングにおいて、もっとも重要なポイントのひとつは、PDCAをしっかり運用することだ。旧来のマーケティング施策のように、一度「計画」「実行」しただけで、途切れさせてしまっては意味がない。「計画」「実行」「分析」「改善」までのサイクルを、何度もスピーディに繰り返してこそ、持続的な事業成長が見込める。
電通デジタルの執行役員ソリューション部門長、杉浦友彦氏が登壇したセッション「”フルファネル”✕”人軸”での次世代マーケティング 〜IDデータを核にしたオーディエンスPDCAの実践アプローチ」では、そのPDCA運用に「IDデータ」というソリューションが示された。マーケティングファネルにおけるすべての箇所をIDデータレベルでつなぎ、まさに人軸でPDCAを最適化していくという。
「ひとつのコンセプトとしては、『企業のマーケティング活動のファネルの根幹に、IDデータの背骨を入れる』ようなイメージ」と、杉浦氏は説明する。「ターゲット市場全体から、広告接触、検索、サイト来訪、Webコンバージョン、来店・購入、再購入まで、ファネル内の動きをIDレベルで、人軸で追っていくことが大事だ」。
そこで登場するのが、Web・スマホ閲覧行動、位置情報、SNS情報、チケット購入情報、購買行動、属性意識価値観、テレビ視聴行動などのデータを保有する、国内最大級のパブリックDMP「People Driven DMP(以下People DMP)」だ。この電通グループ独自のデータ基盤で、個人を特定しないIDベースのトリガーモーメント(CVに繋がる行動の引き金となる兆し)を捉え、それを企業のファーストパーティデータと連携させることで、”フルファネル”✕”人軸”での次世代マーケティングを実行できるという。
「過去20年、ファネルの各レイヤーは分断され、特にデジタル広告のKPIはクリックやCPAなど、変わっていなかった」と、杉浦氏は語る。「人軸のIDデータの活用により、ようやくフルファネルで、ピープルドリブンなマーケティングの土壌が整ってきた」。
ブランドセーフティ
テクノロジーの進化によって、高度なターゲティングが可能になり、デジタル広告の効率化は飛躍的に高まった。その一方、デジタル広告はいま、さまざまな面で問題視されている。PDMはそうした問題にもソリューションを提示している。
電通デジタルのプラットフォーム戦略部で事業部長を務める高田了氏は、セッション「ブランドセーフティが重要視される時代のプログラマティック動画配信」で、いわゆるアドフラウド、ブランドリスク(ブランドセーフティ)、ビューアビリティ、アドエクスペリエンス問題について触れた。特にアドフラウド、ブランドリスクについては、かつてはメディア選択が広告配信の肝だったが、現在は配信側で保有するデータによってターゲティングが可能なため、メディア選択が重要ではなくなったことが原因となっているという。そこに付け入る悪徳な人たちによって、これらの事象が生み出されているというのだ。
「また、広告価値毀損問題に関するクレームはいま、カスタマーセンターに届くことが多い。すると、企業のマーケティング担当者ではなく、コンプライアンス担当者が対応することになる。つまり、発生している事象が大きくなっている」と、高田氏は説明する。「さらに現在は、企業のグローバル化が進んできた。商品の海外展開や外国人株主の増加などが進むなか、海外から炎上するケースも増えてきている」。
そんななか、電通と電通デジタル、サイバー・コミュニケーションズの3社は9月7日、民放のキャッチアップ配信サービスやGYAOなど、プレミアムな動画媒体とコンテンツのみを配信対象とする「Premium Viewインストリーム動画広告」の提供を開始した。従来にはないレベルでの安心・安全な動画広告を実現する本サービスにおいて、「人基点」のマーケティングを最先端の技術で実現し、ROIを最大化するPeople DMPを最大限活用しているのだという。
「今後は、広告配信の効率だけを考えてはいけない」と、高田氏は締めくくる。「適切なメディアで、適切な広告を配信していくことも考える必要がある」。
インフルエンサー
「人基点」のマーケティングにおいて、重要度を増しているのが、「興味・関心」「比較・検討」を担うミドルファネルだ。「自分ごと化」させるこのフェーズにおいてPDMは、企業目線ではなく、ユーザー目線で伝えることができるインフルエンサー動画広告に着目している。
電通デジタルのアドバンストクリエーティブセンターの近藤ゆい氏は、セッション「インフルエンサーに聞く! 自分ごと化させる動画づくり」において、2016年後半からキーワードプランナーにおいて、「インフルエンサー」「インフルエンサーマーケティング」の検索数が増えていると語る。その要因として、SNSの世界観にそぐわない企業目線の動画広告だと、配信面のなかで浮いてしまい、自分ごと化されないからだと分析した。
