2020年は、いつもなら隠されている問題が浮き彫りにされた年だった。その問題とは、「CEO(最高経営責任者)の燃え尽き症候群」である。そうした企業の一部は共同CEOモデルを採用することで、CEOひとりが身を粉にして働くリスクを回避しつつ、業績回復にもテコ入れをするというアプローチを取るようになってきた。
2020年は、いつもなら隠されている問題が浮き彫りにされた年だった。その問題とは、「CEO(最高経営責任者)の燃え尽き症候群」である。
コロナ禍で事業を継続させながら、在宅勤務者の新たなニーズにも応えなければならなくなったことで、企業の経営幹部陣は負担を強いられている。オラクル(Oracle)の調査によれば、幹部の53%が2020年中にメンタルヘルスに問題を抱えていたことを認めている。
なかには、自身が受けた精神的なプレッシャーについて率直に話す幹部もいる。たとえば英国の建築系スタートアップであるレジ(Resi)のアレックス・デプレッジ氏や、カナダのケアセンター、オテル=デュー・グレイス・ヘルスケア(Hôtel-Dieu Grace Healthcare)のジャニス・カッファー氏、米国のフィンテック企業アーンアップ(EarnUp)のマシュー・クーパー氏といったCEOが、自身が直面した心の問題について赤裸々に語っている。
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共同CEOモデルを採用した企業
過去に類のない過酷な経済環境のなか、企業は業績の回復と成長に鋭く焦点を当てているが、現状の体制のままでいいのかと自問するケースも増えている。そうした企業の一部は共同CEOモデルを採用することで、CEOひとりが身を粉にして働くリスクを回避しつつ、業績回復にもテコ入れをするというアプローチを取るようになってきた。
たとえば過去3カ月間だけでも、英国のメディア企業ジャングルクリエイションズ(Jungle Creations)、欧州のベンチャーキャピタル企業オクトパスベンチャーズ(Octopus Ventures)、ジョブシェアリングプラットフォームのロールシェア(Roleshare)らが共同CEOモデルを導入しているが、彼らが狙うのは同モデルがもたらす指数的な成長の伸びだ。
各社の共同CEOはいずれも、CEOとしての主だった責任を従来通り担いつつ、今後はひとりのCEOの限界やスキル、精神的余裕を超えた働きを見せられるだろうと考えている。
「パートナーシップで励まし会える」
オクトパスベンチャーズのスポークスパーソンは米Digidayのインタビューに対し、次のように語った。「当社は2020年中に著しい成長を遂げた。欧州ではテクノロジー分野への投資が黄金期を迎えており、これを利用して、今後も成長傾向を持続したい。将来的な成長のための基盤は築けたので、これからも効果的に事業を拡大していけると考えている」。
ロールシェアの共同CEOを務めるソフィー・スモールウッド氏とデイヴ・スモールウッド氏も同様の姿勢を見せている。夫婦でもあるふたりはFacebookとペイパル(PayPal)をそれぞれ退社後、ジョブチェア・マッチングサイトのロールシェアを共に立ち上げた。
ジャングルクリエイションズとロールシェアの共同CEOはいずれも、CEO同士がオープンな関係を築くことで、CEOならではの精神的負担の一部を軽減できると考えている。ジャングルクリエイションズでは、ポールターCEOは「新しいアイデアのストレステストを一緒にできる相手がいれば一層大きな成功を収められる」と指摘し、チャップマンCEOは「共同CEOモデルの方がより効果的かつ実践的なリーダーシップモデルだ」と持論を述べた。
共同CEOのあいだでは、互いの弱さもさらけ出すような極めて親密な関係性が生まれる、それはもっとも近い立場にある、ほかの経営幹部とも共有できない関係だ、と分析するのはスモールウッド夫妻だ。
夫妻はそこに婚姻関係の有無は影響しないと述べ、次のように語った。 「CEOは孤独な仕事だ。大勢の人にあれこれ要求され、本心を打ち明けられる相手はほとんどいない。CEOだからといって常に楽観的かつ前向きでいられるわけではない。CEOがひとりなら、独力で対処しなければならない。だがパートナーシップがあれば、励まし合うことができる」。
単独CEOモデルに戻った企業
とはいえ、共同CEOモデルは万能のソリューションというわけではない。ソフトウェア企業のSAPは2020年にわずか半年で共同CEO体制を廃止。「単独CEOモデル」の方が、コロナ禍でのビジネス課題に「より明快なリーダーシップ体制を提供できる」との声明を出している。タイヤメーカーのピレリ(Pirelli)で共同CEOを務めたアンゲロス・パパディミトリウ氏も、両者合意の決定として、CEO就任から半年後の1月に退任している。
メディア業界では、フェスティバル・オブ・メディア(Festival of Media)の創業者で、現在はコンサルタントとして活躍するチャーリー・クロウ氏が、エージェンシーのイニシアチブ(Initiative)を例に上げた。同社は2000年代初頭、アレック・ガースター氏とマリー=ジョシー・フォリシエ氏が共同CEOを務めたが、その後、地理的に2社に分割された。クロウ氏は、イニシアチブにおける共同CEO体制はかえって結束力の欠如を招き、才能ある女性CEOが自身の能力を100%発揮できないままに終わったと指摘する。
メディア&マーケティング業界のヘッドハンティング企業360xecのスティーブ・ハイドCEOによれば、ひとりのリーダーでうまくやっていける企業のほうが、従業員も顧客もついてきてくれるという。
ハイド氏は、企業が共同CEOモデルを検討するに至る理由、つまり、役員会議での「思考の多様性の欠如」という大きな問題点に向き合うことが大切だと指摘する。要するに、CFOやCIO、CTOのように左脳を使って分析的かつ論理的に思考するリーダーと、CMOのように右脳を使って未来を見据えながら創造的に思考するリーダーの不釣り合いの問題だ。
「この問題については、深く掘り下げようとせず、間に合わせの対処をしがちだ。しかし深く掘り下げて考えさえすれば、CEOはふたりもいらないという判断になる」とハイド氏は述べた。
「実行可能な選択肢のひとつ」
だがジャングルクリエイションズのポールター氏は、事業の複雑性や成長のことを考えれば共同CEOモデルが妥当だという信念を曲げず、以下のように語った。「コロナ禍で人びとも企業も変化を受け入れやすくなっている。当社のように共同CEOモデルを敷く企業を見て、ほかの企業も実行可能な選択肢のひとつと捉えているはずだ」。
[原文:More businesses are trying co-CEO leadership models to help offset exec burnout]
MARYLOU COSTA(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU