エージェンシーに蔓延する「職場いじめ」:「図太い神経を持たないといけない」

1月初頭、とある広告エージェンシーのアカウントディレクターのひとりは、同エージェンシーのふたりのシニアレベルの社員と一緒に会議室で座っていた。彼女たちとスピーカーフォンを通して会話をしていたのは、彼女たちのクライアントである、フォーチュン500に含まれるブランド企業のブランドマネージャーだ。このクライアントはスピーカーを通して彼女に罵詈雑言を叫んだ。表面上はひとつの問題に関して、クライアントが怒っているという事態だったが、この問題はエージェンシーの責任ではなかった。しかし、彼女によると、クライアントの口調はすぐに問題に対する不満を述べるというよりも、「100%いじめだと証明できる」レベルへと移ったという。

その後、彼女はエージェンシーの人事部に向かった。クライアントが彼女に罵詈雑言を怒鳴りつけるという事態は、これまでも何度も起きており、それがまた起きたと伝えた。だが、人事部は何もしなかった。シニアエグゼクティブたちは、彼女にただ「我慢して受け入れろ」というだけだった。

エージェンシー内でシニアレベルやジュニアレベルの役職の従業員たちを対象にインタビューを行うと、いじめ・口頭でのハラスメントといったパターンが浮かび上がってくる。エージェンシーには「拒否される/否定される」ことが常であるという文化があるため、それがいじめ文化につながっていると指摘する人もいる。サービス業界では力関係の不均衡や、そこで「図太い神経を持つ必要がある」ことは自然だというわけだ。

77%は言葉によるもの

米DIGIDAYの調査もこの現象を証明している。446人のエージェンシー勤務の人々を対象に行われたDIGIDAYリサーチによると、ハラスメントや差別はエージェンシーにおける問題として依然残っていることが分かる。1月に行われたこの調査では女性のうち49%が職場におけるハラスメントの被害にあったと申告している。男女ともに職場のハラスメント被害にあったと答えた回答者のうち、77%は言葉によるハラスメントを体験していた。

ハラスメントを体験した男性の82%が、女性の74%が言葉によるものだと回答している。

具体的な発言内容はあらゆる物が並んでいる。大声で怒鳴りつけられる、罵倒される、という体験をした人物は、この上司はただ自分自身がタフであるということを上の役職たちに見せたかったから自分を罵倒する相手として使ったと感じたという。「言葉によるいじめ、ハラスメントがエージェンシーに存在していることは疑いようがない。彼女(上司)とそのさらに上司のあいだに何らかの関係性があり、その結果、上司は虐める側である(=タフである)と見られたがったのだろう。自分を証明しようとしてやり過ぎた結果だ」と、この人物は説明する。

また、別の人物は、社内で特定の人物から罵倒のターゲットにされるといういじめを受けたという。「この人は私のことを『お前はぐうたらなロクでなしだ』と呼び続けた」と、彼は証言する。また、この人物は、彼だけをターゲットにひたすら狙っているという空気があったという。ミーティングでは彼を見下した口調で話し、彼に関するゴシップを社内に広める、といった具合だ。「彼が私のことを気に入らなかった、という以外に理由はなかったように思う」と、彼は言う。さらには、この被害者が、職場の誰かと不倫をしているというウワサが広まるにまで至った。このいじめは、問題の人物が昇進し、別のオフィスの運営へと移行したことで終わった。

人事管理協会の調査

人事管理協会(Society of Human Resource Management)の研究によると、2018年は会社・組織の51%がいじめを報告したという。そのうち62%がゴシップや嘘の拡散、50%が脅しであった。2010年に職場におけるいじめ研究所(Workplace Bullying Institute)が行った調査では、アメリカの従業員のうち35%は、いじめを体験もしくは目撃したことがあると答えている。この調査では、男性は男性をいじめ、女性は女性をいじめるという傾向が、明らかになっている。

職場におけるいじめと言葉によるハラスメントは関連性はあるが、少し違った物である。いじめは違法ではない。これは人々をいじめから守る法律がないことによる。人種や性別に基づいているなど、何らかの差別に基づいていない限りは、いじめにあっている被害者は保護されるべき対象と見なされていない。いじめの内容が人種、性別、性的指向、もしくは他の理由によってターゲットとなるハラスメントへと発展した場合は別だ。

「健全な職場」を作り、いじめに対抗する法的な保護を作るための法案を作ろうとしている州もいくつか存在している。しかし、法律として施行されているところはまだない。

「問題は何がいじめとして見なされるかすら分かっていないことだと思う」と、長年エージェンシーに務めるスタッフのひとりは語る。「誰かが口汚い言葉を使ったら、ということ? 自分の仕事に対してフェアでない批判をしたら、ということ? 私がフィードバックをしたから若い従業員が泣いてしまったことがある。これはいじめになるのか?」。

