オピニオン:WPPの新CEOは、収益ではなく「目的」中心に改革すべき

本記事は、独立系エージェンシーであるフェアシェア(FairShare)の現CEOで、WPP元幹部であるエイモン・ストア氏による寄稿です。

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マーク・リード氏が、この数カ月、非公式に担ってきた、WPPのCEOという地位にあっけなく正式に任命された。金融業界とメディア業界はこのニュースを、用心深くではあるが、楽観論をもって歓迎するだろう。

楽観論なのはそうだろう。リード氏は聡明で戦略的で評価の高い経営者であり、WPPのリーダー層における政治と意味合いを理解し、見通せる人物なのだ。事業の面でも、WPPはいっそう決断力のある判断を期待できる。前任者のマーティン・ソレル氏は、エゴと拒絶が相まって、周りが見えなくなっていたように思う。

勢力や自己保身のための結託からついに自由になった、無駄を省いた経営陣の、引き締まった現代的なチームが、この巨大な持株会社を合理的な思考でスリム化していくことが期待できる。『マッドメン(Mad Men)』の時代以降、一貫して下降しているような古いエージェンシーブランドの、待ちに待った統合など、グループの改革は早急に進むだろう。大っぴらに議論されているY&R(ヤング・アンド・ルビカム)のVMLへの統合は考えるまでもない。JWT(ジェイ・ウォルター・トンプソン)は何らかの形でワンダーマン(Wunderman)に統合されるかもしれないし、グループ・エム(Group M)の徹底的なオーバーホールもあるかもしれない。さらには、メディアサービスやクリエイティブサービスの再構築に向けた動きもあるかもしれない。ただ現実を直視すると、マクサス(Maxus)とMECのウェーブメーカー(Wavemaker)への統合は、まだ初期段階だが、幸先のいいスタートを切ったとは必ずしも言えない。

リード氏に対する期待

こうした待望の改革に加え、歯に衣着せぬ、あまり自己中心的ではないリーダーのリード氏なら、マーケティングコミュニケーションに大きな目標を復活させる可能性が大いに高まる。WPPはこれまで、ベースラインの成長とマージンの拡大のふたつだけだった。WPPはスタッフの離職率が40%圏内で、上位1%も、物質的には豊かだが個人的な充足は限定的という形になっているのはこれが理由だ。そんななか、ワークライフバランスやソーシャルメディア大手の最新のやり方を求めて、若者たちは会社に見切りをつけていった。

リード氏は、窓を開けて、風通しのよくないこの家をリフレッシュできる機会を手にした。WPPのエージェンシーがクライアント、パートナー、人々をどのように導いていくのか、エージェンシーの各CEOと対等な最高目的責任者(chief purpose officer)が本当のところを問題にするべきだ。WPPの偉大なエージェンシーは、構築した人物が辞職し、統計屋や内向きの出世主義者が代わりに入っているケースがあまりに多い。これは変える必要がある。この業界は透明性の問題で全面的に大きな打撃を受けており、専門用語に頼らない明確な言葉による嘘のない簡潔な契約は大いに有効だろう。

WPPのメディア力とクライアント基盤があれば、米国における飢えの問題を本当に解決することも、米国のオピオイド危機問題に対する注意を大きく喚起することも、社会への極めて大きな脅威となっている精神衛生の問題に実際に影響を及ぼすことも可能なのだ。WPPならば、機械的な持続可能性報告書を超えて、パートナーや人々が本当に共感する精神衛生などの意義深い問題に対し、実際に影響を及ぼすことに力を入れることができる。そして、同時に利益を生み出すことができる。

WPPが目指すべき道

米国は企業国家であり、企業の大多数が社会的な影響を重視するのは極めて明白だ。顧客やビジネスパートナーの行動を変えるにはこれが重要なのだ。現在は、自社のためのコーポレートコミュニケーションや、国連の戦略的な開発目標などの組織に既存の仕事を組み込むことに、あまりに多くの善意が埋没してしまっている。それを誰もが目にしている。セールスフォース(Salesforce)のマーク・ベニオフ氏、ペプシコ(PepsiCo)のインドラ・ヌーイ氏、ユニリーバ(Unilever)のポール・ポールマン氏たちがすでに公言しているように、目的と収益は手を携えることが可能だ。これから先、社会問題の解決は収益性の高いコマーシャルの進展に頼る部分が大きくなる。企業が善行によって業績をよくすることは、単に受け入れられただけではない。不可欠なものになっている。

WPPはいまこそ先頭に立ち、目的が収益と並ぶ重要な位置を占めるようにする最高に野心的な改革課題を設定するべきなのだ。思い切った一手にはなるだろう。WPPは、ほかの企業と同様に、あらゆる層に最高の人材を集め、維持して行く必要がある。具体的な社会問題や環境問題へのこだわりを明確にすることで、一部には対立が生じるだろう。しかし、WPP傘下のカンター(Kantar)によると、会社へのロイヤルティを主張する従業員の84%は、コミュニティを気にかけている人たちであり、そうした人たちとの関係は深まる。

こうした野心、誠実さ、大胆さの拡大に、大切な投資家やクライアントたちも粘り強く報いてくれるだろう。こうした点を新たに重視することは、WPPにはメリットばかりであり、失うものはない。

Eamonn Store (原文 / 訳:ガリレオ)