インターネットの利用者がこれまで深く考えることなく渡してきたデータ(とそのデータを収集する方法)を、一部のアドテク企業が乱用してきたことは疑う余地もない事実だ。この現実と、業界大手2社の見解が相反している様子が、ニューヨークで開催されたIABの年次リーダーシップ会合で2月9日に繰り広げられた。
インターネットの利用者がこれまで深く考えることなく渡してきたデータ(とそのデータを収集する方法)を、一部のアドテク企業が乱用してきたことは疑う余地もない事実だ。この現実と、業界大手2社の見解が相反している様子が、ニューヨークで開催されたIABのALM(Annual Leadership Meeting:年次リーダーシップ会合)で2月9日に繰り広げられた。
WPPのCEOのマーク・リード氏とGoogleの米州・グローバルパートナー担当プレジデントであるアラン・ティゲセン氏の公開討論で、ティゲセン氏は「人々が自分のデータをコントロールできない状態」にあり、データがどのように使用されるかについて不安に思うこともあるかもしれないと認めた。
ティゲセン氏は「個人データがどのように使用されているのかについて透明性も説明責任もほとんどない」と続け、「その結果、インターネット上の個人データに対するプライバシーと自己管理の強化を訴える声が高まっている。また、世界中の規制当局も、ルール整備の必要性にますます注目している」と語った。
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Googleの基本的なビジネス哲学
プライバシーに関するこうした規制を受け、Googleをはじめとするデベロッパーやブラウザは、個人データの収集方法の見直しを迫られている。ティゲセン氏は、GoogleがサードパーティCookieの段階的な廃止を発表して以降ほかの案も浮上していることを認め、業界がいま「岐路に立っている」と指摘した。
ティゲセン氏は次のように語った。「プライバシー保護を強化しながらパーソナライズ広告を届けるためのデータの使い方を考案しなおすために業界が一致協力するか、そもそも個々のパーソナライズを廃止して、30年間にわたって数多くの企業にグローバルな成長と繁栄をもたらしたモデルに別れを告げるかだ」。
Googleが、一部の小国を超える規模の収入をもたらした基本的なビジネス哲学を変える気がないのは明らかだ。ティゲセン氏は、この問題はGoogleだけではなく、業界全体で解決すべき問題だという。「ユーザーのプライバシーをときどき守る、というだけのエコシステムは続かない。エコシステム全体にわたって変えていく必要があり、すべての関係者の意見やフィードバックを活用しなければならない」。
エージェンシーサイドからの指摘
リード氏は、デジタル広告業界が、バイヤー側もセラー側も、データによって可能になるターゲティング広告を消費者に受け入れてもらえるように働きかける必要があるのではないか、と提案した。「私たちはターゲティング広告のほうが価値があるということを説明しなければならないのではないか。より厳密にターゲティングできればできるほど、コンテンツ料金を負担するために消費者に表示する広告数も少なくなり、消費者にとっても快適になる。最終的に、それが私たちの仕事」とリード氏は説明した。
2月9日の別のミーティングでは、パブリッシャーたちがユーザーの識別方法(または識別方法がないこと)を巡る自身の課題について嘆いていた。
ただ、テック企業の首脳陣にとってもっとも悩ましいのは、データのプライバシーという部分だ。これまでのやり方にテコ入れしなければならないのはわかっているが、消費者がインターネット上に残していく足跡から吸い上げることがすっかりあたりまえになったデータ、特に自分たちのウォールドガーデンで得るデータは失いたくない。リード氏はその現実をさりげなく批判する。「データのプライバシーというこの課題が、いちばん大きいと思う」とティゲセン氏に語り、「最大手の関係企業が、門番となるのではなく、リーダーとして、消費者が理解できるような基準の設定ができるようにしなければならない。率直にいって、そうすることで、ウェブから最大限の価値を得ることが保証される」と述べた。
消費者たちからの厳しい視線
ティゲセン氏は、消えていくCookieに対してGoogleがプライバシーサンドボックスで新しいソリューションを探る努力を行ったと胸を張ったが、試行錯誤の手探り状態であったことを認め、いまでも規制当局や議員たち、そしていうまでもなく自分のデータがどのように使用され(ときには乱用され)ているかをよりよく理解するようになった消費者からのハードルに直面していると明かした。
ティゲセン氏は、GoogleのFLOCからTopicsへの進化を、同社が協力的なプロセスで取り組みを進めたとして褒めたたえつつ、一部の企業が個人を特定できる情報(PII)に頼っているとして、Cookieの後継を生み出そうとするほかの取り組みを批判する機会も逃さなかった。具体的な名前は挙げていない。「それらのアプローチは消費者や規制当局の期待に応えるものではない。ユーザーのプライバシーにとっては前進ではなく、後退だ」。
リード氏はGoogleがFLOCから移行したことが単純に嬉しいと冗談交じりに話した。「FLOCの決定には喜んだ。いまだにそれが何なのか理解できていないが、もうその問題に頭を使わなくていいのだから」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU