1月末から急速に日本で普及しつつある、音声SNSアプリ「Clubhouse(クラブハウス)」。その魅力は、とても気軽にさまざまな人々と雑談を交わせる(または、盗み聞きできる)点にあるが、そこにも落とし穴は存在する。とあるエージェンシーの広報担当にClubhouseに対する率直な懸念を語ってもらった。
日本のエージェンシーの広報・PRたちは、早くもやきもきしはじめている。
1月末から急速に日本で普及しつつある、音声SNSアプリ「Clubhouse(クラブハウス)」。その魅力は、とても気軽にさまざまな人々と雑談を交わせる(または、盗み聞きできる)点にあるが、そこにも落とし穴は存在する。匿名を条件に、赤裸々な内容を語ってもらう「告白シリーズ」。その最新回では、とあるエージェンシーの広報担当にClubhouseに対する率直な懸念を語ってもらった。
以下、その要約だ。一部読みやすさを重視して編集してある。
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ーーClubhouseの受け入れ度合いは、人によってさまざまだ。あなたはどんなスタンスで、Clubhouseと向き合っているのか?
招待制ということもあり、最初インバイトをもらったときは、単純にうれしかった。実際に触れてみても、いままでのSNSにはない、音声を中心とした、発信や受信の手軽さ・気軽さは、とても新鮮に感じたのを覚えている。
しかし、それ以降、数日経過したいまは、当初のような魅力は感じなくなった。むしろ、広報という立場上、あらたな火種を抱え込んだと、頭を悩ましている。
ーー広報の立場から見た、火種とは?
自社の社員による、Clubhouseでの失言だ。たとえば、会社やクライアントへの不平不満、上場企業だったら決算内容、それに機密事項となる新規事業の内容や戦略など、地雷は結構たくさんある。
これまでのSNSであれば、すでに社員向けのガイドラインが用意されているので、ある程度はカバーができていた。しかし、Clubhouseについては、いままでのSNSのようにはいかない。新しいガイドラインの必要性をとても感じている。
ーーなるほど。しかし、Clubhouseの規約では、基本ルーム内での会話の録音・記録は禁止されている。現状のClubhouseには、それを可能とする機能もない。
規約ではそうなっていても、すべてのユーザーが遵守するとは限らない。機能的にアプリ内でログを残すことは不可能でも、録音・記録する術はいくらでも存在する。実際、数日前にモデルの藤田ニコルがルームの会話内をネット記事にされたと嘆いていたことが話題になった。
彼女の場合、特に失言ではなかったようだが、そのような事態が一般企業の社員レベルで発生することも、十分に考えられる。特に芸能人や著名人と違って、一般人は公の場で話すことに慣れていない。そのため、口を滑らすことは大いに懸念しておくべきことだ。
ーーやはり会話だと、失言を生む可能性は高くなる?
ClubhouseがこれまでのSNSと大きく違うのは、言葉にしたものがそのまま不特定多数に届けられる点だ。発信者が問題のある発言を思いとどまるタイミングがほぼない。
実際、Twitterやブログなどでも、炎上することはあった。だが、たとえTwitterであっても、考えを文字に転換して、パブリッシュするという手間がいくつか存在する。それがストッパーの役割を果たすため、Clubhouseよりは安心感があるといえるだろう。YouTubeやインスタグラム、TikTokであっても、撮影したものをダイレクトにパブリッシュすることは、まずない。なにがしかの編集作業が発生し、その段階で思いとどまることも大いにありえる。
Clubhouseは直感的に発信できるという点が大きな魅力だ。だが、そこに大きな危険をはらんでいる。特に公での発信に慣れていない一般社員には、その点をガイドラインで念を押しておく必要があるだろう。
ーーしかし、コロナ禍以降、急速に発展したオンラインイベントやオンラインカンファレンスと、同じようなものといえなくもない。あちらでも、失言などはあるのではないか?
オンラインイベントやオンラインカンファレンスと異なる点は、ルームをオープンにすることができる点だ。だいたいのオンラインイベントやオンラインカンファレンスは、たとえ無料でも(いや、無料のものこそ多く)参加者の基本情報を取得する。そこに参加するためのハードルが設定され、筋違いな人はよほどのことがない限り紛れ込まない。だから、たとえ発信者が失言まがいのことをしたとしても、広報としてフォローはしやすいはずだ。そのイベントでなにか事が起きたとしても、その起因となった参加者を追跡することもできるだろう。
しかし、Clubhouseではそうもいかない。オープンにされたルームなら、誰でもどこでも参加できる。もちろんClubhouseは、基本設定として電話番号に紐付いた実名制のSNSだ。アイコンをタップすれば、オーディエンスの素性はある程度、うかがい知ることができる。とはいえ、ニックネームで利用している人も多く、メールアドレスや電話番号を知れるわけでもない。オーディエンスをスプレッドシートで一覧することなど、夢のまた夢だ。つまり、誰に聞かれているかは、基本わからないということになる。
ーーたしかに…。ほかにClubhouseがはらんでいる危険はあるか?
既存のSNSなら、なにか問題が起きた際に、最終手段としてアカウントを削除するという手段も残されている。もちろん、広報的には悪手なので、実際にそれを行うことはほとんどないが、最終手段が残されていると心持ちが違う。
しかし、現状のClubhouseでは、アカウント削除・退会する機能がないという。メールでアカウントの削除申請を送付しなくてはいけないのだ。ということは、最終手段も残されていないため、より慎重にならざるを得ないだろう。
ーーガイドラインを作成するとしたら、どのような点に留意したい?
まだまだ精査が必要な段階だが、いま言えることは、まず会社名をアカウント名に使用しないということだろう。プロフィール欄に入れることも、要検討といえる。あと、当たり前すぎることだが、社外の人が聴取しているルームで会社の機密事項を漏らさないということだ。こういうことは明文化しておくことが重要なポイントとなる。
もちろん、Clubhouseはまだまだ新しいサービスだ。そのため、今後さまざまなアップデートが重ねられ、パブリックスペースとして洗練していくだろう。だが、エージェンシーの広報としては、それを待っているだけではいられない。いまできる手立ては打っておく必要がある。
Written by 長田真