ブランドが社内人材の活用を開始し、広告代理店を遠ざけるなか、マイティハイブは一部のブランドにとって、着実に利用したいエージェンシーに成長している。同社は、「ブランドやエージェンシーがデジタルの未来を掌握する」手助けを行うことを仕事にしてきたのだ。
「我々の仕事によって、最終的に我々自身の仕事がなくなる」。社内エージェンシーの動きが引き続き勢いづくなか、マイティハイブ(MightyHive)CEOであるピート・キム氏は、現在のブランドとエージェンシー間の勢力争いにおける同社の役割をこのように表現した。
ブランドが社内人材の活用を開始し、広告代理店を遠ざけるなか、マイティハイブはバイエル(Bayer)、スプリント(Sprint)、ネイションワイド(Nationwide)などのブランドにとって、着実に利用したいエージェンシーに成長している。同社は、「ブランドやエージェンシーがデジタルの未来を掌握する」手助けを行うことを仕事にしてきた。実際には、大手ブランドに必要な専門知識と研修を提供し、最終的にデジタルメディアのバイイングとプランニングを自社内で完結できるように促している。マイティハイブは、プログラマティックディスプレイ、動画、音声、ソーシャル、検索、そして将来的にはコネクテッドTVにわたって、戦略とそれをバックアップする研修で、クライアントを育成するコーチとして機能している。
マイティハイブは、現在のエコシステムの隙間を埋めている。社内エージェシーを構築する道のりは必ずしも平坦ではない。ほとんどの場合、それはひとつのスペクトルだ。ブランドは通常プロセスの小さな部分から手はじめに内製化を行う。その後、それが通常は検索またはオークションに基づいた、メディアバイイングの一部にまで及ぶ。そこから、さらに人を雇い、さらに多くの人材を開発することによって成長を続けることができる。なかには、ボーダフォン(Vodafone)のように、社内の決め事を破棄し、エージェンシーの元へ戻っていくブランドもある。というのも、適切な人材を得るのが難しいか、そうでなければこうした人材を作り出すことが困難なためだ。「内製化は、直線的だ」と、ブランドコンサルタントR3の代表グレッグ・パール氏は述べ、さらに多くの彼のクライアントたちが社内エージェンシーで働くようになっているのを目の当たりにし、彼らがその実現を後押しする必要があるという。
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内製化を促すエージェンシー
ANA(全米広告主協会)の最近の調査によると、エージェンシー機能について何らかの社内構造を構築しているブランドの割合が、2013年の58%に対して、78%になっていることが明らかになった。
マイティハイブのキム氏によると、その能力を外部へ送り出すことで、同社はすでに多くのビジネスを獲得している。そのなかには、デジタルメディアバイイングとプランニングのすべてを内製化する取り組みを行っているバイエル、スプリント、ネイションワイドなどの10数社の大手企業、他にもその一部を内製化しようとしている企業が約30社がある。元WPPのCEO、マーティン・ソレル氏の新しい会社、S4キャピタル(S4 Capital)がマイティハイブの買収に関心を持っているとの報告もあった。
「企業を自己完結型へと導いてくれる実績があるので、マイティハイブと一緒に仕事をしたかった」と製薬会社バイエルのデジタル戦略とプラットフォームのバイスプレジデント、ジョッシュ・パラウ氏は語った。同社は、マイティハイブを利用してすべてのデジタルメディアを内製化する計画を発表したばかりだ。
6カ月から2年のあいだで
メディアを内製化するということになると、企業には柔軟性が必要となるので、クライアントと連携する方法はひとつに限らないと、キム氏はいう。契約はケースバイケースで結ばれており、提供するサービスは戦略コンサルティングからメディアバイイングの実行、研修までとさまざまだ。マイティハイブには、内製化に必要な人材を見つけることに苦労している企業向けに秩序立った研修を提供する、マイティスクール(MightySchool)というものを設けている。マイティスクールは、6週間のビッダブルメディアバイイング研修プログラムではじまり、研修生たちは従業員たちをそっくりそのまま真似をし、開始する準備が整うまで、新しいツールや用語を学ぶ。
