- エージェンシーは、DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みを強化し、クライアント向けにDEIの専門知識と戦略を提供する新しい段階に進んでいる。
- 一部のエージェンシーは、クライアントのインクルージョンなブランド構築をサポートするサービスを開発し、DEIプログラムを拡大している。
- DEIはエージェンシーに競争上の優位性をもたらし、多様性に焦点を当てたプロジェクトやプログラムも増加傾向にある。
近年、エージェンシーは多様性、公平性、包摂性(英語の頭文字をとってDEIと略される)の取り組みを強化しようとしてきた。
これまで、その内容は採用や研修、コミュニティとのパートナーシップ構築、DEI関連の進捗の定量化といったものだった。そして現在、一部のエージェンシーは自社のスタッフの多様性や内部プログラムだけでなく、新しいサービスを通じてクライアントにDEIの専門知識と戦略を提供する段階に移行している。
22スクエアド(22Squared)の親会社であるガイデッド・バイ・グッド(Guided by Good)のチーフインクルージョンオフィサーであるジャニス・ミドルトン氏は、エージェンシーが社外にDEIの取り組みを拡大することを自然な流れと見ているようだ。
各エージェンシーのDEIは異なる段階
エージェンシーの多くは2020年と2021年にDEI取り組みの勢いを増し、各種プログラムを開始してダイバーシティ担当者を任命するなどの動きを強化したが、業界が実際にどれだけの進展を遂げているのかについては、まだ疑問が残っている。
「(我々のサービス)は、自社やクライアント、そして今後のクライアントが持つギャップを埋めるために存在しており、これらのギャップ(を埋める作業)はニーズとして存在している」とミドルトン氏は語る。「これが(業界における)次の大きな波だ。この波はしばらく留まるだろう。10年や15年前のようには消え去らない」。
それぞれのエージェンシーが、DEI取り組みの向上において異なる段階にある。ジョージ・フロイド氏の事件をきっかけに行動を起こしたエージェンシーと、既に多様性プログラムを主導してきたエージェンシーとが存在するが、パブリシス(Publicis)傘下のスパーク・ファウンドリー(Spark Foundry)でチーフストラテジーおよびカルチュラルフルーエンシーオフィサーであるエスター・E.T.フランクリン氏は、「エージェンシーがどこから始めたかに関係なく、成功は可能だ」と主張する。
「3年前にジョージ・フロイド氏殺害事件を受けてプログラムを開始した会社が、今もっとも困難に直面しているようだ」とフランクリン氏は語り、「しかし、(殺害事件に対する)反応として始めたからといって、成功しないわけではない。組織がその勢いとエネルギーを保ち続けるためには、より意図を持って焦点を絞り、指示を出す必要がある」と付け加えた。
22スクエアドの取り組み
ことし3月、22スクエアドはクライアント向けの「エンブレイス(Embrace)」というサービスを開発し始めた。これは、クライアントのブランドがインクルージョンな仕事や文化、ワークショップを築くのを支援することを目標としたものだ。そして8月、同社はメディアチーム、クリエイティブチーム、制作チームと協力しながら、ピッチから戦略の概要までブランドを支援するものとして、新しいインクルージョン戦略をクライアント向けのサービスとして正式に追加した[続きを読む]
- エージェンシーは、DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みを強化し、クライアント向けにDEIの専門知識と戦略を提供する新しい段階に進んでいる。
- 一部のエージェンシーは、クライアントのインクルージョンなブランド構築をサポートするサービスを開発し、DEIプログラムを拡大している。
- DEIはエージェンシーに競争上の優位性をもたらし、多様性に焦点を当てたプロジェクトやプログラムも増加傾向にある。
近年、エージェンシーは多様性、公平性、包摂性(英語の頭文字をとってDEIと略される)の取り組みを強化しようとしてきた。
これまで、その内容は採用や研修、コミュニティとのパートナーシップ構築、DEI関連の進捗の定量化といったものだった。そして現在、一部のエージェンシーは自社のスタッフの多様性や内部プログラムだけでなく、新しいサービスを通じてクライアントにDEIの専門知識と戦略を提供する段階に移行している。
