経済的な逆風があれど、2022年の主要な広告ホールディングスは堅調な四半期決算を重ねてきた。なかでも業績のよいS4キャピタルの経営者であるマーティン・ソレル氏、その傘下であるメディアモンクス(Media.Monks)の最高成長責任者を務めるジョー・オルセン氏が事業の好調ぶりを語ってくれた。
経済的な逆風にもかかわらず、2022年の主要なエージェンシーグループは、堅調な四半期決算を重ねてきた。とくに好調なのは比較的新しい会社だ。S4キャピタル(S4 Capital)は厳密にはホールディングスではないが、業績のよい企業のなかでも上位に位置する。S4傘下のメディアモンクス(Media.Monks)は、オールデジタルの未来に注力するグローバルなエージェンシーネットワークだ。
経営者のマーティン・ソレル氏にとって、S4の成功はある種のリベンジである。というのも、同氏は自身が創始した広告ホールディングスのWPPを、会社資金の不正流用疑惑を受けて、2018年に辞任しているからだ。新たに創設したS4キャピタルは、バランスシートを見るかぎり、経営の柱としてコンテンツ、データとデジタルメディア、テクノロジーサービスの3つを掲げている。
2018年以来、メディアモンクスの最高成長責任者を務めるジョー・オルセン氏とともに米DIGIDAYの取材に応じたソレル氏は、事業の好調ぶりをこう説明する。「この業界のほかの領域とは異なり、我々は力強い売上増を続けている。3期9カ月は28%増、第3四半期だけを見れば29%増だった」。
Advertisement
ソレル氏とオルセン氏は、両氏がS4の競合と認める企業、そうでない企業、世界的な脅威と事業機会、デジタルトランスフォーメーションに対するクライアントの態度などについて語ってくれた。なお、インタビューの内容は読みやすさと紙面の制約を考慮して編集を加えている。
◆ ◆ ◆
――S4が競合とみなす企業は?
ソレル氏:S4は大きく3つの事業を展開している。まずはコンテンツ。これはデジタル広告コンテンツのことだ。次に、データとアナリティクスとデジタルメディア。これは説明するまでもないだろう(メディアプランニング、メディアバイイング、およびこれらを支えるデータと分析)。最後に、第3の機能としてのテクノロジーサービス。いわゆるIT機能だ。
3つの領域全体で競合するのはおそらくアクセンチュア(Accenture)だろう。テクノロジーサービスに限れば、アクセンチュアよりも、グローバント(Globant)、EPAM、エンダヴァ(Endava)、パーフィシエント(Perficient)、ソートワークス(ThoughtWorks)あたりと競合する。いずれにしても、持株会社本体ではなく、その傘下企業であることは確かだ。VLM、AKQA、RGA、ワイデンアンドケネディ(Wieden & Kennedy)ら、あるいはオリヴァー(Oliver)やジェリーフィッシュ(Jellyfish)といった専業企業とも競合する。
――デジタルファーストをめざすスタグウェル(Stagwell)はどうか?
ソレル氏:類似点があるなら説明してほしい。私には理解できない。我々はデジタルに特化している。彼らは持株会社だ。我々は違う。私にはどこが似ているのか分からないが、もしかしたらジョーには分かるかもしれない。
オルセン氏:よく比較されるが、事業の中身はまったく異なる。我々が比較されるのは、スタグウェルが我々を引き合いに出すからだ。業界内で収まりのよい場所を見つけるために、S4の名前を利用しているのだと思う。だが、私も彼らを競合とは考えない。
――では、新たな提案を行なう場面で、ぶつかる相手はどこか?
オルセン氏:マーティンがいうとおり、一番ぶつかりそうな相手はおそらくアクセンチュアだ。S4の事業はデジタルとしてはかなり広範で、多くのプレイヤーとぶつかることになる。しかし、アクセンチュアソング(Accenture Song)がやろうとしていることは、我々のめざすところとよく似ている。私の感触としては、彼らは基本的にトップダウンで、我々はボトムアップ、その中間あたりでぶつかるのではないか。
――地域的に見ると、S4は世界を網羅しているが、APACでの成長はもっとも遅い。中国での苦戦が原因か?
ソレル氏:まあ、そういうことだ。今年度の最終的な数字を見れば、通年での好調ぶりが分かると思うが、APACは中国の影響を免れない。しかし、中国のゼロコロナ政策も2023年の第2四半期には緩和に向かうだろう。2023年の中国経済の見通しは実質4%程度だ。ゼロコロナ政策の全面解除には時を要するため、上半期は低調が続くだろう。しかし、来年の下半期には大幅な成長軌道に戻るのではないか。いずれにしても、世界経済の成長見通しが1.5%であることを考えると、4%は相当に大きな数字だ。
――中国以外の状況は?
ソレル氏:北米と南米には大きなチャンスがある。中東にも大きなチャンスがある。ヨーロッパは低迷している。S4の成長がもっとも著しい地域ではあるが、一般的には停滞基調だ。アフリカは非常に流動的だ。APACは堅調を維持している反面、中国の台湾政策が不透明なため、クライアントは神経質になっている。Appleしかり、フォックスコン(Foxconn)しかり。ほかの企業も同様だ。彼らはサプライチェーンの脱中国を模索している。
そこでインドの出番だ。インド、ヴェトナム、インドネシア、フィリピン、マレーシアは大きな成長を遂げている。東南アジア全体がその重要性を増している。中国の台湾政策の影響や安全保障問題からもっとも大きな恩恵を受けているのはインドだ。
社名は伏せるが、あるクライアントはサプライチェーンを東欧からラテンアメリカに移している。S4はラテンアメリカに3500人の従業員を抱えているが、はからずも、彼らは世界でもトップクラスのクリエイティブな技術者たちだ。
――2023年の見通しは?
ソレル氏:状況が厳しくなれば、クライアントはアクティベーションやパフォーマンス、メディア測定やメディアミックスモデリングをことさら重視するようになるだろう。我々にとっては有利な状況だ。実際、世界はこれまで以上にアクティベーション重視、パフォーマンス重視になったともいえる。アテンションの持続時間の問題、ブランドロイヤルティの崩壊などを背景に、消費者のブランド乗り換えは加速する。アジリティと素早いソリューションの重要性は増すばかりだ。必ずしも完璧なソリューションである必要はない。デジタルメディアを通じて研磨しうるソリューションが求められる。
オルセン氏:コロナ禍を契機に、ある考え方が生まれた。多くのブランドは基本的にはエンターテインメントブランドであり、いずれもファンをつくり、そのファンダムを最大限に活かす道を模索しているという考え方だ。そしてそれは新たな事業機会を生み出している。クライアントともよくこの話をする。これに賛同するクライアントが増えれば、この状況はさらに加速し、新しいツールへの需要が生まれる。彼らには新しい技術が必要になる。しかもより速く、より効果的な提供が求められるだろう。
Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)