この4カ月のあいだに、雇用主も従業員も、単にリモートなだけではないよりフレキシブルな新しい働き方に自身を順応させてきた。こうした新しいワークフローと職場の変化の一部は、エージェンシー幹部もスタッフも、このパンデミックが収束したあとも、ずっと続いていくと考えているようだ。
この4カ月のあいだに、雇用主も従業員も、単にリモートなだけではない、よりフレキシブルな新しい働き方に自身を順応させてきた。
もちろんそれは、いまなお続く新型コロナウイルスのパンデミックによってもたらされたものだ。だが、エージェンシー幹部もスタッフも、新しいワークフローと職場の変化の一部は、このパンデミックが収束したあとも、ずっと続いていくと考えているようだ。
オフィス外で達成できることについての古い考えが、誤りであったことが証明されたからだ。
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1. リモートワークと共有スペースの併用が標準に
数カ月前からリモートワークが導入されるようになったが、出社して対面を伴う従来の勤務形態と比肩するレベルの生産性が維持されている。スタッフをオフィス以外の場所で働かせることに関して、これまで抱いてきた自身の考えが変わりつつあると、エージェンシー幹部たちは話す。
このことは、デトロイト(Detroit)を拠点とするアドエージェンシー、ドナー(Doner)のCEOであるデビッド・ディムース氏にも当てはまる。この4カ月のあいだに、リモートワークについてのある種の「悟り」を得るようになったと、同氏は話す。パンデミック以前のディムース氏は、スタッフ(とくにシニアクラスの従業員)はオフィスで働くのが当然であると考えていた。ところがこの4カ月で、スタッフがどこにいようとも彼らとの協働は可能であることが証明された。「スタッフに異動を命じることはもうないかもしれない」と、ディムース氏は語る。「いまの私は、さまざまな可能性を受け入れられるようになった」。
コロナ危機が収束した際には、リモートワークの日もあれば、オフィス勤務の日もあるというハイブリッドモデルが、今後は一般的になっていくのではないかと、エージェンシー幹部たちは考えている。このモデルがいずれ、複数のエージェンシーによって共有されるワークスペースへと発展する可能性もある。
「クライアントはもはや、全員分の諸経費を払いたがらなくなっている。いまこそ、共通のリソースにアクセスできるワークスペースを共有するときだ」と、キャビアット(Caveat)の共同創業者で、マネージングディレクターのジョシュ・グリーンバーグ氏は語る。「クリエイティブのプロやクリエイティブサービス企業はみな、同じツールやベンダーリソースをチーム内で共有する必要がある」ため、共有ワークスペースはプラスの効果をもたらし得るという。
2. 多様な人材へのフォーカス
従業員がオフィスの近くに住み、毎日出勤する必要がなくなれば、オフィスの近辺から人材を発掘しなければならないという地理的制約から解放されると、エージェンシー幹部たちは話す。そうなれば、企業はタレントプールの枠を広げ、エリア外から人材を雇い入れることもできるようになる。一部のエージェンシーにとっては、これが可能になることによって、従業員の多様化が促されるかもしれない。
「大都市や、一般的なビジネスエリア以外から人材を雇い入れられるようになる」と、ザ ・カルチャー・LP(The Culture LP)の創業者で、フリーランスのクリエイティブストラテジストでもあるマイケル・トンジ氏は語る。「これにより、さまざまな人材が周囲のネットワークを越えた先に行けるようになる。これが思考の多様化にも繋がるはずだ」。
エージェンシー各社はここ最近、多様性の欠如という課題(とりわけ顕著なのが、中間管理職や管理職)に取り組んでおり、この問題の解決法を模索している。単に多様性に富んだ人材を雇うだけでは不十分であると、トンジ氏は話す。「人材における真のダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)をあらゆるレベルで実現する」ために解決しなければならない組織的な問題が、エージェンシー内にはびこっているからだという。