キム氏は、ほとんどの提携は6カ月から2年のあいだで終わるというが、外部委託に戻ることを考える企業はない。「内製化が完了しても、コンサルティングを求めてクライアントは我々のもとに返ってくるだろう。内製化で孤立してしまうことをクライアントが心配していることを聞いている。我々と一緒なら、我々は彼らのビジネスを知っているので、変化のペースは加速する一方だ」と、彼は述べた。
バイエルは、デジタルメディアバイイングを実行し、入社した従業員への研修を行うために1年間マイティハイブと仕事をすることを選択している。その後、内製化の2年計画に関して、社内で実行を進めていく。一方のスプリントは、内製化全体でマイティハイブと協業しており、すべてが完了したあとも、同社に相談をもちかける計画だ。
「アドテクの中心地の出身」
キム氏は、現在のCOOクリストファー・マーティン氏と共同で2012年にマイティハイブを設立した。その元来の目的はファーストパーティデータソフトウェアを販売する会社を創業することだった。彼らがその商売に手を出すには早すぎたため、同社をプログラマティック企業に転換したとキム氏は述べた。同社が研修や実行サービスの提供を開始したのは、内製化の動きが活発化したことに同社が気がつく前のことだ。
現在、サンフランシスコの本社、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、シンガポール、東京、トロント、これから開設されるストックホルムのオフィスで200名の従業員を同社は抱えている。また、従業員のクリエイティブの経歴を重視するのではなく、同社は技術的な専門知識を必要としていることをキム氏は強調している。
マイティハイブ設立前は、Googleの事業開発責任者であり、Googleのテラセント(Teracent)で販売責任者だったキム氏は、「我々はアドテクの中心地の出身だ」という。
民間企業であるため、マイティハイブは収益モデルや価格モデルを明らかにしていない。キム氏によると、同社はメディアの購買量によって、または提携全体で費やした時間で、またはその両方を組み合わせて費用を請求するという。たとえば、スプリントは、各メディアごとに戦略にかかった時間に基づいて支払いを行っている。
去る者は追わずという方針
キム氏は、ほとんどの提携は6カ月から2年の間で終わると語ったが、コンサルティングニーズのために戻ってこない企業に関心を示さない。バイエルは、デジタルメディアバイイングを行い、入社する従業員を研修するために1年間マイティハイブと仕事をすることを選択している。その後、インハウス化の2年計画に関して、社内で実行を進めていく。一方のスプリントは、インハウス化全体でマイティハイブと協業しており、すべてが完了したあとも、同社に相談をもちかける計画だ。
最終的に自立するという約束をしたことが、スプリントがマイティハイブに近づく契機となった。それはスプリントが社内デジタルエージェンシーを立ち上げることを2017年9月に発表する約16カ月前のことだった。それ以降、社内で15名の従業員を雇用し、社内エージェンシーを利用して何百ものキャンペーンを行っていると、スプリントのチーフ・デジタルオフィサー、ロブ・ロイ氏はいう。スプリントは3月までにすべてを社内で取り仕切る準備を整えるために、あと7人ほど従業員を雇う必要があると、ロイ氏はいう。
同社はディスプレイメディアバイイングに関しては、いまだにホライゾンメディア(Horizon Media)を利用しているが、マイティハイブの支援おかげで、自社でプログラマティック、検索、ソーシャルバイは管理している。このプロセスはほぼ1日目から報われているとロイ氏は語った。彼が正確な数字を明らかにすることはないだろうが、スプリントは2桁のコスト減を達成するとともに、その広告のクリック率が2倍になっており、1日以内で広告を市場に出すことが現在できるようになっているという。
「予想以上の結果が出ており、継続して伸びている。高所からジャンプするようなもので、すこし緊張するだろうが、着陸してみたら、何も痛くはなかた、と実感できるだろう。彼らは自分たちが受け入れることができると考えていたよりも早く動く道理を我々に教えてくれた。それこそが我々にとって究極の贅沢だ」と、ロイ氏は述べた。