7月18日、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)内の新ユニットとして、ユニファイドリテールメディアソリューション(Unified Retail Media Solution)がロールアウトされた。これ […]
7月18日、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)内の新ユニットとして、ユニファイドリテールメディアソリューション(Unified Retail Media Solution)がロールアウトされた。これによりIPGは、コマースメディアとリテールメディアの市場という、拡大を続ける舞台に正式に参入したことになる。姉妹ユニットのマグナ(Magna)によれば、リテールメディアの市場規模は、今年さらに13%の成長を遂げ、1210億ドル(約17兆2650億円)に達する見込みだという。
IPGメディアブランズが少なくとも1年の歳月をかけて立ち上げた、ユニファイドリテールメディアソリューション。その先頭に立つのは、エグゼクティブリードとして500人のスタッフを率いるグレン・コニーベア氏だ。同ユニットの哲学、アプローチの基盤となっているのは、実質的にウォールドガーデンを形成するリテールメディアネットワークの拡大する複雑な世界のなかで、理解と運用を一体化して簡素化することだ。
「我々が取り組んでいるのは、オーディエンスと測定の最適化、つまりすべての要素の一体化だ。その結果、キャンペーンレベルでどの小売企業がほかよりも上手くいっているのか、あるいは上手くいっていないのかをブランドがもっと簡単に把握できるようになれば、予算の増分価値を正しく理解するのに必要な情報をブランドに提供できる」と、コニーベア氏は語る。「この情報が手に入れば、ブランドはどの予算、どの支出がほかよりもよい結果を出しているのかを把握できるようになる」。
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ロングテールの勝負
そんなコニーベア氏が協力を仰いでいる人物が、IPGでチーフコマースストラテジーオフィサーを務めるジェリアド・ゾグビー氏だ。アクセンチュア(Accenture)に12年間勤務した経歴を持つ同氏は、数カ月前にIPGに入社し、同社全体のコマースアジェンダの拡大を一任されている。
「我々はウォールドガーデンを壊そうとしているわけではない。我々が取り組もうとしているのは、ウォールドガーデンの『ウォール(壁)』を超えてインサイトをもたらすための、よりスマートな方法の発見だ」と、ゾグビー氏は語る。「そして、よりスマートな方法でこれを行うための秘伝のソースが、オーディエンスだ。クリーンルームは素晴らしく、我々の戦略の中心でもある。しかし、我々はこのようにして、クリーンルームが提供してくれる以上の、より広範囲にわたる情報を手に入れている」。
形の上では、IPGが出遅れてしまった感は否めない。(すべてとまでは言わないが)ほかの大手エージェンシーも同じようなユニットをすでに立ち上げているからだ。しかし、コマースメディアおよびリテールメディア市場の一部のアナリストや観測筋、エージェンシー幹部が述べているように(彼らのほぼ全員が、率直な意見を述べるために、名前を出してのコメントを拒否した)、これはロングテールの勝負だ。クライアントにもたらす価値をIPGが再定義する可能性はある。
市場はより複雑に
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)でリテールおよびeコマース部門の主席アナリストを務めるアンドリュー・リップスマン氏は、「エージェンシーには、ブランドの役に立つという果たすべき大きな役割がある。ブランドがリテールメディアで得られるものは多いからだ。その市場は今後数年間で大きく成長することが見込まれているが、Amazonが支配する時代が終わり、次の時代が始まりつつあるいま、これを上手く行うのはなかなか難しくなっている」と述べている。
また、「興味深く、有力なプレイヤーが数多く出てきて、市場はより活況を呈するようになったが、同時にそこは複雑にもなった。今後は、この複雑さに対処できるところに大きな役割が課されることになるだろう。そして、その最前線にいるのがエージェンシーなのだ」と話す。
それは、独立系エージェンシーよりも莫大な資金と豊富なデータを所有し、テクノロジーへの投資も怠らない大手エージェンシーに有利に働く。しかしその一方で、コマースメディア市場で専門知識を苦心の末に手に入れている独立系エージェンシーもあると、今回話を聞かせてもらった専門家たちは指摘する。たとえば、ティヌイティ(Tinuiti)やアセンシャル(Ascential)、ザ・マーズ・エージェンシー(The Mars Agency)がそうだ。
ここからは、彼ら専門家へのインタビューを基に、そのほかのホールディングカンパニーによるコマースメディアおよびリテールメディアの取り組みを簡単に考察していきたい。なお、以下の並びは取り組みの進み具合の順となる。
ピュブリシスとオムニコム
