2022年のカンヌライオンズは、参加者の多くにとってメディアビジネスのチャンスと苦労について議論する場だった。だが、10人のメディアバイヤーに最重要課題を尋ねると、11通りの答えが返ってくるだろう。そのなかで一貫していたのは、再び対面でアイデア、ビジョン、契約、フラストレーションを共有できる幸福だった。
2022年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルは、広告業界における最高のクリエイティブ作品を祝福する場のように見えるかもしれないが、今年の参加者の多くにとっては、メディアビジネスのチャンスと苦労について議論する場の様相を呈している。そして、議論することはたくさんある。
だが、10人のメディアバイヤーに最重要課題を尋ねると、11通りの答えが返ってくるだろう。そのなかで一貫していたのは、再び対面でアイデア、ビジョン、契約、フラストレーションを共有できる幸福だった。
カンヌライオンズの期間中にメディアバイヤーやエージェンシーのCEOたちと交わした会話に基づき、筆者が得たものを以下に紹介しよう。
Advertisement
データと測定
クリエイティビティをテーマにしたフェスティバルであっても、測定に関する問題は表面化し、バイヤーたちはテレビ市場に漂う混乱に不満を漏らしていた。彼らは、NBCユニバーサル(NBC Universal)が、アップフロント・インベントリー(在庫)の最大40%を非ニールセン(Nielsen)の通貨で販売したという最近の発表を、物笑いの種にした。ある投資担当者は「それは絶対にでたらめだ」と断言したが、当然ながら公の場での発言は避けた。
もしそれが本当なら、従来の通貨であるニールセンは非常に神経質になるはずだ。ニールセンは、支配的な立場に居続けるために使える、価値あるカードをまだいくつか保持している。以前ニールセンに勤務していたある調査会社の幹部は、TVネットワークとの一連の契約のおかげで、ニールセンはどの年においても過度にビジネスを失うことにさらされることはないと説明する。この幹部はまた、ニールセンが提案する「ニールセン・ワン(Nielsen One)」ソリューションで実質的な変更を行うことにより、従来の通貨の力を強力に活用できると述べた。
立法者によるプライバシー規制の脅威が迫りくるなか、一部の経営陣はマーケターたちに、強すぎる規制が業界に打撃を与えかねない理由を説明する手助けをしてほしいと懇願しているようだ。IPGの最高データおよびマーケティング技術責任者を務めるアルン・クマール氏は、ポッドキャストのエピソードでこう語っている。「マーケターたちはいま、行方をくらましていて、法務チームが対処していると言っているか、怖くて表に出られないと言っているかのどちらかだ。それが何であるかはわからない。しかし、そこには責任の放棄があり、そうしたところで、マーケティングがどのように受け取られているのかを、正しく理解しているとは思えない」
プログラマティック広告と景気後退
メディアバイイングビジネスの中で、ある程度のプログラマティックバイイングを必要としないところはないが、自動バイイングオプションには、慢性的な不正や透明性の欠如という非難が常につきまとう。
フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のバイスプレジデント兼主席アナリスト、ジョアンナ・オコネル氏は、別のポッドキャストのエピソードで、「まるでもぐらたたきだ。いつももぐらたたきをやっている」と話している。「どんな新しい環境でさえ、この種の課題に直面せねばならない次の環境になる。率直に言って、最高の解毒剤は、常に警戒することだと思う」
今後注目すべきは、深刻な景気後退によって、プログラマティックベンダーが自社プラットフォームを通じてより多くの売上を上げるのに役立つかどうかだけでなく、クライアントに投資が無駄になっていないことを示す必要のあるエージェンシーが、プロセスのより高い透明性を示すことを余儀なくされるかどうかだ。
景気後退については、筆者が話をしたメディアエージェンシーの幹部全員が、インフレ環境が本格的な景気後退につながると考えているわけではないが、その多くは不安を抱いていた。ある独立系メディアエージェンシーのCEOは、2022年後半に向けてクライアントがすでに支出を削減し始めていると述べている。
Web3とメタバース
Web3やメタバースに関する議論は、この新しい技術のメリットよりも、はるかに多く行われたというのが、筆者が話をしたほとんどの人の意見だった。あるメディアエージェンシーのCEOは「この話はもう聞き飽きた」と嘆いた。「まだそこには至っていないのに、何かを解明したと言っているエージェンシーの多くは、あなたをだましている」
電通アメリカス(Dentsu Americas)のCEO、ダグ・ローゼン氏は、注目のアドテク企業インフィリオン(Infillion)が主催したパネルディスカッションに登壇し、メタバースという用語の使用を拒否するまでに至った。同氏は、業界として、消費者が今日利用することのできるすべての非現実世界を包含する、より広い用語である「マルチバース」を採用したいと述べた。筆者は困惑して、マルチバースがマーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)の用語であることを指摘すると、ローゼン氏はその理由をこう説明した。「一企業の枠をはるかに超える用語を、一企業に所有させるわけにはいかない」。ローゼン氏はその会社名を伏せたが、聴衆はみな、彼の言いたいことを理解していた。
サステナビリティと責任
グリーンピース(Greenpeace)が宮殿(パレ)の前で平和的に、しかし破壊的に抗議する一方で(彼らはただでさえ渋滞がひどいクロワゼット通り沿いの交通を遮断し、建物の側面を登るためにはしご車の消防車を持ち込んだ)、多くのエージェンシーが、カーボンニュートラルなメディア投資に向けて業界を動かしていくことを語った。ユニリーバ(Unilever)や主要な業界団体とともに、すべてのエージェンシーの持株会社が、英国で始まったカーボンニュートラルなイニシアチブである「アド・ネット・ゼロ(Ad Net Zero)」の展開に参加することを宣言した。
問題は、そのような投資がカーボンニュートラルであることをどのように検証するかについて、多くが曖昧なままであることだ。このように考えている業界には拍手を送りたいが、カンヌライオンズ期間中の猛暑や頻繁な雨を考えると、さらに危機感を高める必要があるのかもしれない。
[原文:Media Buying Briefing: From Cannes Lions, wrestling with measurement, fraud and the ‘multiverse’]
Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)