欧州を拠点とするメディアエージェンシーのメディアプラス・グループ(Mediaplus Group)は、3年近く前から米国で静かに活動を続けてきた。だが、最近になって同社の米国事業責任者が交代した。新しい市場への進出を希望するクライアントを抱える同社にとって、米国事業の拡大は喫緊の課題だ。
欧州を拠点とするメディアエージェンシーのメディアプラス・グループ(Mediaplus Group)は、3年近く前から米国で静かに活動を続けてきた。具体的には、適切なパートナーと提携したり、BMW、シーメンス(Siemens)、ソニー・ミュージック(Sony Music)など、米国外の地域で取引があるクライアントと仕事をしたりするといった活動だ。
だが、最近になって同社の米国事業責任者が交代したことは、彼らが米国事業の強化に本腰を入れ始めたことを示している。新しい市場への進出を希望するクライアントを抱える同社にとって、米国事業の拡大は喫緊の課題だ。
ビジネスパートナーとして
メディアプラスを率いることになったのは、グループエム(GroupM)やオムニコム(Omnicom)で経験を積んだメディアエージェンシー業界のベテラン、タマラ・アレジ氏とジャスミン・プレソン氏だ。両氏は、昨年末にそれぞれ最高クライアント責任者と最高戦略責任者に任命され、前任者のフィル・カウデル氏を引き継いだ。カウデル氏は、メディアエージェンシーのベテランとしてメディアプラスを率いていたが、昨年末に同社を離れ、ヘルスケア分野のマーケティング会社バクシニティ(Vaxxinity)に移っている。アレジ氏とプレソン氏は、メディアプラスのグローバル統括責任者であるマティアス・ブリュル氏の部下となった。
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カウデル氏本人から米国での事業を引き継ぐよう勧められたアレジ氏とプレソン氏は、今の時期に米国事業を拡大する理由として、クライアントが持株会社に不満を持っている点を挙げた。「クライアントは、持株会社の度重なる値上げやタイムスケジュール、不透明なメディアプランを拒否するようになっている」と、アレジ氏はいう。「新型コロナウイルス感染症が我々に教えてくれたことがあるとすれば、効率と効果はイコールではないということだ。広告主の対応は実にさまざまで、内製化が増えたり、ハイブリッドアプローチが見られたりしている。彼らがもっとも不満に感じているのは、無駄の多い売り込みが組織ぐるみで2~3年ごとに繰り返されることだ」。
また、プレソン氏いわく、メディアプラスが目指しているのは、ビジネスパートナーとして自社をクライアントにアピールすることであって、「メディアの大量購入者」としてではない。「我々は、説明がつかないような不測の事態がサプライチェーンで発生したり、TikTokのトレンドが出現したりしても、臨機応変に対応できる体制を整えている。独立系の企業であることが、我々にこのような柔軟性をもたらしているのだ。タマラ(アレジ氏)も私も、自分たちを永遠のベータ版だと考えている」。
クライアントたちからも好評
米国市場に進出する、ペット用健康食品を手がける英国企業ユームーブ(Yu MOVE)でグローバルマーケティングディレクターを務めるアンディ・スミス氏は、こう語る。ユームーブがメディアプラスと契約したのは、カウデル氏が在籍していた1年前だったため、同氏からアレジ氏とプレソン氏への引き継ぎはスムーズだったという。また、「文化的にも、彼らは以前のチームと似ている点が極めて多い」とスミス氏は話す。
ユームーブは昨年、獣医をターゲットにした製品展開を計画していたが、コロナの流行で人々が獣医を訪れなくなったため、計画を撤回した。いまでは、アレジ氏とプレソン氏の下で戦術を変更し、スポンサーシップを中心とした計画を進めている。「(米国は)新しい市場なので、ビジネスパートナーが必要だと感じていた。しかもコロナによる逆風が吹いたことで、その考えが正しかったことが証明された」と、スミス氏は述べ、この戦略変更が多くの無駄な出費を防ぐことにつながったと説明した。
医療機器メーカーのシーメンス・ヘルスケア(Siemens Healthineers)も、米国で事業を拡大しているグローバルクライアントのひとつだ。メディアプラスは、ジオフェンスや人工知能(AI)を活用したターゲティングなど、B2B業務でシーメンス・ヘルスケアを支援している。「米国は我々が力を入れている市場のひとつであるため、メディアプラスが米国で強力なプレゼンスを確立していることが我々にとって重要だった」と、シーメンス・ヘルスケアでプロモーションとキャンペーンの責任者を務めるカトリン・ワイルド氏は、米DIGIDAYにメールで語った。「チームは(中略)我々の従来型のB2Bアプローチを前進させてくれた。(中略)我々はヘルスケアの分野でブレイクスルーを生み出すという目的を達成するために、さまざま要求をするが協力は惜しまない。このような姿勢は、メディアプラスの社風とも一致するものだ」。
メディアプラスのクライアントにドイツ系企業が多いのは偶然ではない。メディアプラスは、ドイツの小規模持株会社ハウス・オブ・コミュニケーション(House of Communication)が所有する3つの中核部門のひとつだ。ハウス・オブ・コミュニケーションは、クリエイティブネットワークのサービスプラン・グループ(Serviceplan Group)やデジタルIT企業のプラン・ドット・ネット・グループ(Plan.Net Group)も所有している。メディアプラスは自社を欧州最大の独立系メディアエージェンシーと位置付けており、調査会社コンバージェンス(COMvergence)のデータによれば、ドイツでの同社のメディア支出は合わせて約13億ドル(約1484億円)だ。
他社とのパートナーシップ
また、メディアプラスは関連会社とのパートナーシップも活用している。たとえば、アレジ氏とプレソン氏は、サンフランシスコにおける新進気鋭の広告会社、ペレイラ・オデル(Pereira O’Dell)のニューヨークオフィスで仕事をしている(サービスプランが同社の株式の30%を保有している)。ペレイラ・オデルがクライアントのクリプト・ドットコム(Crypto.com)のために制作した最近の広告では、メディアプラスが俳優のマット・デイモンを起用して宣伝効果を高めた。
対外的には、メディアプラスはスタッグウェル(Stagwell)と関連分野で提携することで合意している。スタッグウェルが米国外でのプレゼンスの向上を目指す一方、メディアプラスはドイツ国内での足場を強化したいと考えていることから、この提携は理にかなっているといえる。つまり、両者は補完関係にあるのだ。
そのため、欧州のメディア市場に詳しいあるオブザーバーは、スタッグウェルがメディアプラスの買収に動き出すのではないかと考えていたという。
「彼らは欧州で互いに実験的な取り組みを繰り返している。また、大手のクライアントに対応するために従来型の手法が必要な新興の持株会社にとっては、多くのシナジー効果が期待できる」と、この幹部は匿名を条件に語った。「買収が実現していれば、ハバス(Havas)を抜いて6番目に規模の大きい持株会社になる可能性が非常に高い」。
この件に関して、スタッグウェルはコメントを拒否している。また、メディアプラスのブリュル氏もメールで次のように述べるにとどまった。「我々のグローバルな拡大戦略は、メディアプラスを(中略)有機的に成長させることを目的としたもので、そのために現地のエージェンシーと提携したり協働したりしている」。非公式の場でも、両社の幹部は買収や合併という考えを強く否定している。
[原文:Media Buying Briefing: ‘Permanent beta’: Another European media agency plots U.S. expansion]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:小玉明依)