- 複数のエージェンシーで、AIチャットボットによる新入社員のオンボーディングや日常業務の自動化が行われており、組織プロセスと従業員エンゲージメントを変革し、単純作業の軽減や時間とコストの削減に寄与している。
- チャットボットが標準的なダッシュボードに比べて高い柔軟性を提供し、トラッキングデータやレポートへのアクセスを容易にすることから、クライアントも導入に前向きだという。
- 一方で課題も存在し、当事者間でデータの共有が難しい場合AIの効果は制限される可能性がある。また、文脈や理由を説明する能力には限界があるため、マーケティングの観点では適切なツールではないとの指摘も。
チャットボットはメディアエージェンシーにとっての新たな「スーパーパワー」となるのだろうか。
このところ、エージェンシー各社がChatGPTスタイルのボットを相次いで導入し、社内的には業務の自動化とメディアやトレンドの分析に、対外的にはクライアントのキャンペーンやデータ報告に活用している。
時間とコストの削減に有用
複数のエージェンシー関係者の話によると、単純作業の軽減や時間とコストの削減はもとより、AIツールは柔軟性の向上に有用で、クライアントのための仕事により多くの時間を割き、組織プロセスと従業員エンゲージメントを変革することにも寄与するという。
デジタルエージェンシーのセプテーニグローバル(Septeni Global)で最高経営責任者(CEO)を務めるジェイ・スエフジ氏は、「ジェネレーティブAIは、クリエイティブやメディアソリューション、オペレーションをはじめ、多くの分野でエージェンシーのコスト削減に貢献する可能性を秘めている」と話す。スエフジ氏は特に、「自動化やチャットボットが最大の効果を発揮するのは業務の改善だ」と期待を寄せ、「単純な反復作業や雑務の多くを排除し、効率化を推進し、結果的に時間とコストの節約につながるだろう」と語った。
AIチャットボットプラットフォームのガプシャップ(Gupshup)でCEOを務めるビールード・シェス氏も同じ考えだ。「時流に乗り遅れまいとする多くの企業が、顧客や従業員とのやりとりをはじめ、業務全域でチャットボットの導入を進めている」とシェス氏は話す。ガプシャップはGoogleやシティバンク(Citibank)などの企業向けにAIチャットボットを運用しており、同社によると、企業と消費者のあいだで交わされるチャットの5件に3件は同社のテクノロジーを使用しているという。
「顧客対応の側面では、新規獲得からマーケティング、物販からサポートまで、カスタマーライフサイクル全体にわたり、チャットボットがシームレスに統合されている」とシェス氏は語る。「ボットによる動的なインタラクションは、コンバージョン率の向上、収益成長の最適化、顧客満足度の改善、さらにはサポートコストの削減などを牽引する」。
データアクセス、コスト、柔軟性
オーシャンメディア(Ocean Media)のアンヌマリー・ターピン最高技術責任者(CTO)によると、クライアントはチャットボットの試験運用に前向きで、そのメリットのひとつはトラッキングデータやレポートデータへのスピーディなアクセスだという。データアクセスのために標準的なダッシュボードを構成することに比べ、訓練されたチャットボットは高い柔軟性を備え、より少ないリソースと予算で、より多くの仕事をクライアントのために遂行できるとターピン氏は説明した。
「ダッシュボードによるレポーティングでは、クライアントの質問を想定し、予想されるニーズに合わせて構成する必要がある」とターピン氏は話す。「チャットボットであれば、クライアントはどんな質問でもできる。追加的な構成も開発作業も不要だ」。
言い換えれば、AIを活用することで、ユーザー(たとえばクライアント)はチャットボットに何か質問するだけで、必要な情報を取得できる。一方、ダッシュボードでは質問にパラメータを設定する必要があるため、そのためのデータを探して答えを検索するには、追加的な手順と微調整が必要となる。
「チャットボットを活用すれば、ユーザーが情報にアクセスする際の精神的負担が軽くなる」とターピン氏は話す。「エージェンシーとしては、ユーザーの質問を予想する必要もないし、ダッシュボードを構成するためのビジネスインテリジェンスに時間をかける必要もない。その分の時間を、チャットボットのトレーニングに使えばよい」。[続きを読む]
- 複数のエージェンシーで、AIチャットボットによる新入社員のオンボーディングや日常業務の自動化が行われている。組織プロセスと従業員エンゲージメントを変革し、単純作業の軽減や時間とコストの削減に寄与している。