「上層部はサメの水槽」

この人物自身も、同僚のひとりから無視をされていると感じた状況があったという。文字通り何も会話を交わしてくれない状態だ。この人物と彼女のあいだには役職上の力という点で差があり、脅かされているように感じたため、これはいじめのように感じられたとのことだ。

ほかにも、同僚たちが頻繁に自分抜きでランチに行くことがあったと語るエージェンシーのスタッフがいた。振り返って考えてみると、あれはいじめだったのだろうかと彼は考える。「何か言うべきだったのだろうか? そういう物だと思っていた。もしかしたら、いまの若い人々は繊細なのかもしれない」。

「広告業界で成功するためには図太い神経を持たないといけない、という自分の理論がある。大量の拒否を経験して、図太い神経を持った人物だけがトップに上り詰められるという考えだ。以前であれば、性的な性質を持っていたけれど、いまはこれだ」と、最初にクライアントに怒鳴られた例を語ってくれたエージェンシー社員は言う。

いくつかの点では、これは世代的なものだ。エージェンシー文化、特にクリエイティブ部門はアイデアを出して拒否される、それが良い意味で繰り返されることで繁栄している。しかし、従業員が語るところでは、理由もなく「愛のムチ」を使っていると感じられる場面もあるようだ。この方法で鍛えられてきた人々はいま、シニアレベルの役職についている。「上層部ではサメが泳ぐ水槽のような状況だ。いまの世代は繊細になっているだけかもしれないが、それが現状だ」。

4Aの職場プログラム

4Aでは、この状況を助けようとする試みが行われている。昨年導入された職場プログラムを通じて、エージェンシーたちがセクシャルハラスメントだけでなく職場におけるいじめ問題に対処する手助けをしようとしている。いじめを認識し、止めるために必要な知識をエグゼクティブたちに提供する。4Aでこのプログラムを率いているサイモン・フェンウィック氏は、ハラスメントは違法である(が、いじめはそうではない)ので、いじめ問題の方がトレーニングを行うのは難しいという。

「いじめる側はときに、紙の上で見る成績が良いことが多い。彼らのスキルや周囲が認知する人間関係スキルがビジネスに成功をもたらすのだ。彼らのクライアントに対するスキルは素晴らしい、それでも彼らは、いじめをしているのだ」と、フェンウィック氏は言う。上司や人事部たちにトレーニングを施すことで、仕事における成功とはただ収益に関するものではなく、職場の文化に与える影響という点にも関係すると気付かせることが鍵だ。たとえば、彼らの収益上の成績が良かったとしても、彼らのいじめが原因でスタッフが離職しているかもしれない。「スキルを持っていてもいじめを行っている場合、彼らの勤務態度が悪いという理由でパフォーマンスが低いと業界が認識する必要がある」と、フェンウィック氏は言う。

フェンウィック氏個人の観察では、改善が見られつつあるとのことだ。特にそれはクライアントと接する場面で見られるという。クライアント側の評判が悪い場合にエージェンシーがビジネス提案に参加しない、といった具合だ。「劣悪なクライアントが収益に与える影響は人々が思っているよりも深い。職場におけるハラスメントの会話は盛り上がっているが、いじめも鬱や嫌悪、さらにもっと酷い状況に結びついてきている。ひとつの性別に基づいたハラスメントと同程度の収益に対するダメージをもたらすこともあり得る」。

クライアントによるいじめ

5番目に紹介するエージェンシーのスタッフの体験では、いじめを行ってくるのは常にクライアント側であって上司や同僚ではなかったという。「大きな悪夢だ。彼らはいつも上の立場の力を握ろうとしている。我々が人間以下であるかのように扱うのだ」と、彼は言う。飛行機でミーティングに来るように言ってきたかと思うと、キャンセルしたり、午前4時に『問題』が生じていると言って電話をかけてきたり、といった具合だ。

「私たちの誰も文句は言えない。彼らはエージェンシーが抱える最大のクライアントだし、彼らもそれを知っている」と、彼は言う。「それをわざわざ突きつけてきたこともある。彼らというクライアントを失えば、会社は沈んでしまうことを」。

ビジネスがクライアントに頼る形になり、エージェンシーの評価や解約が頻繁に行われる状況ではクライアント側がいじめてくる、という現象は珍しくないようだ。「こういったクライアントを我慢することも仕事の一部だ」と、このスタッフは言った。

いじめにエージェンシーが対処するのは難しいと考えられている。それを発見し、特定するのが難しいからだ。本稿の取材に応じてくれたスタッフたちの場合、彼らが上司や人事部に相談したときにいじめであることを認めてはもらえたが、我慢して切り抜けるように助言されたようだ。「これが新しい『普通』となっている」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)