2021年のメディアパルーザ(広告主による取引先エージェンシーの大規模な見直し)では、いくつかの巨大な広告主がメディア業務を担当する新しいエージェンシーを選択した。そして状況が一段落したところで、勝利を手にしたエージェンシーは、合意したKPIや結果をどのように提供するかを考える時期になっている。
2021年のメディアパルーザ(広告主による取引先エージェンシーの大規模な見直し)では、いくつかの巨大な広告主がメディア業務を担当する新しいエージェンシーを選択した。そして状況が一段落したところで、勝利を手にしたエージェンシーは、合意したKPIや結果をどのように提供するかを考える時期になっている。
なかでもスタッフの確保がもっとも重要な要素であることに間違いはない。何千人ものメディアエージェンシーのスタッフが、マーケターやアドテク、マーテク企業に引き抜かれたり、あるいは、非常に長い労働時間と不十分な報酬にうんざりしたりしている「大離職」の時代にあって、それはかつてないほど困難になっている。
獲得したクライアントの数を見れば、メディアエージェンシーの巨人たちが、大きな人材難に直面していることは明らかだ。持株会社のなかで最大の勝者となったのはピュブリシス(Publicis)で、Facebook、ウォルマート(Walmart)、ステランティス(Stellantis)、インスパイア・ブランズ(Inspire Brands)、ロレアル(L’Oreal)、そして最近ではイーライリリー(Eli Lilly)のすべて、あるいはかなりの部分の予算を獲得している。一方、WPPはコカ・コーラ(Coca-Cola)のメディア予算の大部分を獲得し、オムニコム(Omnicom)はメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)のメディアビジネスを確保した。また、2021年のメディアパルーザにおける、それ以外の巨大メディアアカウントはユニリーバ(Unilever)で、WPP、オムニコム、ハバス(Havas)、IPGの4社がそれぞれ分け合っている。
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タレント・サーチ企業の不安
では、彼らはどうすればいいのか? タレント・サーチ企業は、メディアエージェンシーとの取引に必死になっている。
「多くの持ち株会社から電話がかかってきて、『第1四半期末までに50人から100人の新規採用を保証できるか? 保証してもらえなければ、安心してビジネスができない。既存の人材が燃え尽きてしまうことで、さらに大きな離職問題を抱えることになる』というプレッシャーをかけられている」と語るのは、タレントフット(Talentfoot)の創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるカミール・フェッター氏だ。タレントフットは、大手の持ち株会社のほか、独立系企業の人材確保にも協力している。「このような持ち株会社が、人材のパイプラインを持たずに大きな仕事を追加で引き受けることには不安を感じる」。
フェッター氏の考えによると、ブランドが自社でメディア事業を立ち上げようとしているなかで、「現状のままだと燃え尽きてしまう」ことと、「より多くの報酬が得られる」ことが相まって、メディアエージェンシーに所属する既存の人材がより大きな力を手にするようになったという。「エージェンシーの人材は、『これまでよりも簡単にブランド側に行ける』と気づき始めている。これは一般的な傾向であり、ビジネスの状況が変化していることにより、デジタルメディアの人材がこれらのビジネスの拡大を支援する最前線にいるということだ」とフェッター氏は述べる。
デジタル化でさらに複雑に
問題をさらに悪化させているのは、クライアントの多くが、マーケティング活動においてデジタルファーストのソリューションを求めていることだと、持ち株会社と独立系企業の両方のアウトソーシングに特化したリモート人材プラットフォームであるワークリデュース(WorkReduce)のCEO、ブライアン・ドラン氏は話す。エージェンシーの「デジタル(ワークロード)はかつてないほど大きくなっている」とドラン氏はいう。「解約やアカウントの移動に加えて、従来のアナログ予算と、以前にはなかったデジタルへの投資の両方により、デジタルにかける資金が増えている。つまり、仕事の量が増えると同時に、従来のエージェンシーモデルに大きな負担が生じているということだ」。
ピュブリシス・メディア(Publicis Media)の担当者によると、ピュブリシスは、社内のAIを駆使した「マルセル(Marcel)」というプラットフォームを活用して、エージェンシー、領域、タイムゾーン、国を超えて従業員をつなぎ、内部からの採用と従業員の定着を図っているという。この担当者は、採用チームの規模が2倍になり、より多様な採用を視野に入れたトレーニングを受けていると付け加える。また、デジタス(Digitas)をはじめとするエージェンシーが、ソーシャルメディアを活用して採用活動を行っていることにも言及している。
これは、ワークリデュースのドラン氏の見解とも一致する。「ほとんどすべてのエージェンシーの持ち株会社が、ある種のセントラルサービスモデルを追求している」とドラン氏は指摘している。
「能力に応じた報酬を」
持ち株会社であるメディアエージェンシーは、その規模と広がりから、より機動的な対応ができないとされているが、あるデジタルパフォーマンスエージェンシーのCEOは、給与モデルを変更することで、離職率を下げることができると考えている。ティヌイティ(Tinuiti)のCEO、ザック・モリソン氏によると、同社の従業員の離職率は平均的なエージェンシーよりも低く、30%前後で推移しているという。ティヌイティの経営理念のトップにあるのは「人材」だとモリソン氏は語る。
「全員をオーナーのように扱うこと。それは、全員が公平で、在職期間ではなく能力に応じた報酬を得ることを意味する」とモリソン氏は話す。「もし、あなたがほかのクライアントを担当し、そのクライアントのために素晴らしい仕事をして、そのクライアントが成長すれば、あなたはその恩恵を受け、もっと評価される。これはある意味、創業時からの我々の秘伝のソースでもある」
モリソン氏の例は、持ち株会社であるメディアエージェンシーにとって数あるソリューションのなかのひとつに過ぎない。彼らが同じゲームプランに固執するならば、今後2年以内に次のメディアパルーザが顕在化し、緊張、燃え尽き、人材流出のサイクルが新たに始まることになるだろう。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)