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22スクエアド(22Squared)の親会社であるガイデッド・バイ・グッド(Guided by Good)のチーフインクルージョンオフィサーであるジャニス・ミドルトン氏は、エージェンシーが社外にDEIの取り組みを拡大することを自然な流れと見ているようだ。
各エージェンシーのDEIは異なる段階
エージェンシーの多くは2020年と2021年にDEI取り組みの勢いを増し、各種プログラムを開始してダイバーシティ担当者を任命するなどの動きを強化したが、業界が実際にどれだけの進展を遂げているのかについては、まだ疑問が残っている。
「(我々のサービス)は、自社やクライアント、そして今後のクライアントが持つギャップを埋めるために存在しており、これらのギャップ(を埋める作業)はニーズとして存在している」とミドルトン氏は語る。「これが(業界における)次の大きな波だ。この波はしばらく留まるだろう。10年や15年前のようには消え去らない」。
それぞれのエージェンシーが、DEI取り組みの向上において異なる段階にある。ジョージ・フロイド氏の事件をきっかけに行動を起こしたエージェンシーと、既に多様性プログラムを主導してきたエージェンシーとが存在するが、パブリシス(Publicis)傘下のスパーク・ファウンドリー(Spark Foundry)でチーフストラテジーおよびカルチュラルフルーエンシーオフィサーであるエスター・E.T.フランクリン氏は、「エージェンシーがどこから始めたかに関係なく、成功は可能だ」と主張する。
「3年前にジョージ・フロイド氏殺害事件を受けてプログラムを開始した会社が、今もっとも困難に直面しているようだ」とフランクリン氏は語り、「しかし、(殺害事件に対する)反応として始めたからといって、成功しないわけではない。組織がその勢いとエネルギーを保ち続けるためには、より意図を持って焦点を絞り、指示を出す必要がある」と付け加えた。
22スクエアドの取り組み
ことし3月、22スクエアドはクライアント向けの「エンブレイス(Embrace)」というサービスを開発し始めた。これは、クライアントのブランドがインクルージョンな仕事や文化、ワークショップを築くのを支援することを目標としたものだ。そして8月、同社はメディアチーム、クリエイティブチーム、制作チームと協力しながら、ピッチから戦略の概要までブランドを支援するものとして、新しいインクルージョン戦略をクライアント向けのサービスとして正式に追加した。
ミドルトン氏が新しいプロジェクトを主導するなかで、エンブレイスは同社内での取り組みとしても統合されるとともに、潜在的なクライアントのために「アラカルト」形式で提供される。目標は、多様性の取り組みにおいてクライアントの現状を理解し、そこからさらに構築することだ。歴史あるブランドから新しいブランド、インフルエンサー主導のビジネスまでさまざまな企業を対象とすることを目指しているという。
同社が社内のDEIの目標に向けて進展を遂げるなか、ミドルトン氏は「エンブレイス」を拡大するのに適切なタイミングだったと語る。「もちろん取り組みに終わりはないものの、約2年前、当社は(DEIの状況に関して)よい状態にあることを感じ始めていた」とDIGIDAYに話した。「我々自身がもっともよい事例だと思った。だから、自分たち自身のためにやってきたことを抽出し、クライアントのために何ができるかを考えようと思った」。
「エンブレイス」は、DEI関連でクライアントを導くための3つの柱を提供する。人、文化、そして事業面の必要性だ。しかし、クライアントがバスキンロビンス(Baskin Robbins)であれパーティシティ(Party City)であれ、DEI戦略はどのようなクライアントでも「コピー&ペースト」できるものではない。
「エージェンシーがデータ、感情、そしてクライアントの要望に注目する必要があるのはまさにこれが理由だ」と、ミドルトン氏は述べる。それは、広告を制作する際の敬意を払うこと(appreciation)と、模倣し利用すること(appropriation)」の違いについての対話を持つことを含むかもしれない。
また、クリエイティブチーム、アカウントチーム、制作チームと、文化におけるレプリゼンテーションや包摂性(インクルージョン)についての話し合いをすることにつながるかもしれない。ミドルトン氏は、「インクルージョンは長期的な取り組みだ」と述べている。
DEIがビジネス上の必須となる
ホライズン・メディア(Horizon Media)では、DEIは人材とカルチャー機能としてのHRから、企業全体のビジネス機能としてのマーケティング部門に移行した。「これは、イノベーション、クライアント向けソリューション、製品開発を推進するものだ」と、同社の最高マーケティングおよびエクイティオフィサーであるラトラヴィエット・スミスウィルソン氏は語った。
