「バーター」の概念は、太古の昔から存在している。あなたは私に私が必要とするものを与える。代わりに、私はあなたにあなたが必要とするものを与える。バーターエージェンシーは広告主とメディアのあいだを取り持つ仲介業者だが、基本的にはこの物々交換と変わりはない。知っておきべき4つのポイントについて解説する。
「バーター」の概念は、太古の昔から存在している。あなたは私に私が必要とするものを与える。代わりに、私はあなたにあなたが必要とするものを与える。バーターエージェンシーは広告主とメディアのあいだを取り持つ仲介業者だが、彼らの仕事の内容は、基本的にはこの物々交換と変わりはない。
もっとも一般的な例として、余剰在庫を抱えるアパレルメーカーを想定しよう。それまで飛ぶように売れていたこのメーカーのジーンズが、突如流行遅れで売れなくなった。売れ残りの商品を廃棄する代わりに、このメーカーはバーターエージェンシーに接触する。バーターエージェンシーはメーカーからこの余剰在庫を引き取る。もちろん、どこか別の場所で再販する心づもりだ。一方、バーターエージェンシーはメディアから広告在庫を低価格で買い取り、引き取った商品の代金として、さきのアパレルメーカーに提供する。
4A’s(アメリカ広告業協会)でメディア、テクノロジー、およびデータ部門担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるアシュウィニ・カランディカール氏によると、「特にサプライチェーン上の課題や不動在庫を抱えている企業にとって、バーターエージェンシーのサービスは非常に有用だ」という。
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本稿では、バーターエージェンシーの現状について、知っておきべき4つのポイントについて解説する。
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持株会社はかつてほどバーター事業に意欲的でなくなった
持株会社傘下のバーターエージェンシーとしては、WPPがマイダスエクスチェンジ(Midas Exchange)を、IPGがオライオン(Orion)を運営しているが、いずれも経営幹部からのコメントは得られなかった。一方、オムニコム(Omnicom)はこの6月に、同社のバーター部門であるアイコン(Icon)を、同部門の経営陣に売却した。オムニコムの広報担当者によると、アイコンはもはや同社の中核的な資産ではないとの判断から、売却に至ったという。また、電通の広報担当者は、同社持株会社の傘下にバーターエージェンシーがあるか否かを確認できなかった。匿名で取材に応じたあるエージェンシー幹部によると、ピュブリシス(Publicis)はもともとバーター事業に関与したことはなく、ハバス(Havas)はバーター案件の取り扱いはあるが、外部のバーターエージェンシーに委託しているという。バーター事業に詳しいある企業幹部はこう語っている。「エージェンシー、クライアント、メディア企業の三者間には、バーター関係に必要な客観性がある。しかし、持株会社の場合、既得権益の関係上、客観性を担保するのが本来的に難しい」。
独立系バーターエージェンシーの成長
持株会社に属さない大手のバーターエージェンシーとしては、つい最近独立したばかりのアイコンのほか、アクティブインターナショナル(Active International)とエバーグリーントレーディング(Evergreen Trading)などがある。1984年の創業以来、アクティブはこの領域では最大手として広く知られている。一方、エバーグリーンは、2008年に、ゴードン・ゼルナー氏が同業他社から大勢のベテランを引き抜いて創業したバーターエージェンシーだ。ホライゾンメディア(Horizon Media)は自社のバーター案件をエバーグリーンに委託している。「我々の仕事の基本は、ギャップを埋めることだ」とゼルナー氏は話す。「二者間で合意が成立せず、ギャップがあるところに問題が生じる。問題と呼ぶより、ギャップと呼ぶほうが前向きだ。ギャップであれば、埋めることができる」。
コロナ禍がもたらした好機
コロナ禍に直面して、食品、小売、旅行など、業界の別を問わず、多くの企業が事業部門の大幅縮小や閉鎖に追い込まれた。結果として、クライアント側には、バーターエージェンシーのサービスに対する需要が生まれた。一方、メディア側でも、広告在庫の売り先を探すメディア企業が増えるなど、同様の混乱が起きている。
情報開示の問題
2016年、全米広告主協会(ANA)と調査会社のK2インテリジェンス(K2 Intelligence)は、広告取引の透明性に関する報告書をまとめた。取引慣行に不透明な部分が大きいとの指摘を受けた事業者のなかには、持株会社に属するバーターエージェンシーも含まれていた。実際、バーターエージェンシーは、広告在庫を受け取る企業にメディアコストを開示していない。いくぶん不透明な部分は残るものの、この報告書の最後の余波として、ANAが「クライアントに対する不正行為が疑われるケースについては、FBIが捜査を始める」と警告を発してから3年が経つ。
それでもバーター事業者が存続しているのは、彼らがそこに将来性があると確信しているからだ。「このカテゴリーには非常に大きなチャンスがある」と、エバーグリーンのゼルナー氏も認めている。「我々のサービスを必要とするクライアントは必ずいるし、メディア市場は今後も大きな変化や課題に直面しつづける。そして埋めるべきギャップもなくならない。エージェンシー、クライアント、メディア企業の三者が生む、トライアングルの力にもっと目を向けてほしい。トライアングルはネットワークにほかならないし、それはとても大きな力を秘めている」。
[原文:Media Buying Briefing: WTF are barter agencies?]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)