- チャットボットが標準的なダッシュボードに比べて高い柔軟性を提供し、トラッキングデータやレポートへのアクセスを容易にすることから、クライアントも導入に前向きだという。
- 一方で課題も存在し、当事者間でデータの共有が難しい場合AIの効果は制限される可能性がある。また、文脈や理由を説明する能力には限界があるため、マーケティングの観点では適切なツールではないとの指摘も。
チャットボットはメディアエージェンシーにとっての新たな「スーパーパワー」となるのだろうか。
このところ、エージェンシー各社がChatGPTスタイルのボットを相次いで導入し、社内的には業務の自動化とメディアやトレンドの分析に、対外的にはクライアントのキャンペーンやデータ報告に活用している。
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時間とコストの削減に有用
複数のエージェンシー関係者の話によると、単純作業の軽減や時間とコストの削減はもとより、AIツールは柔軟性の向上に有用で、クライアントのための仕事により多くの時間を割き、組織プロセスと従業員エンゲージメントを変革することにも寄与するという。
デジタルエージェンシーのセプテーニグローバル(Septeni Global)で最高経営責任者(CEO)を務めるジェイ・スエフジ氏は、「ジェネレーティブAIは、クリエイティブやメディアソリューション、オペレーションをはじめ、多くの分野でエージェンシーのコスト削減に貢献する可能性を秘めている」と話す。スエフジ氏は特に、「自動化やチャットボットが最大の効果を発揮するのは業務の改善だ」と期待を寄せ、「単純な反復作業や雑務の多くを排除し、効率化を推進し、結果的に時間とコストの節約につながるだろう」と語った。
AIチャットボットプラットフォームのガプシャップ(Gupshup)でCEOを務めるビールード・シェス氏も同じ考えだ。「時流に乗り遅れまいとする多くの企業が、顧客や従業員とのやりとりをはじめ、業務全域でチャットボットの導入を進めている」とシェス氏は話す。ガプシャップはGoogleやシティバンク(Citibank)などの企業向けにAIチャットボットを運用しており、同社によると、企業と消費者のあいだで交わされるチャットの5件に3件は同社のテクノロジーを使用しているという。
「顧客対応の側面では、新規獲得からマーケティング、物販からサポートまで、カスタマーライフサイクル全体にわたり、チャットボットがシームレスに統合されている」とシェス氏は語る。「ボットによる動的なインタラクションは、コンバージョン率の向上、収益成長の最適化、顧客満足度の改善、さらにはサポートコストの削減などを牽引する」。
データアクセス、コスト、柔軟性
オーシャンメディア(Ocean Media)のアンヌマリー・ターピン最高技術責任者(CTO)によると、クライアントはチャットボットの試験運用に前向きで、そのメリットのひとつはトラッキングデータやレポートデータへのスピーディなアクセスだという。データアクセスのために標準的なダッシュボードを構成することに比べ、訓練されたチャットボットは高い柔軟性を備え、より少ないリソースと予算で、より多くの仕事をクライアントのために遂行できるとターピン氏は説明した。
「ダッシュボードによるレポーティングでは、クライアントの質問を想定し、予想されるニーズに合わせて構成する必要がある」とターピン氏は話す。「チャットボットであれば、クライアントはどんな質問でもできる。追加的な構成も開発作業も不要だ」。
言い換えれば、AIを活用することで、ユーザー(たとえばクライアント)はチャットボットに何か質問するだけで、必要な情報を取得できる。一方、ダッシュボードでは質問にパラメータを設定する必要があるため、そのためのデータを探して答えを検索するには、追加的な手順と微調整が必要となる。
「チャットボットを活用すれば、ユーザーが情報にアクセスする際の精神的負担が軽くなる」とターピン氏は話す。「エージェンシーとしては、ユーザーの質問を予想する必要もないし、ダッシュボードを構成するためのビジネスインテリジェンスに時間をかける必要もない。その分の時間を、チャットボットのトレーニングに使えばよい」。
セプテーニも同様に、各種のジェネレーティブAIツールを業務プロセスに組み込んでいる。スエフジ氏によると、AIによる自動化で、レポートの生成、データの可視化、アラートの設定など、コストのかさむ作業を削減できるという。
