エージェンシートレーディングデスク(ATD)の時代が終わりつつあるようにみえるいま、ほとんどのエージェンシーは、大手クライアントがマーケティングテクノロジーとアドテクの両方を内製化しようと目論んでいると認識しているかもしれない。少なくとも大手クライアント各社が、マーケティングを強化してくれるサードパーティーのアドテクと組むことで、主導権とデータに関する透明性を得ることを求めているのは認知しているはずだ。
しかし、現在に至っても、一部大手エージェンシーの幹部がそうしたトレンドの存在を否定しているという話が、いまだに聞こえてくるのだ。その一方、ブランド側のマーケターは、単に結果が良ければ満足というわけではないという。彼らは、エージェンシーから提供される、通常のインサイトやコストの透明性よりも多くのものを求めている。
だが、提供するエージェンシーを介して提供されるDSPやDMPをと、アドテクが提供するものとの間に存在する意見の食い違いは、もはや珍しい話ではない。次なる大きなうねりがそこに見えているからだ。
本記事は、広告代理店RPAでオーディエンス戦略担当ディレクターを務めるマイク・マーゴリン氏からの寄稿である。
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エージェンシートレーディングデスク(ATD)の時代が終わりつつあるようにみえるいま、ほとんどのエージェンシーは、大手クライアントがマーケティングテクノロジーとアドテクの両方を内製化しようと目論んでいると認識しているかもしれない。少なくとも大手クライアント各社が、マーケティングを強化してくれるサードパーティーのアドテクと組むことで、主導権とデータに関する透明性を得ることを求めているのは認知しているはずだ。
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エージェンシーの言い分
しかし、現在に至っても、一部大手エージェンシーの幹部がそうしたトレンドの存在を否定しているという話が、いまだに聞こえてくるのだ。
代理店が提供する専売的な一連のアドテクサービスのほうが、サードパーティの提供する内製化できるものより優れていると、クライアントが本当に信じているという議論が続いている。
トレーディングデスクをめぐる不信感を和らげるには、これを解体して、プログラマティックのスペシャリストをブランドのもとへ送り出し、エージェンシーが保有する一連のアドテクサービスを使って、プロジェクトを遂行すべきだという議論も続く。
クライアントの本音
しかし、ブランド側のマーケターは、単に結果が良ければ満足というわけではないという。彼らは、エージェンシーから提供される、通常のインサイトやコストの透明性よりも多くのものを求めている。
というのも自社のWebサイトとCRMプラットフォームとの相互運用性を期待しているからだ。クライアントはマーケティングデータを管理したいと考えている。そのためには、そうしたデータを使ってキャンペーンを展開しているエージェンシーだけでなく、データ管理を支援するテック企業との直接的な関係も構築する必要があるのだ。
マーケターは、エージェンシーの見立てが間違っていたとしても、走り始めた列車を止めようがない。だから、ほかのオプションも検討したいと考えるのだ。
台頭しはじめた第三極
だが、提供するエージェンシーを介して提供されるDSPやDMPをと、アドテクが提供するものとの間に存在する意見の食い違いは、もはや珍しい話ではない。次なる大きなうねりがそこに見えているからだ。
アドビシステムズ(Adobe Systems)は、オムニチュア(Omniture)、デイ・ソフトウェア(Day Software)、エフィシェント・フロンティア(Efficient Frontier)と、数年の間に大規模な買収を行い、世界中のCMO(最高マーケティング責任者)たちへの全面攻勢を加速させる。しかもアドビは、直接マーケターと協力して、複数年契約を獲得することが増えており、エージェンシーの下請けに甘んじるつもりもない。
アドビだけではない。オラクル(Oracle)とセールスフォース・ドットコム(salesforce.com)も、さらに大規模な買収を行い、同様に巨大なマーケティングオートメーションのプラットフォームを構築している。3社を合わせた時価総額は、広告業界の大部分を上回るまでになっている。
エージェンシーとは異なる関係
クライアントサイドのマーケティングリーダーとこれらのソフトウェア企業の関係は、良かれ悪しかれ、エージェンシーとの関係とは異なる。それも、アドテクを提供できる企業は、やはりクライアントにとっては必須だからだ。
アドビサミット(旧称アドビオムニチュアサミット)は10年にわたり、企業マーケター向けの壮大なオールスターイベントとなっている。セールスフォースのイベントでは、「フォーチュン500」に名を連ねる企業の熱気あふれるマーケティングリーダー数百人のために、アメリカのロックバンド、メタリカがイベントを盛り上げた。
だがこれは、ショーのごく一部にすぎない。クライアント側のマーケターは、さらに多くのカスタマーインサイト、管理水準の強化、ワークフローの効率化の約束をアピールされている。
エージェンシーが目指す役割
これは、マーケティングオートメーションの時代が本当にやってきたというサインだ。米DIGIDAYのイベントで、あるパネリストが業界に対し、「セールスフォースやアドビなどは、アドテクに関する話にあまり加われないでいるが、そうした状況も長くは続かない」として、注意するよう警告した。
こうなるとエージェンシーの役割は、優れた戦略やサービスを提供するだけの存在に成り下がるのだろうか。我々は独創性に力を入れて、アドテクはもはや根本的に差別化要因ではないことを認識する必要があるのか。もちろん、単純に白黒つけられることではない。
多くのエージェンシーは、クライアントが重視するカスタムデータインサイト(可能ならターゲティングアルゴリズム)の開発を目指すことができるし、目指すべきだ。しかし、問題の核心に戻れば、クライアントが求める主導権の保証、透明性、相互運用性に対して、エージェンシーはなぜアドテクとの独占的な関係の維持を堅持し続けるのか。
根本的な原因はもちろん利益の確保にある。しかし、エージェンシーのアドテクが差別化要因としての存在意義を失っていくことで、クライアントは主導権を強化し、コミッションの透明性を高め、最高水準のサードパーティーのアドテク企業との自由な提携が可能となれば、エージェンシーが分裂に向かうのは回避できないだろう。
エージェンシーは、これまでとは異なるクライアントとのパートナーシップを結ぶことを求められている。その要求に応えるべき時が来ているのだ。
Mike Margolin(原文 / 訳:ガリレオ)
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