ハイブリッドな働き方といっても、オフィス勤務と在宅勤務の組み合わせでは必ずしもない。英国でコロナ禍による規制が緩和されるに伴って、ホテルやカフェやバーを仕事場として利用する人が増えている。コロナ禍で苦境に立たされたホスピタリティ業界も、回復の後押しになると期待する。
ハイブリッドな働き方といっても、オフィス勤務と在宅勤務の組み合わせでは必ずしもない。英国でコロナ禍による規制が緩和されるに伴って、コワーキングスペースやシェアオフィスの代わりに、ホテルやカフェやバーを仕事場として利用する人が増えている。コロナ禍で苦境に立たされたホスピタリティ業界も、回復の後押しになると期待する。
「第3のスペース」が人気
職場らしい活気や雰囲気は恋しいが、オフィスやコワーキングスペースでの勤務はまだちょっと。そういう人々のあいだで、いわゆる「第3のスペース」が人気を集めている。
ロンドン大学シティ校ビジネススクールとロンドン大学ゴールドスミスカレッジの研究者たちは、コーヒーショップ、パブ、ホテルのバー、教会、美術館、図書館、鉄道の駅など、ロンドン市内の36カ所に足を運び、このような場所で定期的に仕事をしている人々に詳細な聞き取り調査を行った。
Advertisement
調査の結果、第3のスペースを仕事場として利用する人々は、在宅勤務よりも高い生産性とモチベーションを実感していることが分かった。他者とのふれあいにより、孤独感が和らぐなど、健康上のメリットが主な理由のようだ。また、在宅勤務では得がたい帰属意識を感じる人々も見られたという。
主任研究員のレティシア・ミムン博士によると、働く場としての第3のスペースに対するニーズは今後ますます増えるものと思われる。ハイブリッド型の勤務を推進する企業は、ホスピタリティ業界と同様に、このような需要に応える準備をしておくべきだろう。
ミムン博士はこう述べている。「企業がこの状況に慣れるには時間がかかるかもしれない。もちろん、そんなニーズは無視して、とにかく家に居てくれと願うこともできるし、積極的に受け入れることもできる。さらには、同じ地域に暮らす従業員に、同じコーヒーショップに集まり、チーム感覚で働くことを推奨する企業もあるかもしれない」。
ハイブリッド型の仕事空間
エレン・コール氏は英国のヨークで、ソーシャルメディア、PRおよびマーケティングを専門に扱うコンサルティング会社を経営している。カフェや図書館、あるいはホテルなどで仕事をすることで、孤独感を解消しているという。「近くに人がいるところ、雑音のあるところのほうが、仕事がはかどる」とコール氏は話す。
成長戦略家集団ウィズインピープル(Within People)の創業パートナーであるジェフ・メルニク氏も、この調査結果に共感を示す。メルニク氏は8年前に「オフィスを持たない」という原則を掲げて事業を立ち上げた。世界中に散らばる同社のメンバーは、レストランやコーヒーショップ、バーなどで仕事をすることが珍しくないという。
サンフランシスコを拠点とするメルニク氏は、新しい本の執筆にも取り組んでおり、ホテルのバーのような人の出入りの多い、騒がしい環境で物を書くのが好きだという。テートモダン美術館の展望台から、ふたりの代理店創業者とのミーティングに参加したこともある。
コワーキングスペースの会議室を借りるより、よほどインパクトがあったとメルニク氏は振り返る。同氏にとって、コワーキングスペースは普通のオフィスと何ら変わらない。「誰もが自宅に理想的な仕事場を持てるわけではない。気が散るとか、家族の世話をするとか、雑事に追われるとか。仕事に集中するうえで、働く環境は重要だ。家ではできないクリエイティブな仕事などもある」。
リモートワークを専門に扱う求人サイト、グローモートリー(Growmotely)の創業者で最高経営責任者(CEO)のサラ・ホーリー氏も、2014年からずっとリモートで働いている。週に2日は自宅を出て、主にテキサス州オースティンのお気に入りのカフェで仕事をする。ホーリー氏は、今後、コワーキングスペースのように設計されたカフェや、働く場を想定したホテルなど、ハイブリッド型の仕事空間が増えるだろうと見ている。
ホーリー氏はこう説明する。「仕事のしやすい環境は人によって異なるし、場所を変えることで仕事がはかどる人もいる。人によって、あるいは日によって、自宅のような静かで集中できる空間が必要なこともある。カフェのような場所なら、1対1の人間関係を持つことなく、周りの人から活力をもらえるハイブリッドな環境を提供できる」。
万人に適しているわけではない
もちろん、第3のスペースが万人に適しているわけではない。スコットランドのデジタルエージェンシー、レッドエヴォリューション(Red Evolution)でマネジングディレクターを務めるデヴィッド・ロビンソン氏は、同氏自身も、また同氏率いるリモートチームのメンバーたちも、カフェやパブよりコワーキングスペースを好んで利用する。カフェやパブは騒がしくて気が散るし、結局のところ、仕事をする環境ではないと考えるからだ。
ロビンソン氏はこう説明する。「カフェの経営者は事業を運営しているのであって、労働者を預ける託児所ではない。2時間ごとにカプチーノ1杯を注文する程度で、場所と電源を独占してよいと考えるのは常識外れだ」。
「トイレに行って戻ってきたら、君のMacBookはなくなっているかもしれない。Zoomで会議を開いたら、後ろでカップがぶつかり合う音や、大きな声のおしゃべりを、クライアントが不快に思うこともあるだろう」。
[原文:Office alternatives: Remote workers flock to cafes, bars and hotels rather than co-working spaces]
MARYLOU COSTA(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU