「 WPP は『理解不能』な存在になっている」:マーク・リード新CEO

WPPの新CEOであるマーク・リード氏が、苦境に追い込まれた同広告代理店グループにかかるプレッシャーを緩和するための計画を明らかにした。WPPは今後、自社に再投資するのではなく、コンサルティング色やクリエイティブ色の強い、高マージンのサービスをクライアントに提供する方向へと舵を切っていくようだ。

9月4日に発表された中間決算に対する回答のなかで、同氏は自身が思い描く計画のあらましを述べた。そのなかで、広告主はいまもエージェンシーを必要としているが、現在のサービスには「不満を抱いている」と、リード氏は語る。

その要点を以下に紹介しよう。

メディアマージンの低下を踏まえて、規模の経済をつくり出す

WPPは傘下に企業を抱えすぎているとリード氏は述べた。一部の例では、5つものエージェンシーと打ち合わせを行っているクライアントもおり、こうしたケースでは、WPPの幹部たちが会議室で「自分たちに向かって話しかけている」ような状態だという。クライアントがエージェンシーの仕事の一部は自分たちでもできると思うようになっているいま、こうした寸断されたサービスに料金を払い続けるつもりは彼らにはない。このプレッシャーに対するリード氏の回答は、WPP内で知名度の低いエージェンシーを一部切り捨て、残ったものを同じ場所に再配置することだ。こうすることで、管理やバックオフィスにかかるコストを削減でき、ひいてはそれが株主を喜ばせることにもつながる。またその一方で、各エージェンシーブランドのポジショニングを不明瞭にすることなく、エージェンシー間のコラボを助長することもできる。

「WPPは400社に及ぶ独立した企業を管理するつもりはない。400もの独立したブランドをなぜ抱えなければならないのか、私にはその理由がわからない」と、リード氏は語る。「クライアントとの意見の衝突に対処できるだけの数のブランドは必要だ。だが、ビジネスを理解不能なものにしてしまうほどの数は不要だ」。

データ、アドテクに関しては、コンサルタント業務で稼ぐ

テクノロジーやデータに関しては、WPPはリード氏の指揮のもとで、ある種の方向転換をはかるアプローチをとっていくつもりだ。同グループは今後、データを所有するのではなく、さまざまな企業とビジネス関係を結んで、データを効果的に借用するようだ。こうすればコストはさほどかからないし、やがてはそれがWPPに資金力をもたらしてくれるかもしれない。

「GoogleやFacebook、アリババ(阿里巴巴)らがいる世界に対して現実的になれば、クライアントが我々のところに来て求める世界中のデータを、我々も有意で不相応な量、所有できると考えるのは非現実的だ」と、リード氏は述べた。

同氏は、アドテクの所有に向けたWPPの以前の取り組みに対しても同様の見解を示した(この取り組みは、デマンドサイドプラットフォーム「アップネクサス[AppNexus])への出資と並行して、同社のトレーディングデスク「ザクシス[Xaxis]」を先頭に据えて行われてきた)。たとえば、メディアコム(MediaCom)はすでに、広告主が投資を管理しやすくするためのテクノロジーをFacebookやGoogle、Amazonのアドテクのうえに構築しつつある。

「基盤となるアドテクの開発で、我々がGoogleなどの企業と競合できるとは思っていない」とリード氏はいう。「我々の目標は、こうした技術の統合でトップに立つことだ」。

この発言は、マーケティングセクターにおける、データの所有からその使用に関するコンサルティングへの変化を反映している。

「マーコムは一種のサービス産業だ。データをめぐるダイナミクスは急激に変化している。とりわけ顕著なのが、一般データ保護規則(GDPR)による影響だ」と語るのは、M&Aを専門とするコンサルタント会社、SIパートナーズ(SI Partners)のパートナーであるトリスタン・ライス氏。「アセットを維持・活用するよりも、付加価値のあるサービスに重点を置くほうが理にかなっている。アセットの維持・活用に関しては、テック系の大企業の方がはるかに有利なポジションにいる」。

広告主がマーケティングの内製化を進めるには、エージェンシーが必要

リード氏は、エージェントに頼んでいた仕事を大手ブランドが自社でやろうとしている状況を、脅威ではなく、好機ととらえている。メディアと取引したり、広告を社内で制作することが、いかに高くつくか理解すれば、これらブランドはエージェンシーのもとに戻ってくると、リード氏は述べた。クライアントへの低マージンの運用サービスをさらに取り除く一方で、値上げ可能な、より戦略的で高額なサービスを保持できれば、それはWPPの利益になる。たとえば米食品大手のマース(Mars)は、15億ドル(約1680億円)規模のメディアアカウントの運営をメディアコムにまかせている。理由のひとつは、同社が所有しえない、Amazonに関する専門知識をWPPが持っているからだ。WPPは現在、シアトルで専門部門の創設に取りかかっている。そこでは200人が働き、市場でのメディア予算の使い方や、コンテンツのつくり方、ショップをデザインする方法、サプライチェーンを理解する方法などについてのアドバイスをクライアントに与えることになっている。

「クライアントが人を雇って起業することはいつでもできるが、彼らがその人物にキャリアパスやキャリアアップを与えられるかどうかは別問題だ」と、リード氏は語る。「我々がGoogleやFacebookを相手に才能ある人材の獲得で苦労していると思うのなら、彼らに対する魅力でWPPに劣る別種のビジネスを自分が営んでいるところを想像してもらいたい」。

クリエイティブエージェンシーの弱点を補強する

WPPはより強力なクリエイティブエージェンシーを持つ必要があるとリード氏は述べた。従来型広告からデジタルへの支出の移行はクリエイティブエージェンシーが業績を上げるのを妨げてきたが、その一方で、ワンダーマン(Wunderman)のような拡大を続けるエージェンシーは、そのうえに繁栄を築いてきたことを同氏は指摘した。WPP傘下のクリエイティブエージェンシーはプレッシャーにさらされているとリード氏はいう。

WPP最大のクライアントである米自動車大手のフォード(Ford)は、同グループが行うクリエイティブ業務の見直しを行っており、グレイ(Grey)やジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)、オグルヴィー(Ogilvy)、ヤング・アンド・ルビカム(Y&R)などからなるWPPのクリエイティブネットワークに、かつてのような支配力はないという。

「WPPはおそらく、サブの持株会社を設立するだろう。それにともない、一部のクリエイティブエージェンシーは売却されるはずだ。その持株会社はメディアエージェンシーにとってのグループ・エム(GroupM)のような存在で、その目的は、各クリエイティブエージェンシーが質の高い創造力の注入をネットワークを介して実現し、ネットワーク間のコラボを強化することだ」と、成長戦略を専門とするコンサルタント会社エンデバー(Endeavour)のマネージングパートナーであるアンディ・マー氏は語る。

リード氏もそのような変化をほのめかした。

「クリエイティブエージェンシー2社、あるいはメディアエージェンシー2社を合併することが理にかなっているかどうかはわからない」と、同氏は語る。「我々の事業がその規模を拡大できるように、成長の構造について考えていきたい。それが意味するのは、さまざまな手法で能力を統合し、クライアントが同一ブランド内であらゆる種類のサービスを利用できるようにすることかもしれない」。

Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)
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