世界中でワクチン接種が開始され、ニューヨーク、ロンドンなどの都市は表面上、正常を取り戻し、欧州連合(EU)は外部に対する国境の開放を発表した。しかし、メディア、広告業界ではオフィス出勤についていまだ明確な戦略を立てられずにいる。
世界中でワクチン接種が開始され、ニューヨーク、ロンドンなどの都市は表面上、正常を取り戻し、欧州連合(EU)は外部に対する国境の開放を発表した。
しかし、メディア、広告業界ではオフィス出勤についていまだ明確な戦略を立てられずにいる。マスクの着用方法からワクチン接種の条件まで、長期的な職場出勤再開に関する方針をめぐって未解決の問題がいくつも残っているからだ。
多くがオフィス出勤に対して消極的
米DIGIDAYは4月、メディアとマーケティングの専門家329人を対象に調査を実施。所属はパブリッシャー、エージェンシー、ブランド、プラットフォームなどで、もっとも人数が多かったのはパブリッシャーとエージェンシーだ。全回答者の28%がオフィス出勤について雇用主から何も聞かされていないと述べ、今後6カ月以内にフルタイムでオフィスに出勤したいと答えた人は半数以下だった。
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また、今回の調査では、人々が日常に戻るまでの時間を大きく見誤っていたことも明らかになった。前回1月の調査では、同数の回答者のうち38%が3カ月以内に対面型のミーティングを行うと予想していた。ところが、ちょうど3カ月後にあたる今回の調査では、実際に対面型のミーティングを行った人は20%に満たなかった。さらに、1月の調査では、回答者の20%が3カ月以内に対面型のカンファレンスに参加すると予想していたが、実際に参加した人は4%にとどまった。
「今は働き方を再考するチャンス」
全米のエージェンシーを対象にした別の調査でも、オフィス出勤再開の計画はさまざまで、計画が確定していないケース、計画そのものが存在しないケースもあった。こうした相違には地域のガイドライン、ワクチン接種率、そして何より、従業員の考え方の違いが関係している。
ニューヨークに本社を置き、ネスレ(Nestlé)、AT&Tなどの顧客を持つM&Cサーチ・ワールドワイド(M&C Saatchi Worldwide)傘下のMCDパートナーズ(MCD Partners)は、オフィス出勤再開に関する従業員の気持ちについて定期的に調査を行なっている。その結果、従業員の気持ちは揺れやすいことがわかった。COOとCFOを兼任する同エージェンシーのパートナー、ワシム・チョードゥリー氏によれば、たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が急増すると、従業員は対面で仕事をすることに消極的になるという。MCDパートナーズではオフィス再開の計画はまだ確定していない。
サンフランシスコに本社を置き、コロナ(Corona)、インテル(Intel)などの顧客を持つペレイラ・オデル(Pereira O’Dell)も、オフィス出勤再開の計画が確定していない広告会社のひとつだ。最高クリエイティブ責任者のロブ・ランブレヒツ氏は「オフィス復帰を強制するつもりはない」と話す。むしろ従業員が戻ってきたときのための、未来の職場づくりに注力しているとランブレヒツ氏は強調する。「今は働き方を再考する一世一代のチャンスだ。そのチャンスを生かさない手はない」。
デジタルマーケティングエージェンシーのコード3(Code3)は6月からオフィス出勤再開を段階的に進める予定だ。しかし、CEOのドリュー・クレーマー氏によると、従業員の態度が地域ごとに異なっているという。ニューヨークをはじめ、特に被害が大きい地域の従業員は、当然ながらオフィス出勤への不安が大きい。チポトレ(Chipotle)、LVMHなどのマーケターと仕事をするコード3は全従業員を対象に調査を実施。その結果、従業員はオフィスに戻ることを楽しみにしている一方で、リモートワークの良さも認めており、今後も続けていきたいと思っていることがわかった。今後、対面型の仕事を再開したい従業員は、まず申請を行うことになる。「安全が第一だ」とクレーマー氏は説明する。
「柔軟に対応できる計画を立てた」
ウォンドゥーディー(Wongdoody)はインフォシス(Infosys)傘下の世界的なクリエイティブエージェンシーとしてAmazonやホンダ(Honda)の仕事を手掛けてきた。人事・人材担当マネージャー、ブランディー・フラハティー氏によると、ウォンドゥーディーでは、オフィス出勤の早期再開を目指す予定はない。フルタイムのオフィス出勤の全面再開に関心を持つ従業員は半数に満たないという。ただし、オフィス出勤が全体の50%以下でよく、決定権が自分自身にあれば、オフィスに喜んで戻るという人が半数を超える。「待ち望んでいる人もいれば、抵抗を示している人もいる。しかし、大部分はその中間だ」。
アブソルート(Absolut)、ビタココ(Vita Coco)といったブランドの仕事を手掛けるニューヨーク、ブルックリンのエージェンシー、マッドウェル(Madwell)では、67%の従業員がオフィス出勤再開を強く望んでいる。ただし、その多くがチームメンバー全員がワクチン接種を受けていること、少なくとも週1日はリモートワークできることのふたつを条件としている。
「従業員には当初から、いち早くオフィスに戻る必要はないと話しており、環境が変化しても柔軟に対応できるような計画を立てた」。そう話すのは、レッドブル(Red Bull)、ボーズ(Bose)などのキャンペーンを行ってきたボストンのエージェンシー、GYKアントラー(GYK Antler)のマネージングディレクター、マーク・バティスタ氏。オフィス再開計画の基礎となっているのは、いわゆる「3-2-1ハイブリッド・ワーク・アプローチ。3日はオフィス、2日はリモートワーク、1日はクリエイティブカルチャーという意味だ」。
「適切なバランスを見つけたい」
すでにオフィスの扉を開けたマーケティング会社もある。
クロックス(Crocs)、ソノコ(Sonoco)などの顧客を持つチェイル・ワールドワイド(Cheil Worldwide)傘下マッキニー(McKinney)のCEO、ジョー・マグリオ氏によれば、ロサンゼルスとノースカロライナ州ダーラムのオフィスを5月3日に再開し、ニューヨークも間もなく再開する予定だという。出勤する従業員は全員、ワクチン接種が義務づけられており、夏に猶予期間を設けたあと、9月20日までに「各オフィスに毎日無理なく通勤できる範囲」に全員がいることが期待される。ただし、週5日の出勤は求められていない。
対面での仕事の再開について、「チームの視点を考慮できるよう最善を尽くすつもりだが、正しい答えは誰にもわからないというのが現実だ」と、マグリオ氏は話す。「みんなが歓声を上げるような決断を下すことはできないが、この1年間でうまくいったことは尊重し、うまくいかなかったことは正直に認め、最終的に適切なバランスを見つけたい」。
[原文:‘No-one knows the right answer’: Digiday Research shows return-to-office strategies are in flux]
TONY CASE(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)