「SNSにおける企業目線が強い動画広告には、1.訴求したい内容を直接的なコピーで表現、2.チラシ広告のようにテキストが多い、3.テキストの書体がSNSにあっていない、4.人間が出てこない、5.音楽がないという要素がある」と、近藤氏は説明する。「ミドルファネルの攻略方法のひとつとして、SNSの特徴を知っていて、かつ消費者目線で訴えられる、インフルエンサーの動画がとても効果的だ」。
その効果を最大化するため、電通デジタルは9月19日、インフルエンサーの動画広告を制作・配信するソリューション「MOVIE GENIC 2.0(ムービージェニック2.0)」の提供開始を発表した。このサービスは、昨年9月に発表されたInstagram(インスタグラム)の動画広告を制作・配信するソリューション「MOVIE GENIC」の進化版だ。2.0では、Instagramだけでなく、Facebook、Twitter、さらにいま流行のリップ・シンクSNS、TikTok(ティック・トック)も対象としているという。
「SNSが多様化している現在、そのユーザー層の棲み分けが顕著になっている」と、近藤氏は続ける。「そのため、ひとつだけではなく、それぞれのSNSユーザーにあったアプローチが必要になってくる」。
コンテンツマーケティング
ブランデッドコンテンツやオウンドメディアなど、コンテンツマーケティングはいまや、デジタル施策において欠かせない戦略となってきた。しかし、一方で、その戦略策定や効果測定に関する課題も増えている。PDMは、その部分にも光明をもたらす。
電通デジタルのマーケティングコミュニケーション第1事業部(講演当時)でグループマネージャーを務める今井裕香里氏は、セッション「PDMを用いた新たなコンテンツ開発〜データドリブンなコンテンツ開発・コンテンツチューニングの時代に〜」で、コンテンツマーケティングに必要なことは、その目的を明確にすることだと語る。なぜなら、事業課題は企業ごとに異なるため、それに合わせた戦略や指標を設定する必要があるからだ。
「とある金融系のクライアントから、新規会員獲得において、これまでの施策の効果が薄れてきているという課題をいただいた。そこで我々は、People DMPで各ファネルにおけるユーザーの洞察を行い、それを反映させた提案を行った」と、今井氏は説明する。「いわゆる刈り取りの文脈で設計されていた従来の施策では、CVRが0.6%。だが、メディアタイアップを有効に活用した、我々が提案した新しい施策では、CVRが4.8%という結果になった」。
その背景にあるのが、電通、電通デジタル、サイバー・コミュニケーションズの3社が5月にリリースした、「People Driven Content Marketing」だ。このサービスでは、「人基点」のPDMのフレームワークを拡張し、①一貫したブランドメッセージに沿ったコンテンツ開発、②オウンドメディア単独でなく、広告やソーシャルメディアも含めた統合的なクロス展開による生活者の捕捉、というふたつの課題を解決していくという。
「People Driven Content Marketingでは、ターゲットがどこにいるのかわかったうえで、メディアの知見を借りながら、ターゲットに好まれるようなアウトプットを行う」と、今井氏は語る。「さらに事業課題を解決できるKPI設計および戦略を、メディアやCCIコンテンツスタジオとの連携によって、いままで以上にスピーディに提供していく」。
クリエーティブ
PDMは、実際のクリエーティブの現場も変えている。「人基点」にすることで、さまざまな新しいクリエーティブの可能性が開拓されているのだ。
「PDMは、この1年を通して、もう実際に動きはじめている」と、電通デジタルで執行役員/エグゼクティブクリエーティブディレクターを務める並河進氏は、本イベントのクロージングセッション「クリエーティブの現場で、もう始まっていること。」で語る。「PDMでは最終的に、クリエーティブがさまざまな条件を加味して、実際に着地させている。すでに、さまざまな事例が生み出され、ブランディングだけではなく、顧客の獲得にもつながっている」。
実際、これからのクリエーターは、運用コンサルティングとタッグを組んで仕事していく必要がある。そのうえで、商品というものを多面的に捉え、個人に合わせて伝え方を変えていかなくてはいけない。さらに、その伝え方を変えることを楽しめることが、これからのクリエーターには求められるという。
「トップファネルだけでなく、ミドルもボトムも全部含めて、クリエーティブがすべての制作物に責任を持つべきだ」と、並河氏は締めくくる。「しかも、データを背景にしたプランニングを実際に着地できるのがクリエーティブの仕事だという気持ちでやっていきたい」。
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Written by 広告制作チーム
Photo by 渡部幸和