その一方で、セイリエントMG(SalientMG)の創業者でCEOのマック・マッケルビー氏によれば、今後は「多様性に富んだチーム編成、教育、認識と包括的な管理へのフォーカスが標準になる」と、エージェンシー幹部たちは考えているようだ。
3. 福利厚生に関する変化
パンデミックの前からホームオフィスを構えていた従業員たちは、リモートワークへと移行する準備が整っていた。だがそれを持たない者たちは、在宅勤務を耐えられるものにするためには何が必要なのか、それを理解する必要に迫られている。おそらく今後、福利厚生の一部(事務用品や携帯電話などにかかる費用の支給)に、変更を加える企業も出てくるのではと、エージェンシー幹部たちは話す。こうした変更も、新しい働き方の一角を占めるべきだという。
「企業は今後、福利厚生を見直す必要に迫られるだろう」と、マッケルビー氏は語る。「我が社はこれまでずっと、スタッフが使用する個人用携帯電話や自宅用Wi-Fiの料金を支払ってきた。だがこれからの企業は、このインオフィスとリモートの新たなハイブリッドにかかるコスト(育児やホームオフィスなどの費用)を相殺できる独創的な方法を見つけなければならない」。
4. ワークライフバランスへのさらなるフォーカス
従業員が自宅で働くようになったいま、仕事と生活の境界線が崩れてきた。この勤務形態になって数カ月が経過したが、この境界線が消えてしまったせいで従業員たちの燃え尽き症候群を防ぐためにも、仕事と生活の分け方を建て直す、作り直す必要があることに気付くようになったと、エージェンシーのトップや幹部たちは話す。
「何らかの制限を設けることが、これまで以上に重要になってくるはずだ。仕事が私生活の領域にまで入り込み、やがて憤りを生むことになる(そして最終的に、これが従業員の燃え尽き症候群に繋がる)のを防ぐためにも」と、ペレイラ・オデル(Pereira O’Dell)のクリエイティブチェアマンで、共同創業者のPJ・ペレイラ氏は語る。
「プロフェッショナル」と「パーソナル」のあいだにあるラインが物理的に曖昧になると、労働時間枠の柔軟性が増し、こうした問題の原因になると、一部の人々は考えている。
「仕事のスケジュールや各自の勤務可能日は、これまでのように月~金曜日/9~17時(エージェンシーの場合は9~21時)が一般的ではなくなるだろう。それぞれの状況に応じて、制約を受ける場合もあれば、融通が利く場合もあるだろう」と、ブランデッドコンテンツショップのレベレーション(Revelation)でアメリカ担当マネージングディレクターを務めるマット・ワースト氏は語る。「これから成功するのは、こうした違いを認識し、受け入れ、称賛し、改良し、それを基盤とする企業だ」。
5. 柔軟性の向上
何年ものあいだ、エージェンシー幹部やマーケターたちは「アジャイル(機敏な)」と「ニンブル(軽快な)」をバズワードとして用い、自分が流行に敏感で、ほかとは違う人物であることをアピールしてきた。チームには「アジャイル」と「ニンブル」の両方が必要であることは、ここ数カ月で明らかになってきた。予期せぬ事態に合わせて素早くコースを変えること。それができるかどうかが、コロナ危機収束後も、エージェンシーの運命を左右する一因になるだろう。
「2020年の流行語は『ピボット(方針転換)』になるような気がする」と、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのRQでシニアアカウントディレクターを務めるケイティ・ウェルハウゼン氏は語る。「これまでずっと、エージェンシーやブランドは、キャンペーンを文化の変化に適合させる方法を熟考する必要に迫られてきた。だが、この4カ月のあいだに、なかには予測できないこともあるのが明らかになってきた」と、同氏は語る。「この4カ月で、エゴやプライドを脇に置き、もはや潮流には合わない考えは捨てることを学んだ。私にとっては、それが最大の収穫だ」。
[原文:‘My mind is opened to different possibilities now’: 5 ways agency work will change going forward]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:ガリレオ、編集:Kan Murakami)
Illustration by IVY LIU