「DEIのビジョンと戦略は私のチームの主導の下になるが、その実施は組織全体の全員の責任でなければならない」とスミスウィルソン氏は付け加える。
ホライゾンは、経理であれ、法務であれ、IT部門であれ、クライアント部門であれ、自社の従業員たちが自分たちの役割におけるDEIの理解と、適用を進めるためのシステムの構築を続けている。これを追跡するための指標として、従業員による匿名の調査から、インクルージョンスコア、感情、コミュニティタッチポイント、内部の流動性などのKPIを通じた追跡が行われると、スミスウィルソン氏は言及している。
同社の多文化部門は、クライアントやパートナーに助言を提供するとともに、エンブレイスプラットフォームの開発を続けている。このプラットフォームは広告主のDEI戦略開発のための議論やエンゲージメントを「文化的な公平性というレンズを通して」支援するためのクライアント向けのツールだ。
広告主のDEI戦略開発という点では、メディアおよび投資計画に先駆けて駆使されるものだ。スミスウィルソン氏は、「エンブレイスは、アジア、黒人、ヒスパニックに関する洞察に焦点を当て、より公平なサンプルを生成するために、人口ベースの調査やパネルの結果を再調整および再評価する」と述べている。
スパーク・ファウンドリー、パブリシス・メディアの事例
同様に、スパーク・ファウンドリーでのDEIの取り組みは、2016年から「文化の精通度/文化に関する流暢さ(cultural fluency)」をガイドとして行ってきた。「観客がこれまでになく多様になってきたのが理由だ」と、フランクリン氏は説明する。グループ全体で、同社は多文化の専門家を活用し、より多くのコンテンツや供給者の多様性を構築することを目指してきた。クライアント側では、これらのオーディエンスを複数の評価基準や機能を通して特定することに焦点を当てているからだ。
「私たちは誰について(どのオーディエンスについて)話しているのか?」とフランクリン氏は問いかけ、こう続ける。「私たちが話すべき対象は誰なのか? カテゴリーにすでに存在する人々を理解すること、そしてブランドとその成長がどこから来るかを理解することが重要だ。それが私たちが行うことの最初の段階だ」。
2021年、パブリシス・メディア(Publicis Media)も、ワンスフォーオール連盟(Once & For All Coalition)という名前で、社会から支援や注目を奪われる傾向にある多文化のサプライヤーたちのレプリゼンテーションを増やすための複数年プロジェクトを開始した。
同連盟のメンバーはパブリシスのクライアントでなくとも、同社のソリューションを活用することができる。マイノリティ所有もしくはマイノリティをターゲットとするメディア供給に投資し、マイノリティクリエイターを開発し、ベストプラクティスを作成することを目的だ。
競争上の優位性
「今後、エージェンシーが提供するサービスにDEIを組み込むことは、ビジネスを獲得するための優位性をもたらすだろう」と、4A’sのタレントエクイティおよび学習ソリューション部門エグゼクティブバイスプレジデントであるターリシャ・ウィリアムズ氏は述べる。ウィリアムズ氏は、エージェンシー全体で事業機会を見つけ、多様性関連のサービスを作成する努力がより広がりを見せていると語った。
業界内で、4A’sは多文化なバックグラウンドを持つ人材の開発に焦点を当ててきたが、ウィリアムズ氏によれば、人材維持はまだ課題であるようだ。彼らの多文化広告インターンプログラム(Multicultural Advertising Intern Program)は、若い多様性のある広告業界プロフェッショナルのための年次人材開発プログラムを最近完了した。22週間にわたるこのプログラムは今年で50周年を迎えている。
ウィリアムズ氏は、こうしたプロジェクトがブランドの多様性取り組みを測定するためのAIツールやダッシュボードの開発、またはクライアントをDEIに取り組ませるためのガイド作成など、エージェンシー自体の学習の機会となると考えている。
「彼ら(エージェンシーたち)も学んでいる、それは彼らにとっての教育だ」とウィリアムズ氏は言う。「このことは進化を導く。なぜならエージェンシーは、多様な国民に対応するためにクライアントに準備をさせているからだ」。
[原文: Media Buying Briefing: Agencies expand their DE&I goals and offer their expertise to clients ]
Antoinette Siu(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)