この4月、セプテーニはAI楽曲生成サービスのサウンドロー(Soundraw)と共同で、動画広告のクリックスルー率を上げるBGMをAIで自動生成するサービスを開発した。コンテンツ、製品、配信メディアの情報に基づいて、広告効果に貢献する要素を分析できるという。このツールのおかげで、人間のスタッフは「より戦略的で価値の高い仕事」に集中し、クライアントサービスの効率化を図ることができるとスエフジ氏は言い添えた。
セプテーニでは、ほかにもさまざまな形態のロボティックプロセスオートメーション(RPA)ツールを業務に取り入れている。RPAツールは各種のプロセスの自動化に使われるソフトウェアボットで、AIツールと組み合わせれば自力で経時的に学習する。スエフジ氏は、「社内チャットとAIを連携させたこのようなソリューションは今後ますます増えるだろう。自己学習能力を備えたAIボットが、社内文書を参照することなくいろいろな質問に回答できるようになる」と説明している。
人事労務、プロジェクト管理、内部効率
メッセージングアプリとChatGPTの成長を背景に、チャットボットの人気は高まるばかりだ。消費者の要求に応えるためとして、チャットボットを導入する企業が増えるのはある意味道理である。しかし、ガプシャップのシェス氏は、「たとえば、人事労務職、IT、設備管理部門に多い定型的な日常業務を自動化するなど、企業の従業員体験の改善に役立つボットの使い方もある」と指摘する。
レッドドアインタラクティブ(Red Door Interactive)も今年、独自のプロトタイプチャットボット「CMore」の実装を開始した。目的は、新入社員のオンボーディングと人事労務業務に活用する対話型AIアシスタントの開発だ。レッドドアによると、現在までに、CMoreは従業員ハンドブック、福利厚生情報、セキュリティ手続き、従業員紹介制度、教育支援制度などを学習したという。
レッドドアのデニス・ゴンザレス最高執行責任者(COO)は、将来的にはCMoreの活用を人材採用やプロジェクト管理などにも広げ、その分、従業員を対外的なコンテンツ作成に集中させたり、定型レポートから対話型のフォーマットへの移行を進めたいと話す。ゴンザレス氏によると、今四半期にAIを導入したが、人事労務部門の人員整理は行っていないという。むしろ、ボットの活用は、スタッフの余力を「より進歩的な仕事」に振り向ける機会となったようだ。
レッドドアのチャットボットは情報の更新や削除を重ねながら、さらに成長し、より多くのコンテンツを学習することができる。C4の試験運用を開始して以来、節約した時間はボットを使った従業員の作業1件当たり約1時間、合計で100時間となった。
どんなリスクがあるのか?
ゴンザレス氏は、チャットボットやAIソフトウェアの活用にまつわる課題のひとつは、イノベーションと責任の両立だと指摘する。「これらは社内文書だ。従業員に関係のある情報を、従業員にのみ提供する必要があった」と同氏は話す。「チャットボットはイントラネット上に実装した。アクセスできるのはアクセス権限を持つ従業員に限られる」。
セプテーニのスエフジ氏もAIの実証実験を阻む障害について指摘している。特に、データの所有権、その共有の可否、共有方法などは、AIの学習を制限しかねない問題だという。
「広告主、メディア企業、エージェンシーなど、各利害関係者がそれぞれ独自のデータを所有している」とスエフジ氏は話す。「当事者のあいだでオープンなデータ共有ができなければ、すべての当事者の利益になるような方法でAIシステムを訓練することは難しくなる。この障害を克服すれば、AIによる自動化とその効果はさらに加速するだろう」。
一方、ブランド戦略の専門家であるシェイ・オノリオ氏は、「マーケティングの観点から見れば、AIやチャットボットが常に適切なツールであるとは限らない」と指摘する。AIがブランドを理解する能力や、何かを創作した際に、それを創作した理由を説明する能力には依然限界があるのだという。
「AIはおそらく、あなたがどんな質問をしても、答えを返すことができるだろう」とオノリオ氏は話す。「しかし、なぜその一文を書いたのか、なぜその言葉を使ったのかといった文脈や理由を説明することはできない。また、あらゆる企業の支柱ともなるブランドの『なぜ』を説明することもできない」。
確かに、AIはほんの短い期間に大きな進歩を遂げはしたが、エージェンシーやクライアントの内部的または外部的な構造にAIを組み入れるには、まだ少しばかり学習が足りないようだ。
Antoinette Siu(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)