ピュブリシス(Publicis)は今年6月、2022年に買収したプロフィテロ(Profitero)のツールを取り入れたコマース主導型ユニットを正式に立ち上げた。しかし、自営のテクノロジー主導型ソリューションへとピュブリシスを向かわせたのは、それに先立つシトラスアズ(Citrus Ads)の買収と、さらにそれに先立つデータ大手のイプシロン(Epsilon)の買収だった。
「私に言わせれば、もっともテクノロジー志向の企業がピュブリシスであり、この市場の可能性を実現するのに必要な、最高に興味深いアセット群を持っている」と、リップスマン氏は語る。
それに対してオムニコムは、自社のデータオーケストレーションプラットフォームであるオムニ(Omni)をほぼすべてのコマース戦略の中心に据え、オムニを活用する一連のツールとしてオムニコマース(Omni Commerce)を開発した。
また、それだけではなく、同社にはオムニコムのメディアエージェンシーとコマースエージェンシーをつなげるオムニコムトランザクト(Omnicom Transact)もある。IPGはユニファイドアプローチを取って、クライアントにリテールメディアネットワークの泥沼を切り抜けさせようとしている。それと同じように、オムニコムも内部をつなぐことで、未だにショッパー予算からブランド予算を分離しているサイロの破壊を目指している。
「オムニコムの名を世に知らしめているのは、プランニングの改善につながるデータと分析に関する専門知識だ」と、ある観測筋は語る。同氏はオムニコムの成功の要因を、大手リテールメディアネットワークとの提携を追求し、それを公表するその姿勢にあるとしている。「そんな彼らがやや弱いのは、ストーリーの差別化だ」。
電通、WPP/グループエム
2020年に始まったコロナ禍により、消費者たちは家から出られなくなり、これによってインターネットを介した消費者需要の爆発的増加がもたらされた。電通とグループエム(GroupM)は、それ以前からコマースメディアとリテールメディアに対する理解を深めるニーズに応えてきたことで評価されている。しかしその一方で、両社はこうした取り組みをあまり積極的に公表してこなかった。そしてそのせいで、観測筋は両社の立ち位置をはっきりとはつかめないでいる。
電通は今年2月、クリエイティブやメディア、データなどの自社内の組織の枠をこえたアセットの活用を目的とするリテールアクセラレーターと自らが呼ぶ、デンツーショップ(Dentsu Shop)をローンチした。しかし、電通の真の強みが宿っているのは、データユニットのマークル(Merkle)、そして同社の個人IDAYプラットフォームであるM1だ。マークルは毎年、リテールメディアに関するリポートを発表しており、このリポートは同市場の動向に関する「印象深いナラティブを伝えてくれる」と、ある観測筋は話す。
それに対してWPP傘下のグループエムは、10年以上前からリテールメディアの活性化にそれなりに取り組んでいる。同社は2019年、トライアドリテールメディア(Triad Retail Media)を買収し、初期の試みとして、当時はいまよりもずっと小さかった市場に秩序をもたらすことに取り組んだ。そして今年5月、パフォーマンスハブ、ネクサス(Nexus)内の統合された取り組みとして、グループエムネクサスコマース(GroupM Nexus Commerce)がローンチされた。
観測筋は、マインドシェア(Mindshare)やウェーブメーカー(Wavemaker)、VMLY&R、ワンダーマントンプソン(WundermanThompson)といった、WPP傘下の各エージェンシーが持つコマースとリテールの専門知識を高く評価している。しかしその一方で、そこに同レベルの協調性は見られないとも話す。「彼らにとにかく足りないのは簡潔なナラティブだ」と、ある幹部(こちらも匿名)は語る。
ハバス
ハバスは2020年、eコマースのグローバル戦略として、ハバスマーケット(Havas Market)をローンチした。そして2022年の後半、同ユニットの強化を目的として、今度はエキスパートエッジ(Expert Edge)を買収した。
しかし、ほかの大手エージェンシーに比べると、ハバスはリテールメディアにそこまで深く足を踏み入れていない。ある観測筋が指摘するように、ハバスの規模は独自のソリューションを構築できるほど大きくはないのだ。
いずれにせよ今後、この市場に統合がもたらされれば、大手エージェンシーらの現在の相対的なポジションもその影響を受けることになるだろう。言い換えれば、レースはまだ始まったばかりなのだ。
「私個人は、現時点ではこのレースの状況を重視していない」とリップスマン氏は語る。「差を縮めるための時間はたっぷりあるはずだからだ。なかには、ひそかに舞台裏で戦略を練っているエージェンシーもいるかもしれない。そうした企業が市場に参入すれば、準備万端で一気に差を縮めるだろう」。
[原文:Media Buying Briefing: Here’s how the holdcos’ commerce/retail media offerings stack up]
Michael Bürgi(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)