次世代のプログラマティック広告は、どんな姿をしているのか? 現在、東京・ミッドタウンで開催されている「アドバタイジングウィーク2017」。そのセッションのひとつ「次世代のプログラマティック広告」では、そんなワクワクするような、だが雲をつかむような議論が繰り広げられた。
次世代のプログラマティック広告は、どんな姿をしているのか?
5月29日から6月1日まで、東京・ミッドタウンで開催されていた「アドバタイジングウィーク2017」。そのセッションのひとつ「次世代のプログラマティック広告」では、そんなワクワクするような、だが雲をつかむような議論が繰り広げられた。
「いま広告主と生活者とのあいだには、ちょっとした摩擦が生じている気がする」と、ニールセン デジタル株式会社のディレクター山田康介氏は、プログラマティック広告の現状について語る。だが、「プログラマティックの技術が進めばきっと、広告も有益な情報源として、生活者側の役に立つ」と述べた。
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また、同セッションでモデレーターを努めた、DSP企業ザ・トレード・デスクのカントリーマネージャー新谷哲也氏は、プログラマティック広告においてAIを活用したオプティマイズのテストを行っているという。「エージェンシーの方でアルゴリズムの効果分析を行い、その結果を我々のプラットフォームに反映させたら、確実に効果が上がった。こうした試みが次世代につながっていくはずだ」。
プログラマティックの定義
ところで、冒頭の問いを突き詰めるには、まず「プログラマティックとは何か?」を考えなくてはいけない。エクスチェンジワイヤー・ジャパンによると、アメリカのDSP企業ロケットフュエル(Rocket Fuel)が「プログラマティックバイイング」を定義付けしたのは、2013年のこと。しかし、その2年後、電通報に掲載された、電通デジタルプラットフォームセンターに所属する、村山亮太氏執筆の記事には、次のような記述がある。
「広告取引における『プログラマティック』の定義が大きく変化している。現在までの『プログラマティック』というと、Rocket Fuel社が過去定義したように、RTBと完全に同義であった」。そのうえで、村山氏は次のように再定義する。「いずれにしても、配信側(DSP)と供給側(SSP)で2つのシステムを使用しながら『自動的・機械的』に広告取引をすることが現在における『プログラマティック』な取引であり、その定義はこれからも『自動化』という言葉の周辺で、徐々に変化していくことだろう」。
つまり、基本的には、広告主側と媒体社側とのあいだで、複数のアドテクノロジーが介在し、いつ・どこで・誰に・どんな形で広告を掲示すべきか、いままで以上に細かく設定できるシステムのことを「プログラマティック広告」という。その一方、需要と供給のあいだで、複数のプラットフォームを「経ない」、検索連動型広告やソーシャルメディア広告、そしてアドネットワークは、「厳密には」プログラマティック広告とはいえない。
普及が進まない日本の現状
その前提で、ザ・トレード・デスクの新谷氏は、いまだ日本のプログラマティック広告は発展途上だと指摘する。電通の「2016年 日本の広告費」によると、運用型広告費は7383億円。すでに日本のインターネット広告媒体費全体の71%を占めている。「しかし、それをさらに細分化して、厳密な意味での『プログラマティック広告費』だけを独自に推計したところ、約600億円程度にしかならない。全体(1兆378億円)の約5.5%だ」。
なぜ、日本においてプログラマティック広告の普及が、思った以上に進んでいないのか? 新谷氏は、メディアプランニングの現場が、プログラマティック広告に対応しきれていない現状を原因のひとつに挙げる。
「日本のメディアプランナーには、従来のアドネットワークを中心に、いわゆる広告メニューを通して、プランニングされる方がまだまだ多い。DSPを中心とした『枠だけでなく人も』という発想が浸透していない部分もある」。
デジタル広告が直面する問題
そのような状況に加えて、メジャメント企業の立場からニールセンの山田氏は、プログラマティック技術の未完成さにも言及した。同社がかつて、APACでターゲット配信された広告を調査したところ、実際のターゲット含有率は22%しかなかったという。つまり、残りの約80%は、ノンターゲットに露出されていたのだ。
「(プログラマティック広告で利用する)アルゴリズムというのは、配信プログラムだけでなく、広告会社やブランド、それぞれが独自にもっており、すべて異なる。また、(プログラマティック広告を通じて)複数のメディアやアドネットワークに配信した場合、それぞれのシステムも異なる。だから、最終的に広告キャンペーン全体で、重複を取り除いた形で、実際に何人に到達できたか計測する必要がある」。
それに関連する、ビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセーフティなど、運用型広告全般に関わる問題は、昨年末のフェイクニュース/コピペメディア騒動以降、いままで以上に注目が集まったかに思われた。しかし、実際の現場では、いまだそれほど求められていない現状もあると、新谷氏は述べる。
「我々の方では、それらすべてを改善できるソリューションをすでにもっている。だが、国内の広告主やエージェンシーからは、あまり切実な声は聞こえてこない。とはいえ、一部ニーズは顕在しており、その施策で得られたデータを活用すれば、確実に次世代につながるものが見えてくる」。
デジタル化は止まらない
いつ・どこで・誰に・どんな形で広告を掲示すべきかという課題は、出稿面となるメディア側にも、大きな転換を迫っている。より実態が把握できる、価値の高いオーディエンスを集めるために、テーマを明確に絞ったバーティカル戦略を推進するメディアが増えているのだ。アバウトドットコム(About.com)を前身とするドットダッシュ(Dotdash)やハフィントン・ポストなどが、その好例だろう。
また、インフラの発達とともに急速に拡大したデジタル動画や、台頭しはじめている音声プラットフォームに向けたオーディオコンテンツなど、プログラマティックに対応する新たな出稿面も増えている。ここまで来たら、テレビやラジオ、屋外広告、交通広告など、旧来のメディアもこちらの世界に参入してくるのは、時間の問題だろう。
「全体的にデジタルシフトが進むと、広告はプログラマティック化していく。これは業界にとって、生活者との向き合い方を考え直す機会だ」と、ニールセンの山田氏は締めくくる。「最終的には、ブランド、広告会社、メディアが三位一体になって、どのように新しいコミュニケーションをとっていくのかを考えるべきなのだろう」。
なお、当日のセッションの模様は、「アドバタイジングウィーク2017」の公式サイトで動画を閲覧できる。興味のある方は、ぜひお目通しいただきたい。
※DIGIDAY[日本版]は、「アドバタイジングウィーク2017」のメディアパートナーとなっています。
Written by 長田真
Image by GettyImage